第十三話 偽装工作
冬美の次に風呂に入った綾人は、換気扇に紙が挟まっているのを見つけた。組織からだろう。綾人は洗面所に誰もいないことを確認してから紙を開いた。
『コンカイノニンムハセンニュウニンムノタメイチジニダイヤクニンヲハケンスル』
代役人とは、綾人達が別の世界に潜入している間、その代わりを演じる者である。口癖から動き、時間の使い方、考え方までも完全に真似するため家族の中でも見破られることはない。基本的には専属配置である。
綾人は紙に冷水のシャワーを浴びせた。紙はすぐに溶け、目に見えない粒となり排水口へと流れていった。
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綾人が風呂から上がったあと、三人でカードゲームをしてそのまま寝落ちした。そのうちの二名は、あんずを寝落ちさせるための演技だったが。
「ぐっすり寝てるね」
「全く。 幸せそうな顔しやがって」
「綾人くんのおかげだね」
「なわけ無いだろ。 ……冬美、ちと手伝ってくれ」
「私としてはそのままでもいいんだけどなぁ」
「あやばい、感覚がなくなっていく」
「はいはい。 ちょっとまってね」
あんずは、綾人の腕に抱き枕のようにしがみついている。触れている面積が広いので一人では脱出できない。
冬美に手伝ってもらいながらなんとか起こさずに脱出することができた。
「それじゃ、俺の部屋に」
小声で話すと冬美は無言で大きく頷いた。そのまま綾人と冬美は階段を忍び足で上る。
部屋に入ると、机の上に二人分の服が置いてあった。そして、中にはすでに先客がいた。例の綾人と冬美の代役人だ。
「待ちくたびれたんだけど。 喉乾いたからお茶もらったわよ」
「僕は止めたんだけどね」
女性は腕を組み、右手の人差し指をとんとんしている。一方その隣りにいる男性はそんな相方をなだめるかなようにやんわりとした口調で話している。
「あの〜、今回はどんな任務ですか?」
「しらないわ。 本部に行ってから説明されるんじゃないかしら」
「そうなの綾人くん?」
綾人はまだ詳しい説明をしてなかった。冬美に二枚の紙に書いてあったことを伝えようとすると、男性がそれを遮った。
「ちょっとごめん。 少し時間が変わったから僕から説明するよ」
と、一から説明をしてくれた。変わったことといえば、全体の時間が十分遅くなったことくらいだった。
「時間も惜しいからそろそろ着替えて頂戴。 あ、見たら殺すからね?」
「「見ねぇよ」」
男二人同時に言い返した。紳士としてあるまじき行為だからね。
綾人と冬美は、それぞれ着替え始める。見るなといった本人がこちらをまじまじと監視しているので、男は綾人の体を隠すように、監視の視線を背中に受けながらジャケットを広げ綾人の後ろに立っている。
着替えが終わると代役人二人は、その役目を果たすためさっそくあんずが眠る一階へと降りていった。
「じゃ、私達もちょっと早いけど本部に向かう?」
「そうだな」
綾人達も部屋に隠してある靴を取り、窓から音なく下に降りる。ちなみに冬美の靴は、代役人が家から持ってきてくれたものである。
二人は家から準備運動がてら走って昨日と同じルートを通る。普段はあまり目立ちたくないためここまで早くは走らないが、今は誰の視線もないため訓練で身につけた走りを思う存分出すことが出来る。




