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その黎明に祈る  作者: 願音
くだらない日常編
40/73

<漆桶の魔手>


 ちょっと読むのがしんどい回かもしれません。記録的な感じなので短めです。一応、作品設定を『残酷描写あり』に変更しました。それでいいんだろうか……と思いつつ。



 王都の中央広場に、耳をつんざくような悲鳴が響いた。何事かと立ち止まった人々もまた悲鳴を上げ、走って逃げようとする。騒ぎは更なる被害を呼んで、集まってきた数人も巻き込まれる。


 ―空は曇天。籠った空気が息苦しい今日は、ここ数年平和だった王都で宣戦布告が為された日になる。


 鮮血が広場の煉瓦で出来たタイルに降り注いで、力の抜けた人の体が倒れ伏す。首切られた者もいれば、胴で泣き別れになった者もいる。体に欠けた部分無く死んでいる場合は、必ずと言っていいほどに背を袈裟切りにされている。

 幾人もの血液と体の一部が混ざり合って、どれが誰のものかは分からない。はっきりと言えるのは、広場に人の姿が消えたことと、広場が凄惨な赤に染め上げられたこと、犯人は一人だということ。


「............すぐに、救援が来る......逃げ切れると思うなよ......っ」


 虫の息で生き残った青年が睨み付けて言う。犯人の男は、目深に被ったフードから覗く口元を狂喜に歪ませる。



「逃げ切る必要はない............我らはやがて来る()()の時のため駒を動かすのみ」



 そう告げて、男は右手の剣を無造作に振るう。青年は首を落とされ、絶命する。その時ようやくやって来た魔術師たちは、目にする。


 ―大量殺人現場と化した中央広場、その真ん中で血濡れた剣を握る人物、その者が纏う()()()()のデザインのローブとその裾の()()


「お前がやったのか!!」


「........................」


 男は黙ったまま、噴水の周辺を眺める。


「おいっ!!何か言ったらどうだ!!」


 男は問いかけに答えない。握った剣を持ち上げ―自分の、首を掻き切る。


 魔術師たちが唖然とするなか、男は吐血する間もなく倒れていく。その直前、振り抜いていた刀が投げられた。その剣が向かった先は、噴水の彫刻。

 しっかりと直撃して、噴水の彫刻が破壊される。水が噴き出して、地面の血で何かを描く。剣は僅かに動いていた女性へと突き刺さる。


 ―出来上がったのは、<漆桶の魔手>の紋章。


 魔術師たちは被害者たちの生死確認も忘れて、絶句する。誰かが、ポツリと呟いた。



「..................戻ってきた......<漆桶の魔手>が、表舞台に......っ!!」



*_*_*_*_*_*


 一月七日、王都中央広場。


 剣を持った単独犯による大量殺人事件発生。被害者三七名、全員死亡。

 現場に魔力の痕跡は見られず、協力者がいた可能性有り。

 剣は押収(詳細は資料二枚目以降)、犯人の男は自殺。

 被害者たちの死因は斬殺。傷の位置に規則性はない様子。

 事件後、地面に<漆桶の魔手>の紋章が描かれる(再現図は下記の通り)。


 この事件を<漆桶の魔手>による宣戦布告と見なし、王都を警戒体制とする。

 

*_*_*_*_*_*


 王都内に魔物が出現した。


 巡回兵士が飛ばしたその情報は王都に滞在していた<従事者>に大きな衝撃を与える。拡声魔術によってすぐさま避難勧告が出され、それ以外はほぼ全員の<従事者>が対応に駆けずり回った。国王の安全を守る近衛の役割を担う国王親衛隊でさえも半数以上が対応に回っている。


 様々な種類の魔物が王都中―中心部に近い付近を暴れる。辺りでは詠唱の声と怒号が響き渡り、魔物の咆哮が連絡を掻き消す。迅速な対応をしたといっても、一般市民は犠牲になっている。戦いの中でも何人もの<従事者>が命を落とし、犠牲者は魔物と同じで数えきれない。


「誰が、いったいこんなことを」


 新人の兵士が必死に剣を振るいながら呟いた数メートル横で、魔術師が詠唱を忘れて「……死にたくない」と呻く。顔を隠さねばならない工作員たちでさえ、コートを目深に被りながらも全力を発揮している。


 魔物たちに一見共通点はない。凶暴化している、というのは一応挙げられるものの、普通魔物はそういうもの。ただ、よく見ると体のどこかに紫色の模様が浮き出ている。

―その模様は、誰もが知っている。小さな少女でも、情報に疎い老人でも。ましてや、国に仕え直接貢献する<従事者>なら、絶対と言っていいほど。


「<漆桶の魔手>の紋章……三日前よりも、酷い」


 双蛇と、魔神の逸話に関する絵が組み合わされた紋章。これは、構成員が左腕に刻んでいるという、<漆桶の魔手>である証として扱われる禍々しいもの。王国では時々検問が敷かれ、通行人の腕が確認されることがある。


 おそらく、今回の魔物襲撃の犠牲者は三日前の大量虐殺事件の三倍以上に及んでいる。―この後も、それは増えていく。発生した魔物を全部殺すまで。


 兵士は考える。


 ―果たして、それまで自分は生き残っていられるだろうか、と。


 剣を何度も何度も振り、硬い魔物の外殻を無理矢理切断しているせいで腕の痛みは酷い。足は既に鉛のように重く感じられるほどで、全身に傷がついている。いずれも軽傷ばかりで、致命的なものはなく、失血死するような怪我ではないことは救いだが、楽観視できる要素はどこにもない。

 このままだと、完全封鎖した上でこの区画に火をつけなければならない事態になる。この周辺に住んでいた者たちは、折角生き残っても家を跡形もなく失う。


 それだけは避けたいと思っていたのに、もう腕が重くなっている。ついに攻撃を避けきれず、魔物の振り上げた前足が頭を砕こうとしたとき―



「遅れてすまない……この失態は、功績によって挽回しよう」



―簡易結界で、守られる。反射的に振り向いた。


 そこにいたのは、<霊操(レイソウ)の魔術師>レグルス・アーウィン。精霊との友和性を誇る、王国最高峰の魔術師―宮廷魔術師。

 彼は整った顔に、この場に見合わない爽やかな笑みを浮かべる。



「宮廷魔術師が到着……一般兵には撤退が一時的に勧告されている。さぁ、後ろへ」



 兵士は頷き、設置されているであろう補給所へと向かうため身を翻す。歩き出しながら、どうやら自分は戦い抜けたらしい、と他人事に考えた。



 ―そうして、二度目の王都襲撃は幕を閉じる。


*_*_*_*_*_*


 一月十日、王都中心部。


 <漆桶の魔手>使役獣による襲撃事件発生。被害者一二五名、内四八名重軽傷、七七名死亡(被害者名簿は別紙)。

 魔物は全二一三匹、二二種類を確認。

 魔物は凶暴化していた様子。<漆桶の魔手>の構成員は見られず。


 大量殺人事件と合わせ、被害者は計一五二名。標準を大幅に越えたことから、王国<従事者>は<漆桶の魔手>一斉摘発を行う。


*_*_*_*_*_*


 二度の事件を受け、国王は一斉摘発を指示。紆余曲折を経て<漆桶の魔手>教祖を処刑し、王都では整備が行われた。


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