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その黎明に祈る  作者: 願音
魔法交戦大会編
43/73

衝突を望む


 セレナイト学園が再開して。二月の初旬、少しずつ気温が上昇して過ごしやすい季節へと移り変わっていく。


「うわぁ......人、すっごく多い......」


 ミラは人集りに辟易としながら列の最後尾につく。百数人に及ぶ行列は全て、魔法交戦大会の申し込みが目的だった。優勝者は昇格できるからか、知っている顔もちらほらと見える。

 ミラは現在第三階位。卒業試験に必要な条件は満たしている。レベッカと名誉教授であるアーカルドと、ギリギリ教員に含まれるレイチェル、キルディノが推薦してくれたから、魔法交戦大会の一週間後に行われる卒業試験を受けられるのだ。だから、昇格には興味がない。今回大会に参加するのは、エムリナとの約束のためだった。


(この人たち、全員参加するんだ............私、勝てない気がしてきた)


 胃が痛くなってきて、そっと右手で押さえる。実際に全員と一人で戦わなければいけないわけではないが、ミラの中では一人で立ち回る光景が出来上がっていた。


 大会の受付締切は明後日。大会の予選はその次の日だ。そこから毎日試合が行われる。予選、第一回戦、第二回戦、教師枠決勝、準決勝、決勝と六日に渡って大会が続くのだ。かなりの詰められたスケジュールだが、大量に魔石を消費するものではない。

 大会前は普段使い放題の魔石が貸与停止状態になるから、参加者は無理を出来ない仕組みになっている。


「一応、()()()()()()()は達成出来たし、これ以上できることはないんだろうけど」


 最善の選択肢を取ったはずなのに、不安は涌き出てくる。決勝まで進んだのなら、ミラはきっとプレッシャーで気絶する。


 受付を担当する女子生徒に名前と階級を告げて参加者名簿にサイン。


「......ご参加、承りました。ご健闘をお祈りしております」


「ありがとうございます」


 会釈をした礼儀正しい対応に若干動揺しつつ、ミラはギリギリ魔石の貸与停止日に含まれていない今日のうちに練習をしようと訓練所へと歩き出した。


*_*_*_*_*_*


 予選前日。ふあぁ、と間抜けに欠伸をして、ミラはグッと体を伸ばす。


「予選は単純な生き残り戦......残り一六人に残ればいいんだよね」


 予選のみ魔石での回復が可能。校庭いっぱいに魔法戦用結界を張り、角に補給所が設置される。補給所では名前と階級を()()()()()()()()()()()()で一人一つまで魔石を使用できる。


(試合の内容的にエリーと一対一で戦うには準決勝までいかないといけないし............予選では落ちてられない)


 部屋の窓を閉め、鍵をかける。訓練ではなく、図書館で調べたいことがあった。


「思い立ったが吉日って......あれ、嘘だ」


 はぁ、とため息をついて扉を押す。その先には、見知った顔があった。


「ミラ」


「......カインくん?」


 予想外の出会いに、目を瞬く。今日、この場所でカインと会うことになるとは思っていなかった。促されるままに歩き出す。


「えっと、どうしたの?............怪我、した?」


「訪ねたときいつも怪我してると思うなよ」


 決闘のときのことを思い出して訊いてみるがカインは少し不機嫌になっただけだった。今回はどうしてだろう、と絶妙に男心の分からないミラは首を捻る。


「........................今日はだな」


「うん」


「伝えようと思ったんだが」


「何を?」


 いつもと違う様子からして、と考える。


(............もしかして、退学とか......あとは、転校?............結婚......は、ないよね............違うよね?え、違うよねっ?!)


 とりあえずどれも違うに決まってる、と結論づけると焦ったままでカインについていく。廊下の窓から差し込む日光が恨めしかった。


「....................................でも、やめておく」


「えぇ?......や、やめとくの?」


 今更気になるんだけど、と呟く。先程の考察は全てはずれているのだろうが、消化不良感が否めない。


「い、いいんだよ?今で」


「折角なら............いや、何でもない」


 何か言おうとして、また止めて、カインはミラに背を向ける。歩きながら少しだけ振り向いて彼は自分に苦笑する。



「お前が卒業したら......やっと話せる気がする」



 あまりの衝撃にポカンと口を開いて、ミラはその背中を見送る。しばらく体だけでなく思考まで停止していたが、曲がり角でカインが見えなくなる直前に叫んだ。



 ―どこまでも、届きますように。



「―カインくんっ!!」


 何歩かこちらに戻ってきて、カインが足を止める。不思議そうなその顔に、ミラは言ってやった。


 やられっぱなしは性じゃないから、と心の中で呟いて。



「私も!!―私も、その時に伝えたいことがあるの」



 喉にこびりついていた何かを無理矢理剥がしたみたいで、少し苦しい。ミラはカインの挙動を見逃さないように、胸を大きく上下させながら向き合う。

 カインはそうか、と応じた。


「楽しみにしている」


「うん............私も」


 頷いて今度こそ別れる。

 階段を下りながらこっそりと呟いた。これは誰も、知らなくていいことだ。



「今は、すごく近い............ちゃんと、届いてた」



*_*_*_*_*_*


 そして、予選当日。多くの参加者が散っていく中、異質の二人が向かい合っていた。二人が異質なのではない。―二人の行っていることが異質なのだ。

 予選は生き残り戦。つまり、戦いを出来るだけ避け、潜伏するのが主な戦法となる。


 ―いないのだ、始まる前から互いに闘志を剥き出しにしている参加者なんて、他には。


 そんな異質な二人を見て、()()()()()()()()()()()()()()()()


 それが狙いだった。明らかに頭のおかしい人間と戦えば予選突破の確率が減る。

 二人は―イエラクスとテルクニアは、してやったりと微笑みあった。杖を向け合いながら言葉を交わす。


「上手くいったわー」


「最初はこれで近付かれないだろうね」


「策士なの。特に実力のある人は近くを通っても離れてくれるわ」


「流石ティアだ」


「当たり前ー」


 そんな風に会話をしている間に、予選開始の鐘が鳴る。もう二人が杖を向け合う理由はない。だが―


「おや、ティア」


「どうしたのー?」


―二人とも、杖は下ろさない。


「杖は下ろさないのかい?」


「下ろす訳ないわよねー?」


 いっそ軽快に微笑み合う。端から見れば安穏とした雰囲気だが、二人ともバチバチと火花を散らしているような温度を持っている。


「そうだね。下ろす訳がない」


 そう呟いてイエラクスが一歩、左足を前に出す。テルクニアもそれに応じるように、右足を踏み出した。


(ラクスくんはここでお別れなんだからー。私の勇姿、しっかり見てもらわないと)


 テルクニアはふふん、と不敵に笑う。



「私、負けないんだから」



「ボクの台詞だよ、ティア?」



 挑発し合って詠唱を始める。

 負けられない。負けたくない。だからこそ―


 テルクニアは一足早く詠唱を終え、治癒魔術を起動。手にまとわせて、走り出す。

 ―テルクニアの基本戦法だ。治癒魔術特化攻め。魔法戦ではテルクニアの運動能力と合わせることで強さを誇る。それは、ミラでさえ追い詰めたほど。


 すぐにイエラクスの元に辿り着いて、思いっきり抱きつこうとする。あわよくば抱き返してもらおう、という魂胆だったが―


「最近一辺倒じゃないかい?」


「ラクスくんこそ、成長してないんじゃないの―っと!!」


―すんでのところで飛行魔術で飛び上がったイエラクスに避けられる。だが、テルクニアの攻撃は止まらない。


(こういうときの対処法は、()()()()()()()教えてもらった)


 下に向けて風魔法を発する。テルクニアの属性は雷だから風とはかなり相性がいい。


 合宿のときのミラのように、無理矢理高く飛び上がる。内臓が体の中でグッと寄り、気持ち悪い感覚はちょうど発動している治癒魔術が打ち消してくれた。


「ティアっ?!」


 ―あぁ、これだ。この顔が見たかった。


 そんなことを考えながら、久しぶりに見たイエラクスの焦った表情に近付いていく。


 浮力を失って落下を始めるテルクニアをイエラクスが抱き止めて、衝撃を和らげようとする。二人分の体重を支える想定では魔術式を組んでいなかったのか、本人も落下しながら。

 テルクニアの治癒魔術はイエラクスの魔力を確実に奪っている。―なのに、イエラクスは高所というアドバンテージを捨ててまでテルクニアと一緒に落ちるのだ。


(どうせ、わたしが敵うとは思っていないんだわ)


 いつもイエラクスはそうだ。真剣に向き合うフリをして、なのにまっすぐ向き合おうとするとのらりくらりとかわして勝負を終わらせてしまう。

 ―それがテルクニアは気に入らない。


 正面からぶつかりたいのだ。ちゃんと、隣に並ぶために。


「だから......余裕は今日、許さない」


 嫌でもちゃんと向き合わせてやる。―そう呟いて、テルクニアは珍しく苦笑する。


 本当は優勝したかった。二月の定期試験で一階級離れてしまったから、追い付きたかった。―一人きりは、嫌だから。

 だから、その余裕を壊せれば今日は満点だ。


 右手で首からかかったロケットペンダントを引っ張って、紐を千切る。器用に一瞬で開いて、中の紙に魔力を込める。もう優勝よりも優先すべきことがあるから、ありったけ。


 詠唱は、必要ない。―あとは一つ、告げるだけ。



「打ち走れ、<閃電錣>」



 ギョッとして、逃げようとするイエラクスを離さない。自分も特級魔術を喰らうつもりで目を瞑った。―そこに特級魔術までの合間、口づけが落とされる。



「流石ティアだ......今日は、諦めるとするよ」



 そんな、静かに落とされた呟きに、テルクニアは心底嬉しそうに笑うのだった。


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