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第二十三話 仮面

「ちょっとごめんね」



「かっ…………」



 冬美は巡回中だった女性警備隊員の首を、右手の人差し指と親指で挟み、素早く力を込めた。女性は、瞬間的に呼吸困難に陥り、失神した。


 世界によってはどうゆう原理なのか手刀で首に衝撃を与えるだけで失神するが、ほとんどの世界はそう簡単にはいかない。一瞬にせよ、呼吸困難に陥らせることが一番確実な方法だ。



「んじゃ俺、あっち向いてるから」



「よろしく」



 冬美は素早く女性の服を脱がせて、自分の衣服と交換する。帽子をかぶれば、冬美も警備隊員の仲間入り。


 女性を目立たないように無造作に置かれているゴミ箱の横に、そっと横たわらせた。


 再び綾人のもとに戻り、周りに人がいないか確認する。



「カルーソー、終わったよ」



「おけ」



 綾人はあらかじめ用意されてあった偽装した警備証を冬美に手渡す。冬美はそれを笑顔を浮かべながら受け取り、突然綾人を地面に組み伏せた。


 綾人は苦悶の表情を浮かべながら、さっき手渡したものとは別の警備証を冬美のポケットにねじ込む。



「あなた、警備証を偽装するなんて、なかなかあくどいことをやるわね」



「悪かった悪かったって! 離してくれよ腕折れそうだからっ!」

 

 

 冬美は喚く綾人を無視して、その両手に素早く手錠をかける。強引に立ち上がらせ、無理やり歩かせるその様子は、完全に犯罪者を連行する警備隊員そのものだ。


「全く。 こんなわかりやすいもの作るなんて馬鹿じゃないの?」



「金がなかったんだよ」



「これが本物! 君の作ったやつとは何もかも違うじゃん。 合ってるのは写真と名前の位置だけだね」



「ちっ」



 後から入れられた警備証を取り出す。冬美は数秒間綾人に見せ続けたあと胸ポケットにしまい、もとから入っていた気絶させた女性のものを胸ポケットから袖の中に移す。



「てめぇ絶対解放されたら殺してやるからなっ!」



「はいはい。 虚勢を張れるのも今のうちだよ」



 そうして、ズルズルと役所の中へと連れて行かれる綾人。お互い完全に役に入り切っている。


 冬美は受付で手続きを済ませ、今度は正規の手段で綾人と共に侵入することができた。向かう先はもちろん、取調室だ。



「あんた、みない顔だけど?」



 早速疑いの目を向けられる冬美。しかし堂々とした様子で男に警備証を突きつける。



「新人の顔ぐらい覚えてくださいっ」



「生意気なガキだな。 取り調べはやっておくからさっさと調書作成してこい」



「は〜い」



 と、あっさりとおいていかれてしまう綾人。ぎこちない笑顔で男を見る綾人には冷や汗がびっしり。



「おまいさん、運が悪かったな」



 超強面の男は、ぶっといタバコに火をつけて、綾人の肩に手を乗せた。


 これから地獄の取り調べが始まる。


****


 綾人がやってもない罪を必死に考えている頃、冬美はゆっくりとお茶を飲みながら同期の新人と仲よく談笑していた。流石桜子の弟子といったところか、冷徹な部分が少し似ている。


 幸いなことに、新人同士の顔合わせはまだほとんどやってなかったらしく少しだけ疑いの目を向けられていたがそれ以降は問題なく溶け込めていた。


 冬美には、綾人にも伝えていない情報を隠し持っていそうだ。実をいうと、現場を見に行ったあとのここまでの流れは、冬美が独断で始めたことであり綾人には一切話していない。それでも一緒に芝居してくれたのは、長年の間、築かれていった信頼のおかげなのだろう。


 しかし、偽装警備証に関しては、冬美もよくわかっていない。あらかじめ用意されていたものの中にあったのは確かだが、なぜわざわざ綾人はそれを持ち歩いていたのだろうか。


ーーーー話し合いもなにもしていないのにーーーー



「じゃあ私、頼まれてたことあったからやってくるね」



 冬美はそう言って部屋を出ると、昨日侵入した資料室兼緊急会議室に堂々と入り、目的の資料を手に取る。今余計な心配事をするのは良くない。


 今回の冬美の目的は、重要そうな資料を記憶媒体に記録することだ。太もものナイフホルスターから超小型の転写機を取り出し、一枚一枚シャッターを切る。

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