狩りの裏側で
セレナイト学園魔法交戦大会予選突破参加者一六名(魔法戦詳細は別紙)。
セレナイト学園魔法交戦大会第一回戦突破参加者八名(以下詳細)。実技試験型。
申込番号二三 フランツェル・イードル
三七〇点
申込番号三五 エリック・オスカー
二九〇点
申込番号五七 ジーク・ネイソン
四六〇点
申込番号八八 ミラ・バーバラン
四七〇点
申込番号一〇三 ケイティ・リルグニスト
三三〇点
申込番号一二八 カイン・アルベルト
四三〇点
申込番号一五二 エムリナ・ルーティング
四三〇点
申込番号一八九 フレデリカ・マゼンシル
三九〇点
以上八名を第一回戦突破者とし、第二回戦出場者とする。
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第二回戦の会場は学園全体。建物を特殊な結界で保護した上で最初は校庭に集まった参加者達が学園中に散らばり、その三〇分後から全校生徒による狩りが始まる。
第二回戦出場者の一人であるケイティは暢気に欠伸をしながら校舎内を闊歩していた。
「全校生徒対八人の構図......何人かは協力を取り付けたけど」
十数人がケイティの味方。実力が確かな七人の出方は分からない。全校生徒は敵。残り三人に残らなければ準決勝には出場できないのだから、死ぬ気で潜伏するのが正解だが。―ケイティはやはり暢気にブラブラと歩き続ける。
「目標は達成したから......あとは、注目の中で華々しく散ればいいかなー」
セレナイト学園の魔法交戦大会といえば魔術師業界からかなり注目される。第二回戦からは大講堂で中継がされるため、研究機関の実験担当から魔術師組合まで幅広く誘致が行われるのだ。
―この機会は、かなり大きい。
「やっぱり私、かなり運が良いと思うの―ねぇ、エリー?」
「............見つかったわ......」
廊下の角からエムリナが半身を覗かせて、壁に寄りかかった。ケイティの記憶にあるのと同じように、エムリナは陰鬱な雰囲気を漂わせている。エリー、とエムリナのことを愛称で呼んでいるのは、ケイティが知る限り自分だけ。あとは、勝手に呼んでいる人間がいるかいないかの瀬戸際だ。
「あのねぇ、私は商人の娘なの!大量のお金が絡んでる人間なんて、どこにいるのか丸分かりなんだから」
「............あぁそう......」
それはもう、途轍もなくどうでもよさそうに流されて目を吊り上げる。どうにも分かっていないのだ、この女は。そんなことを考えながら、ケイティはやっぱり舌打ちをした。我慢ならない。
「ミラ・バーバラン?大講堂に集まっているほぼ全員から注目されてる子の居場所も分かるんだからね」
話題を変えようとしてやめて、そう言ってみる。理論ではない―一角の商人としての、直感だ。こう言うと、面白いという直感。商人として儲け話を嗅ぎつけるのに、最終的に鍵となる技能。―姉には備わっていなかった、父親から受け継いだ才能。
その直感に従った発言に、エムリナの纏う雰囲気が変わる。お、とケイティは内心舌なめずりをした。
(エリーが他人の話で動揺するのは珍しい……これはお金儲けの時間到来?)
グフフ、と笑って畳みかける。
「いいよ?教えてあげても」
「…………」
「その子の場所、教えてあげようか?当たってたら紹介して欲しい人がいるんだけどぉ」
エムリナが試合中にそんな反応を漏らすとなれば、きっと何か裏で関係があるはず。それならば利用しない手はない。ちょうど今後の目標を達成するには知り合わねばならない人がたくさんいるのだ。
「ほら、どう?今なら、試合始まったばかりだし対戦するのも楽なんじゃない?」
「…………そうね……」
エムリナが考え込む素振りをするのを見て、ガッツポーズ。ケイティの目がギラギラと輝く。これで目算上、二〇〇〇万リゼル以上のの稼ぎになる―はず、だったのだが。
エムリナが、冷ややかにこちらを見る。
「…………結構よ。遠慮しておくわ……」
はぁ?と目を見開く。全く予想外の回答。エムリナがニタァ、と笑った。
「…………残念ね……このまま大会を勝ち上がればいずれ対戦できるのよ……」
「―、……その子、第二回戦で敗退するかもしれないよ?」
「…………ありえないわ……」
どうやら、ミラ・バーバランという少女はエムリナにまで期待されているらしい。今度は、はぁ、と息を吐いた。商談ということで無意識に張っていた気が自然と緩む。
「―なんか、エリーは変わったね」
「…………誰かさんも……えぇ、変わったわ……」
「そう?」
「…………また商談を拡大したのでしょう……」
ケイティは何事もないかのように、軽く頷く。
―その年頃の少女が、友人と駄弁るときのように。
ケイティにとって、それは当たり前のことなのだ。
「ちょうどその分野が転機だったからちょっとねぇ」
「…………資料から読み取れた収入は五〇〇〇万リゼルだったわ……」
全くちょっとではない、と言外に告げられて、暢気に笑う。
「私はお金を稼がないとだから」
「…………姉だったかしら……」
「……まぁ、それだけではないけど」
緩く肯定。脳裏に浮かぶのは、姉の姿。
魔力量が発覚して、父親が急変した。完全に一家の中で姉の位置づけが変わって、ケイティは姉にガッカリした。
―この人は、自分が憧れた姉はこんなにも弱かったのか、と。
今となっては介入できなかったことが恥ずかしいものの、その時はそう思ったのだ。セレナイト学園に姉が入学して、卒業して上級魔術師になって。数年前とは変わった立ち振る舞いに感動した。そして―
(……いつか、お姉ちゃんが困ったなら)
その時を思い描いて笑う。
―認めさせてやるのだ、自分の実力を。
「―お姉ちゃんが困ったときにたくさんのお金を貸し付けてあげるの……『しょうがないなぁ、でも別にそのためにお金を貯めたんじゃないんだからね‼』―とか言いながら、ね」
それを聞いてエムリナが物凄く嫌そうな顔をする。―でも、ケイティはエムリナのその顔が好きなのだ。彼女は、滅多に感情を晒さないから。
ヒラヒラと手を振って一歩踏み出す。
(どれぐらいの手助けになるかは分からないけど)
校舎の入り口―ケイティが唯一封鎖していない裏口へと向かう。内側からは出られるようにしてある。魔術の絶対的な才能はなくても、戦略性には自信がある。魔法戦は商売と似ているのだ。
有象無象の足止めぐらいは、ケイティにも出来るはずだった。
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そして訓練所内。第二回戦ではここも解放されていて、そこでエリックはブルブルと震えていた。
「こんなの聞いていない……どんな悪夢なんだぁぁ」
今日は端の方にどけられているオープンテントの陰で頭を抱える。訓練所の外壁の向こう側では、足音がいくつも鳴っている。全部、エリックを含めた第二回戦参加者を探しているもの。活躍次第では成績に加点されるというのだから、生徒のほとんどは血眼である。
―エリック・オスカーは臆病な人間だ。
すぐに逃げるし隠れるし、とにかく物事としっかり向き合うことはない。
―エリック・オスカーは情けない人間だ。
自分から特定のことを始めた経験はなく、セレナイト学園に入学したのは親に言われたから。流されるままに合格して、クラスメイトに勝手に手続きをされてエリックはここにいる。
―エリック・オスカーは不誠実だ。
その場をはぐらかすために下手な嘘をつくこともあれば、一度頷いたことをすぐに翻すこともある。
出会ったかなりの人間に敬遠されていることは間違いない。エリックのことを嫌っている人間が一定数以上にいることも、間違いない。
だが、エリック・オスカーには一つ、確実に言えることがある。誰に聞いたとしても、一つだけは、その一点だけは口を揃えるだろう。
エリックはついに訓練所内に人が入ってきたことを感じ取って、泣きそうな声で詠唱を始める。勢いよく詠唱を終え、そのまま魔術を発動しつつ次のために術式構築を始める。
魔術はすぐに入口の方へと飛来して、生徒の悲鳴が聞こえてくる。人が倒れ伏した声を聞かぬまま、エリックはメソメソと泣き始める。―それは、新たな足音が聞こえたからだ。
「あぁぁもう……最悪だぁああああ」
エリックは悲嘆を繰り返す。何故ならば。
―エリック・オスカーは天才だ。
だが、凡人だ。魔術の腕はそれなりで特別優れている訳ではない。運動神経は絶望するほどに悪いし、目を見張るほどの戦略性を持っている訳でもない。どちらかといえば、無能に近い。
ならば、何において彼は天才だというのか。
―エリック・オスカーには一つ、確実に言えることがある。誰に聞いたとしても、一つだけは、その一点だけは、ある程度以上の関わりを持った全員が口を揃えて主張するような。
「もう助けて欲しい……どうして皆こうも酷いんだ…………」
エリックは両親が怖い。普通の学校に通っていたのに、無理をしてまでエリックを良い学校に入れようとしたからだ。エリックは元々通っていた学校の同級生が怖かった。休み時間の度自席で俯いているエリックに話しかけて来たからだ。エリックはセレナイト学園でのクラスメイトも怖い。自信がつくからといって、大会に応募したからだ。
―エリック・オスカーは天才だ。
エリックは、他人の善意を悪意と受け取ることにおいて、無類の才能を誇るのだ。




