第十七話 慰撫
「ただいまぁ〜」
「おかえり」
冬美は夕方頃に帰ってきた。先に帰ってきた綾人はやや疲れている様子の冬美に、道中で買った果物を差し出す。
「なにこれ?」
「リゴンっていう果物だってさ。 糖分と水分補給にいいかなと」
「ありがと」
さっそくかじりつく冬美。シャリッと結構いい音が、暗くなりかけている部屋に響いた。
「これ結構美味しいね。 綾人くんはもう食べたの?」
「食べたよ」
あっという間に一個食べきった冬美は伸びをすると、さっきまでのゆるふわな雰囲気を消して仕事モードに入った。
「準備はどう?」
「とりあえず必要そうなものはベッドに置いといた。 確認して」
「分かった」
綾人にしか部屋の鍵は開けられないので冬美の前に出る。手早く鍵を開けて部屋の中を見せる。
「うん。 必要なものはすべて揃ってるかな」
「侵入の仕方は?」
「外壁をよじ登る。 ただ魔法がかけられているから今回はこの道具を使うよ」
ポケットから取り出したのは、奇妙な形をした見慣れない石みたいなものだった。
「それは?」
「この世界で反乱を起こそうとしている人たちから買い上げたの」
「そっか。 確かに、魔法が使えない人たちは結構冷遇されてるからな」
「綾人くんも裏路地に入ったんだね」
正直あれは見てられなかった。こんな道具が流通しているのであれば、反乱を起こすのもそう遠くはないだろう。今日決行しようとしていても不思議ではない。
下手するとターゲットも、その混乱に乗じて手が付けられないほど暴れまわるかもしれない。
「急いで見つけないとまずそうだな」
「そうだね」
綾人は眉間に深いシワを寄せて、難しい顔をした。実際、これといった手がかりが見つからない上に更に心配事が増えたのだから致し方がないだろう。
冬美は、そんな綾人の眉間を、人差し指で押す。その顔はもう仕事モードではなく、幼馴染としての優しい笑顔が浮かんでいた。
「事が起こるまではあまり心配しないほうがいいよ?」
「…………そうだな」
今は情報収集だけに集中しよう。綾人はそう思い直した。反乱が起きても必ずしもそこに乗ずるとは限らない。それに役所に侵入すれば、なにか見つかるかもしれない。
「ありがとな」
「どういたしまして。 飲み物入れてくるね」
冬美が持ってきた飲み物はちょっと薬の味がする紅茶みたいな飲み物だった。不思議と心が落ち着く。
「これ美味しいね」
「そうだね」
気持ちを切り替えるには最適な飲み物だ。もともと冷蔵庫には入っていなかったものなので冬美が帰り道かなんかで買ってきてくれたのだろう。もしかしたら、さっきまでの綾人の状態を予想していたのかもしれない。たぶん考えすぎなのだろうけど。
のんびりとした時間を送り、食事など日常的なことを済ませたあと、綾人達は任務を遂行するまでの時間、体力回復のためそれぞれ一時間ずつ仮眠を取ることにした。




