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その黎明に祈る  作者: 願音
学園祭編
32/73

前夜祭は朝から感情が忙しい


 前夜祭の日になって、ミラは朝からウズウズしていた。いつもより一〇分早く起床して、髪を梳いて制服に着替える。


「昨日は夕食を減らしたからたくさん食べれるはず......!!」


 目を輝かせて一流レストランの食事に思いを馳せる。一日中食べ続ける気満々だった。朝食も量を減らす予定である。


(魔術の方も成功率は九割。劇の演出は魔導具に仕込んだし、明日の発表と後夜祭の大会以外は校庭にいられるよねっ)


 ふふふふふ、と怪しい笑みを浮かべて食堂に向かう。いつもよりは早いものの他の生徒はもう寮を出ているようで、食堂は閑散としている。


 素早く食事を確保してミラは自分の席へ。戻ってくると向かい斜め前の席にフィンレストが座っていた。


「やぁ」


「おはよう、フィンレストくん」


 挨拶した後すぐに食べ始める。フィンレストはしばらくすると口火を切った。


「この前のことなんだけどね」


「あぁ......仲直り出来た?」


「おかげさまで」


 頷かれて安心する。あの後は準備に追われて二人と会えなかったのだ。


「それで............どうだった?ねぇ、どうだったの?」


「聞くと思ってた......」


 気恥ずかしげに少しだけ目を逸らして、フィンレストは語り始める。


*_*_*_*_*_*


 その日のうちにフランツェルは見つけられなかった。フィンレストは知らないことだが、訓練所裏手にいたのだから当然といえる。消灯の鐘で諦めて寮に戻ると、次の日フランツェルの部屋を訪ねた。


 ノックをして、フランツェルが顔を覗かせる。その顔が一瞬で強張るのを見て心が痛むが気にしていられない。


「............フランツェル、昨日のことなんだけどね」


 そう言うとフランツェルは唇を噛んで、()()()()()フィンレストを部屋へ招き入れる。


 今日は曇っているから閉められたカーテンの隙間から日の光は感じられない。ベッドはシーツの一ヶ所だけが皺になっている。昨日は寝られなかったのだろう。彼女の目の下にはうっすらと隈が見られた。


(......これは、僕のせいだ)


 少し腫れた目元とフランツェルの寝不足、苦しそうな顔も全部。


 フランツェルを苦しめているものは全部自分のせいだと、許されることではないと戒めて、口火を切る。



「ねぇ、フランツェル―」



 ここからまた僕たちの関係を始めよう、と薄く微笑んで。


*_*_*_*_*_*


 そこまで聞いて。

 ミラは震える手で食器を机に置くと、ワナワナと震える。見開いた目は信じられないものを見たような反応だ。


「―え、終わり?」


「そうだね」


 いつも通りの表情でフィンレストが当たり前のように頷く。ペースを崩さず、スープを口に運んだ。

 大きく身を乗り出す。


「終わり?!これで終わりっ?!嘘でしょうっ?!本題はここからだよね?!今の大して情報量なかったよねぇっ?!」


 ミラとしては、一番聞きたかったことはほぼ無いようなもの。現実の恋愛事情―それも、友人のものなのだ。


(愛し合ってるからこその重荷............まさに小説みたいな場面なのにっ!!)


 捲し立ててもフィンレストは涼しげなまま。全く動揺していなかった。肩を竦めると、ほら、と示す。


「相談には乗って貰ったものの、元々僕とフランツェルの問題だからね。第三者は知らなくていいことだよ」


「そんなことないと思うなー」


 くぅ、と唸りながら諦めて、別の話題を探そうとしたとき、ちょうどフランツェルが食堂にやってきた。


「フランツェル、おはよう」


「えぇ。おはよう、フィン。ミラも」


「うん。おはよう」


 軽く挨拶を交わし、話題は学園祭へ。


「フランツェルは何か仕事があるの?」


「何も。ミラの発表は見に行くけれど」


「......こ、来なくてもいいよ............?」


「行くに決まってるわ」


 がっくりと肩を落とす。対策は完璧で内容にはレベッカの太鼓判が押されているものの、不安なものは不安だ。

 今回の学園祭の講論会には<雷霆の魔術師>アーカルド・カリウスを始めとした有名人も多数参加するのだからどうしても聴衆は多くなってしまうのだから。


(師匠と会えるのは楽しみだけど、発表の時間は来なくていい............)


 重くなっていくプレッシャーを振り払うように首を振って食後の紅茶を飲む。フランツェルはデザートを食べていたスプーンを小さく揺らした。


「カインも参加する方......特級魔術の相違点はフランにも身近だし」


「じゃ、じゃあ特級複合魔術の方は来なくていいからね。いや本当の本当に来なくていいから。ていうか、入学して三ヶ月ちょっとの人間に学園祭の講論会出させるとか先生酷いよね......ああぁもう、引きこもりたいぃぃ」


「ミラ嬢、大変そうだね」


 頭を抱えて苦悶する。食後に珈琲を取って戻ってきたフィンレストはその様子を見て苦笑した。


「フィンも一緒に行くわよね?」


「勿論。喜んで、フランツェル」


(イチャイチャしてるんだけど............イライラするんですけど)


 前にも増したバカップル度。

 ミラはピクピクと口の端をひきつらせながらゆっくりと顔を上げる。そこには、それはそれは幸せそうな顔の二人がいた。フィンレストの口元でさえ、いつもと比べるとだらしなく緩んでいる。


(まぁいいけど。別にいいけど。二人がイチャイチャしてたって私には関係ないから構わないんですけど)


 二人のことは応援しているのに、手助けも汚れ役も辞さない心意気なのに、フィンレストに恋愛感情なんて欠片もないのに、どうしてここまでイライラするのだろう。舌打ちしたい気分だった。


「..................空気にあてられるだけで胸焼けしそう」


 一人鬱蒼な雰囲気になって冷めた目で眺める。フィンレストはこういったものにすぐ気付くはずだが、明日が学園祭デートということでかなり浮かれているらしい。笑顔が輝いて、周りを見られていない。幸せ全開の雰囲気で周囲を攻撃していた。


 はぁ、とため息をついたのと同時、後ろから肩に手を置かれる。


「......カインくん。おはよう」


「あぁ。おはよう」


 カインはやっと起床したようで、眠そうに欠伸しながら持ってきたパンを齧る。いつもはミラまでとはいかずともかなりの量を胃に収めるカインがパン一つしか食べないらしい。


「今日は少なめ?」


「もうすぐ校庭出れるだろ?たまには―」


 その言葉は途中で止まる。ミラがいきなり立ち上がったからだ。

 ミラは手をテーブルに叩きつけた。


「行かないとっ!!」


 ミラの運動神経からは想像がつかないような速さで皿を片付けると、慌ただしく食堂から出る。


 心を支配するのは焦燥感。


 それに突き動かされるように、ミラは校庭へと向かった。


*_*_*_*_*_*


 校庭に設置されたテーブル目一杯に並べられた食事には特定のテーマといったものがなかった。燠浜名物の小籠包や炒飯から、王都一番のスイーツ店のケーキ、他にも様々な料理が並ぶ。それらをせっせと運んできたミラは校庭に着いて三〇分、ようやく椅子に腰を下ろした。


 いただきます、といつになく真面目な顔で手を合わせると、食事を口に運ぶ。そしてすぐに破顔した。


「............おいしい......っ」


 目を輝かせて、仕草はあくまで上品に、それでもいつもよりも速いスピードで平らげる。

 元々、体型のわりに多く食べるタイプで、普通なら二皿か三皿で満腹になるような量を食べ尽くすのがミラだった。


(小籠包......噛んだら肉汁が出てくるんだ)


 特に好き嫌いもないため知らない料理でも臆せず持ってきている。小籠包もその内の一つで、隣国の特産品。他国の料理も躊躇いなく食すその様子は途轍もなく幸せそうで、横で流し見ながらカインは呟く。


「なんつーか......この上なく楽しそうだな」


「寮ではウンザリしているようだったけどね」


「え、そうなの、フイン?」


 フィンレストは曖昧に笑って答えから逃げると、それだけで胸焼けしそうなほど甘い笑みを浮かべる。


「邪魔されたくなかったから、指摘しなかったのだけれど」


「......もう、フィンったら」


 漂う甘々な雰囲気に、意識の片隅で会話を聞いていたミラは内心こいつらめ、と唸る。カインも同じような顔をしていた。やはり、大きな破裂は修復されるのと同時に愛を肥大化させてしまったようだった。

 フランツェルが手を叩いて立ち上がる。


「......あ、そういえば。フラン、辛いもの食べてみたかったのよね」


「そうか......なら、一緒に行くよ」


「ミラ、すぐ後でね」


「............う、うん」


 出店を回って辛いものを探しに行く二人の背中を見つめていると―



「..................なぁ」



―そう、小さく小さく声が聞こえた。


「どうしたの?」


 少しだけ首を傾げる。カインは視線を合わさず、一つ一つの動作に迷いを滲ませながら言葉の続きを話した。


「............明日。暇な時間も、あるんだよな」


 軽く頷く。一日中仕事をしているわけではない。


「確か、劇の演出と大会、発表以外は何もないよ」


 カインはそうか、と生返事をする。心ここに在らず、といった感じで、少し気恥ずかしそうな態度。

 そう、他人事のように見ていたミラは次の瞬間、息を呑んだ。



「............なら、一緒に回らないか?」



 この更新で120000文字になりますが、1冊分ぐらいなんですよね......。1ヶ月半、速く感じました。


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