第十八話 お馬鹿さん
「それじゃ、まずは反乱を企んでいる人たちのところに案内してくれ」
「了解。 あや……カルーソーならそう言うと思った」
「まぁな」
綾人は冬美の先導のもと、役所ではなく先に午後に交渉した相手のいるであろうアジトへと向かっていた。場所は昼間とは違ったがどうやら冬美は密かに尾行していたらしく、すでにアジトがどこなのかわかっているらしい。
「流石にこんな貴重なもの、レプリカで渡してくるよね」
「それもあたかもきちんと動作しているかのような偽の魔法をかけてな」
渡された石のような見た目の道具はレプリカだと、渡された瞬間から見抜いていたらしい。そして、反乱を企んでいるものの中には魔法が使えるものがいることも。
初めてあった人にたった数時間の交渉だけで快く貴重なものを渡してくるはずがない。ましてやこの世界を形作っている魔法の力を根源から覆すようなものを。
「悪い企みする人はみんな同じような考えだからね」
「おかげさまでリスクを負わずにすむけどな」
綾人達は走りながらフェイスマスクをつける。全員を始末するわけではないので顔を覚えられないようにするためだ。
役所の横を通り過ぎ、しばらく走ると、古い教会みたいな建物がある。冬美はその裏口のドアを開け、そこから敷地内に侵入した。綾人もそれに続く。
侵入したところは庭みたいになっていて小さな噴水とベンチが一つだけある。冬美はそのベンチをずらし、噴水近くにある四つの穴にそれぞれ脚をはめた。穴の位置は完全に一致していた。
「へぇ、音もなく高度な技術だな」
「罠とか気をつけたほうがいいかもね」
噴水の水がすべて抜かれ、新たに入口らしきものがもともと水の張っていた場所に現れた。石が動いているはずなのに音が一切ならなかった。かなり腕のたつ職人が協力しているのだろう。油断は禁物だ。
「奥に数人いる」
「こっちには気づいてなさそうだね」
話し声がかすかに聞こえる。声の雰囲気的になにか話し合っているようだ。反乱の計画でも立てているのだろうか。
綾人達は足音を立てることなく、走って階段を降りていき最終段付近の壁に背中を当てて様子をうかがう。
「それにしても昼間の女馬鹿すぎじゃね?」
「それなっ! あんなに疑ってたくせに実物見せたら大金払って買っていきやがった」
「俺、隣で見てて笑いそうになったぜ」
「だよなぁ!」
獰猛で薄汚い笑い声を上げる男達。そこに、我慢できず乱入してしまう冬美を、綾人は止める事ができなかった。前に出した綾人のつま先に、冬美がさっきまでつけていたフェイスマスクが被さる。
「筋肉バカは見張りを立てるという考えも湧かないのですね」
「あぁ?」
静かな怒りを発している冬美から、まるで直接冷気でもかけられているかのように綾人を震え上がらせた。
「そんなお馬鹿さんに、いいことを教えてあげます」
「何言って…………」
冬美は男の話を最後まで聞くことなくお腹をそのへんに落ちてた鉄の棒で殴った。それを皮切りに目で追えないほどの速さで次々とお腹を狙って殴り、あっという間に一人を残して地面に這いつくばらせた。
「尾行に気付かなかったお馬鹿さん、本物はどこに?」
「へっ、教えるかよ」
「大丈夫です。 馬鹿な私でもどこにあるのかわかったので」
そう言うと冬美は、男を蹴り飛ばし背後にあった頑丈そうな箱に向けて鉄の棒を思いっきり叩きつけた。中から出てきたのは、取っ手のついた円柱型の道具だった。
「一つだけか」
冬美は手に持ち、天井の明かりに向けると、近づいていないのに明かりが消えた。
「どうやら本物みたいね」
「返せっ!」
男が掴みかかってくるが冬美はその顎を蹴り飛ばし失神させた。今回、綾人の出番はなかった。
「行こっか」
「う、うん」
「まさかレプリカではなくただの石なんてね」
「あ、あぁそうだな」
絶対に本気で怒らせちゃダメだと、再び心に誓った綾人である。普段穏やかな人ほど、怒らせるとマジで怖い。




