第二十二話 魔法と男
血痕の状態と新たに入手した発見当時のより詳細な情報が書いてある写真から、犯人は被害者を殺害したあと、しばらくそのままにしてからバラバラにしたと考えられる。
情報を入手したあと、再び綾人と冬美は現場に戻ってきた。
「結構あっちこっちに散らばっているな」
「魔法か何かで浮き上がらせてからバラバラにしたんじゃない? 血しぶきもそんなにないみたいだし」
「でも転入者は魔法が使えないはず」
調べていくうちに新たな謎が増えていくばかりだ。このままでは埒が明かないと思った綾人と冬美は、現場から一度離れることにした。
しばらく歩くと、冬美は被っていたフードを上げ、空を見上げた。
「晴れてきたね」
「そうだな。 ……いや、あれは魔法?」
「嘘でしょ?」
雨粒がなくなった原因は天気が良くなったからではなかったらしい。たしかに空は青々としているように見えるが、まだ中心からは雨雲が見えている。だがそれは少しずつ幅が狭まっている。
耳を澄ますと、かすかに雨音が聞こえている。しかしそれは地面に雫が叩きつける音とは違って、中が空洞な器に雫があたっている音に近い。
「あ、雨雲が見えなくなった」
「こんなに大規模な魔法があるのか」
雨が暫くの間降っていたのは魔法の展開に時間がかかったからと予測する。おそらく犯行現場を覆っていたものと同じ原理なのだろう。
綾人達が思っていたよりも、魔法のことに関してだけはものすごく発展している世界だったらしい。
「おばあちゃん、あの魔法はどこからでてるの?」
冬美は好奇心を押さえることができず、つい近くを歩いていたおばあちゃんに声をかけていた。
声をかけられたおばあちゃんは親切に教えてくれる……と思いきや、首を傾げ不思議そうな表情を浮かべた。
「何を言ってるんだい?」
「いや、今空の上にある、雨を凌いでいる魔法のことだよ?」
「魔法? ただ雨がやんだだけじゃないか。 おかしなことを言う子だね」
おばあちゃんはくすくすとおかしそうに笑いながら去ってしまった。どうやら一般人にとっては当たり前のことで、魔法が関係しているとは知られていないらしい。
大規模すぎるあの魔法は、人の手で行われているのではなく機械かなにかで行っているのだろうか。それとも秘密裏に行われていて、実は重要な役割を担っているのだろうか。
「いずれにせよ、任務には関係ないな」
綾人は広がりかけていた思考を打ち切り、呆然と空を見上げたままの冬美の肩を叩く。
「とりあえず、役所に行くぞ」
「わかった。 もし仕事が早く終わったら、この謎解明しようねっ」
「終わったらな」
冬美の今の様子をあんずの姿と重ねてしまった綾人は、あまりにも似ている様子だったものでつい妹であるあんずにしているのと同じように頬を両手で挟み込んでしまった。
「…………今、あんずちゃんのこと考えてるでしょ」
「あ、ごめんつい」
「いいよ〜」
自分の無意識な行動に恥ずかしさをおぼえた綾人は、すぐに手を離そうとしたが冬美に手首を捕まれ、両頬に戻される。
「そんな悪い気はしないし」
冬美の表情は綾人からは見えないが、少しうれしそうな気配を感じた。綾人は苦笑しながら、冬美の頬を挟む手に少しだけ力を入れた。
****
そんな二人の様子を、建物の影から覗いている男がいた。
男はリゴンを弄びながら鋭い視線を向け続ける。その後ろには果物屋の店主が血を流しながら倒れている。息をしている様子は、残念ながらない。
男が店主を一瞥すると、死体は血溜まりとともに、まるで路面に溶け込むように消えていった。まだ昼前で見つかる可能性が高いと感じたのか、魔法で隠したらしい。
「こんなに早くネズミが追っかけてくるとは。 上の奴らは何をしてるんだ?」
弄んでいたリゴンを下に思いっきり叩きつける。男は舌打ちをしながら歩き始めた。
「もう少し遊んでから相手してやるからゆっくりこいよ」
男は人通りの少ない路地裏で、高らかに笑った。




