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ようこそ異世界転生局のウラガワへ

 目が覚めるとそこは、青い水晶体の中に入ったような不思議な光が反射する場所だった。


 ついさっき僕は猫をかばおうと道路に飛び出し、トラックに轢かれた。かなり大きな衝撃を感じたから大怪我しているはずなのに今は傷ひとつ見当たらない。それどころか、現実ではありえないような神秘的な場所にいる。


 これは、どういう状況なのだろう。もしかして僕は、死んでしまったのだろうか?



「ようこそ、死後の世界へ」



 そんな考えが湧いてきた数秒後、僕の考えを肯定する言葉が、突然現れた五十段くらいありそうな階段の上から聞こえた。


 服をめくり、傷ひとつない自分の体をまじまじと見ていた視線を上にずらすと見えてきたのは、玉座に妖艶なオーラを纏って座り、足を組んでいる女性だった。


 純白のロングドレスに頭上に金色のリングがあるところを見ると天使か女神だろう。背中を見たら羽が生えてるかもしれない。



「あなたは残念ながら車に轢かれて体がばらばらになって死んでしまいました。 ちなみに、あなたがかばった猫は無事でしたよ」



「そっか。……よかった」



 僕は、胸をなでおろした。体がバラバラになって死んだという言葉にゾクッと寒気がしたけど。


 普通の人なら自分が死んだという事実に何らかの反応を見せるのだろう。でもそんなことよりも、猫が無事だったことに安堵した。


 水晶版のようなものを見ながら発せられた言葉には姉のような暖かさがあり、なんか暖かい空気にまとわれたような感じがした。



「あなたはいくつかある世界の中で、一つだけ転生することができます。 どんなところに転生したいか、今ここで決めてください」



「……少し考えてもいいですか?」



「どうぞごゆっくり」



 女神さんは浅くうなずき、指を鳴らし椅子を出してくれた。僕はそこに腰掛け、腕と足を組んだ。


 僕は考え事をすると、一時間も二時間も考え込んでしまうくせがあっていつも周りの人を困らせてしまっていた。それは今回も例外ではなかった。


 僕は不自然なくらい冷静になっていた。


 ここには時計が見当たらないからどれほど時間が立っているのかわからないけど、ひとつたしかなのは、僕の考えがまとまる頃には、女神さんが待ちくたびれて寝てしまうほどの時間は経ってしまったということだ。



「おまたせしてしまってすみません。 決まりました」



「うみゅっ。 は、はいっ! どんな世界をお望みですか?」



「獣耳がたくさんいる世界に、お願いします」



「わかりました。 それでは、いってらっしゃいませ」



 そう、女神さんが言った瞬間、僕の体は青白い炎に包まれた。すこし、温かいそれに身を任せると、だんだん意識が遠のいていく。


 さっきの女神さんから最初に感じた姉のようなオーラに似合わないような驚き方をしていたのが頭から離れず、ついにやけてしまうのを抑えながら右側をちらっと見る。


 意識が完全に消える瞬間、視界の端に苦笑いしている男性の姿が見えた気がした。でもそれはほんの一瞬のことで、本当にそこに男性がいたのかどうかは、確信が持てない。




****



 綾人は、一人の高校生くらいの男子が、異世界へ転生されるところを見送ってから、柱の陰から再びうとうとし始めている女性の元へ歩を進める。


 一瞬、転生された少年が綾人の方を見た気がしたけど、転生される人は転生を実行した人以外は見えないはずなのできのせいだろう。



「おつかれさま」



「あ、綾人くん」



 眠たそうに右目を擦る女性の名前は高岡冬美。ぬいぐるみが好きな礼儀正しいひとだ。



「そういえば綾人くん、もう補習終わったの?」



「もちろん」



 綾人と冬美は、剣術高等学校に通っている。剣術学校には三つのランクがあり、初等、中等、高等に分けられている。初等は六年間、中等及び高等はそれぞれ三年間通えば、剣術認定書がもらえ、剣を使った仕事につくことができる。


 また、剣術学校は剣術だけではなく、一般常識の勉強や転生に関する勉強、体術などの軍事に関する勉強なども合わせて行う。



「そういえばなんの補習だったの?」



「二年生男子全員で抜き打ち剣術テスト」



「そうなんだ。 私も二年生になったら抜き打ち転生テストとかあるのかな?」



「いや、転生は無理だろ」



 綾人と冬美は中慎ましく笑う。


 ちなみに冬美は綾人より一歳年下である。学校では二年生、一年生と先輩後輩に分かれているため、礼儀正しい冬美は人前では綾人にも敬語を使っている。


 純白のロングドレスにピンクの花の髪飾りがよく目立つ女性転生人の正装姿の冬美とブレザーにズボンの制服姿の綾人の身長差はちょうど十センチ。一見、恋人同士に見えるこの状態(実際は違うが)にむやみやたらに近づいてくる人はいないだろう……ただ一人を除いて。



「お兄ちゃんやっと見つけたっ! 一緒に買物付き合ってって言ったのになんで先帰るのっ!!」



「ごめんすっかり忘れてたわ」



「む〜」



 綾人と冬美の二人だけだった空間に息を切らして乱入してきたショートパンツにTシャツという大変ラフな姿の少女は、綾人の妹であり、剣術中等学校二年の風早あんず。

 おてんばな性格で寝言はほとんど食べ物ばかりの活発な少女である。



「冬美さん、こんにちはっ!」



「っと、こんにちは、あんずちゃん」



 あんずは冬美を見つけるや否や、ダッシュで近づき冬美の胸に飛び込んだ。


 冬美はあんずが飛び込むのは日常茶飯事なので身構えており、そのおかげで後ろに倒れることは免れたが、それでも勢いは吸収しきれなかったのか、一歩右足を後ろに引いた。


 あんずは冬美に抱きついたまま、綾人に向かって話しかける。冬美の胸に顔を埋めたまま話してくるから大変聞きづらい。


 

「そういえば二人で何話してたの?」



「冬美が仕事終わったから少し話していただけだよ」



「そっか〜」



 抱きつかれたままの冬美は結構強めの力で抱きつかれているのか、若干青ざめている。


 綾人は苦笑いを浮かべながらあんずの制服の襟を鷲掴みにし、ズルズルと引きずり離した。


 締め付けられていた状態から開放された冬美は、大きく深呼吸をして、抱きつかれている間吸うことができなかった酸素を補充するかのように何度も深呼吸を繰り返した。


 いつの間にか思ってた以上に時間が経ってたらしく、5時30分を告げる音楽が流れ始める。買い物の予定がある綾人とあんずはそろそろ行かないと晩御飯の準備が遅れてしまう時間帯だ。



「それじゃ、俺たちはそろそろ買い物してくる」



「うん。 また明日」



 綾人は冬美に挨拶をすると、あんずの襟首を掴んだまま引きずりながら歩き始めた。



「……お兄ちゃん、なんであたしは引きずられたままなの?」



「離したら別れのハグとかなんとか言って冬美に抱きついて時間食うつもりだろ」



「む〜」



 膨れ顔のまま連れて行かれるあんずを見ていた冬美は、そのシュールな光景に笑いそうになるのを必死に抑えていた。綾人は口パクでもう一度挨拶をすると冬美もかえしてくれた。ちゃんと伝わっているかわからないけど。

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