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その黎明に祈る  作者: 願音
くだらない日常編
42/73

滲む違和感


「今日はね、ミラの初陣!!二十数年前に戦争で放たれた魔獣の住み処が発見されたから、その駆除。戦争の時と様子は変わらないから初陣で合ってるね」


「ういじっ......?!」


 絶句して目を剥く。ドロシーはニヤニヤした。面白がっていることを隠そうともしない。


「皆はもう出発してるよ............まぁ、一五で初陣は早いけど、対人戦じゃないから良いかな、って思ってね?魔物との戦闘は経験済みらしいし、もうすぐ卒業だろうし、経験はいっぱいあった方が将来のためになるし。あたし的には<従事者>になるとしたら実績があったら昇格に有利だからおすすめなんだけど、ね......まぁ勿論、嫌なら後方支援でいいよ?経験になるとはいえ、魔獣は魔物とはちょっと違うし、まだ早いのは確かだから。でもやっぱり、せめて一撃だけでも入れてみるのは全くやらないのと比べると全然違うかなって思うの、あたしは。ね、やってみない?あたしが守るから、一撃......ほら、特級魔術とか。実戦での緊張感だってミラの成長に大きく繋がる部分だから、絶対安全だから悪いことないよ?本当は基本的に自分の身は自分で守りつつ他の人と連携をとって魔獣を倒してみて欲しいんだけど、無理なら、今からでも全然」


 最初は余裕があったのに、俯いて沈黙しているミラに段々不安になってきたのか早口になっていく。言っていることは正しいようで、たまに筋が通っていない。ミラは焦りを誤魔化すように早口になり、その結果ガチガチになっていくドロシーに、ついにプッと吹き出した。面白くて堪らない。


「師匠ってば、どれだけ必死なんですか」


「あ、こら。ほら、あれだよ............私語。私語厳禁!!」


 苦し紛れの言葉はこちらの腹筋を許さない。ミラはもう腹筋がちぎれそうなほどに笑う。

 ドロシーのせいで腹筋が割れてもおかしくないような笑いを二人で共有して、ミラは顔を上げた。目に滲む涙を指先で拭う。口角を上げる。真っ直ぐとドロシーを視界に収めて胸を張る。



「別に必死にならなくても、行きます。というか、止められても私はやめませんから!!」



 堂々と宣言する。ドロシーはそれを受けて―


「や、別に必死じゃないし。あたしは必死になんてならないし............あたしが止めたら、やめてね?」


―そう、いつも通り目を逸らしながらツンとした後、心配を漂わせて言ったのだった。


*_*_*_*_*_*


 そして初陣―魔獣駆除である。

 戦争ではないから本当の『初陣』ではないのだが、帝国が使用していた兵器魔獣を行うからその言葉を使ったのだろう。


 王都の外壁から出て、魔獣の住み処―もう稼動していない鉱山に向かう。七人と合流すると、ドロシーが口を開いた。


「慣れないだろうし、初撃はミラに合わせるからね。その後はあたしが補佐につく......あたしじゃ、大した働きはできないし」


 そんなことはない、という八人のツッコミにドロシーは頬を掻く。数ヵ月前大量のドラゴン相手に善戦して、犠牲者を一人も出さずに戦闘を終えたドロシーの技量は普通の上級魔術師の中でも突出しているといっても過言ではない。


「初撃って、何が普通なんですか?」


「魔獣は普通、どんな攻撃でも一撃じゃ倒せない。技量にもよるけど......最上位魔術でギリギリなのが計算上。詳しく言うと......水属性なら水球に取り込む。雷属性なら入念に準備した上での挑発。風属性なら初級魔術で毒を吸収させる。土属性なら下から串刺し。氷属性なら氷張って固定。光属性とか闇属性なら初撃担当はしない」


 各属性のことも教えてくれるドロシーに感謝しつつ、口元を綻ばせる。わざわざ炎属性だけ言わなかった。もったいぶる、ということは。


「炎属性は?」


 ドロシーが、獰猛に笑った。ミラが初めて見る表情。―でも、美しい。



「―ぶちかませ」



  ふっと力を抜く。いつもとは違ったドロシーの言葉。―それは、誰の影響を受けているのだろうか。背後にとある女性の姿が見えた気がして、ミラは微笑む。こうして受け継がれていくんだと実感した。


「了解です」


 術式構築を始める。何度も何度も、数えきれないほど試算した式に実際の距離を落とし込んで成立させる。構築が終わったら詠唱。魔力を丁寧に、緻密に巡らせる。


 何故だか、失敗する気はしない。


 脳裏には、酒場。熱狂と陶酔に満ちた、そこで散るそれは―


 ミラは歌うように、儀礼詠唱を口にする。杖を緩慢な動きでホルダーから取り出した。狙い見るのは大きめの個体。巨大な尾をゆっくりと振り、眠りこける魔獣。



「―降り穿て、<灰燼怨>!!」



 炎系統特級複合魔術<灰燼怨>。

 生み出された青白い色の炎は、対象の魔獣の周辺を一気に取り囲む。鱗を焼きかねないほどの高温の攻撃に跳ね起きた魔獣だが、<灰燼怨>は追尾機能がある上に範囲攻撃だから逃げられない。


 <灰燼怨>と同時、ドロシーが拡声魔術を使って叫ぶ。


「―全員、攻撃ーっ!!」


 返事の声はない。だが、各々が動き始めたのが分かる。

 対魔獣戦は業種によって戦い方が異なる。主に、騎士団であったら罠と遠距離攻撃から戦闘が始まり、それ以外でも罠が使われることは大体共通している。

 魔術師は二人組。一人が攻撃、もう一人がそのサポートだ。魔術師別動隊は基本八人構成。だから二人組四つで戦うが―今回は違う。ミラがいることによって、ドロシーと組むはずだった者が一人になるが―それでいい。



 ()は、魔物、魔獣戦において()()()()()()()無類の強さを誇る。



 しばらく幾つもの魔術が魔獣の意識を逸らし、その攻撃に紛れた青年が魔獣の近くに辿り着く。


*_*_*_*_*_*


 ようやく魔獣の近くに辿り着いた。ミラの魔力は底をついたのか、<灰燼怨>はもう消えている。


 発動直前でキープしていた魔術を起動。ごっそりと魔力が抜けていくのを感じながら、()()()()()()()その魔術を見守る。―もう、自分にできることはない。


「魔獣は強力だからこそ、魔獣足りえる......私はそれに勝るからこそ、私足りえる。そう思うのですよ」


 他人事に口にして、一秒。


 突然地割れが起きて、魔術師たちが撤収。青年は―リチャードは、その魔術を完成させる最後の詠唱を行う。



「囲い集えよ砕きために」



 絶対に必要な儀礼詠唱なのではない。ただ、これがないと何か足りない気がする。それだけだった。

 リチャードの目の前で魔獣が雄叫びを上げて逃げようとするがもう遅い。


 地面から一気に土が隆起して、巨大な檻が形作られていく。それは魔獣を取り囲み、逃げ場を塞ぐ。唯一残った逃げ道は―


「通さないから」


―不敵に笑うドロシーが<火寵焔>を以て立ちはだかる。魔獣が眼を潰され、断末魔を上げた。再び暴れ始める前に永眠が訪れる。


 リチャードが作り出した檻は一つ一つの柱が太い。広さも十分で、まさに魔獣の()()。柱が軋みながら()()()()()―元の地形に戻ろうとする。


 しばらく抵抗を続けた魔獣は死に絶えた。圧死というのが正しいのか。

 地面は平らになり、魔術の跡なんて分からない。離れていた別動隊の魔術師たちと、ドロシーが直前に切り落とした鱗以外は更地になった。木まで呑み込まれたのだから、威力は笑いものにならない。―でも、()()()()()()()この魔術は使えない。


「討伐の証拠は残っていますし......上出来でしょう」


 一つ噛み締めるように吐息を残して、リチャードは仲間のもとへ歩き出す。


*_*_*_*_*_*


 リチャードの魔術を見て、ミラが思ったのは、どうしてこの人は宮廷魔術師じゃないんだろう、ということだった。


 人の力の及ばないような怪物である魔獣を圧倒的に制圧した威力は宮廷魔術師だと言われても納得出来る。

 王都の中に戻って解散してもそんなことを考えているとちょうど凶行のあった噴水広場を通過したところでふと違和感を覚える。


「............あれ」


 復旧されつつある街の角へと消えていく人影。―それが、知っている人な気がした。


(..................カインくん?)


 そんな訳はないのに、そう思ってしまう。

 ―髪の色が違う。少年の髪は黒色だ。カインの髪は灰色。

 ―身長が違う。少年はカインよりも少しだけ背が高いように見える。

 ―歩き方が違う。少年は音も立てずに歩いているような静かな隙のない歩き方をしている。


 ただ、魔力の質が少しだけ似ている気がした。ミラの直感―それでも、これまで外れたことのないその勘に促されるようにして、ミラはそちらに足を向ける。


「…………あのっ……‼―って、え?」


 走って角を曲がり、声を上げる。そして、目を見開いた。


 そこは行き止まり。建物の扉もなく、どこにも行けないはずなのに誰もいない。確かに、少年がここに曲がったはずなのに。見間違えたのか、と考えて、すぐにそれはないと思い直す。魔力までうっすらと感じ取ったのだ。いない人をそこに知覚するほどミラの感覚はおかしくない。それとも、ここしばらくの体験で気疲れでもしているのだろうか。


「おかしい……疲れてるのかなぁ」


 目を擦りつつ、ため息をついて身を翻す。今日は早く寝よう、と呟いて、借り受けている宿に向かって歩き出した。


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