表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その黎明に祈る  作者: 願音
合宿編
27/73

婚約者揃い(別に嬉しくはない)


 周囲で他の生徒が対戦をする中、異常なほど静かにミラとイエラクスは向かい合う。


「どこかであたるとは知ってましたが......レジュメル先輩が最初とは」


「敬語じゃなくていいって話じゃなかったかな?」


「それは昨日だけでしょう?」


 パチパチと瞬きをして首を傾げる。するとイエラクスは呆気にとられたような顔になった。


「君、真面目だね」


「............ありがとうございます?」


 何故そうなるのか分からなかったが、一応褒められているので礼を言う。イエラクスは面白いものを見たような顔になる。


「君、相当変人だ」


「ありが......って褒めてないですね」


 ミラが口元を緩ませると、イエラクスが「やろうか」と声をかける。頷くでもなくミラは詠唱を始めた。


(レジュメル先輩......土属性だったよね。飛行魔術が得意)


 会話の間に考えていたことを整理して、方針を立てる。ミラの詠唱が残り五秒になったときイエラクスが飛行魔術を発動した。低空飛行した状態で再び詠唱。今度は長かった。

 ミラも一つ目の魔術の起動まで終え、二つ目に取りかかる。


(水属性......詠唱的には水流かな?対処は済んでる)


 口にするのは、雷系統上級魔術の詠唱。


 歌うように詠唱をすると、ちょうど水流を発射しようとしていたイエラクスがギョッとする。

 婚約者のテルクニアの魔術式を作成したのは彼の父親だ。昨日聞いたところによるとその場で見学していたらしい。つまり、イエラクスは雷魔術の式について詳しいのだ。


 ミラの詠唱が終わる直前に彼は水魔術を解く。ミラはニヤリと笑って、一つ目の魔術―結界の術式を()()()()()ものを放出する。

 自分の魔術の書き換えには、魔力も詠唱も必要ない。的確にどの節のどの部分を書き換え、どの部分を切り捨てるのかの選択をする。


「......一級魔術砲弾、放出」


 術式の書き換え後に必要になる言葉を声に出すとイエラクスは短縮詠唱で前方に結界を生み出す。魔術砲弾は不可視の攻撃だ。防ぐには、可能な限り早く結界を展開するしかない。


 ―それが、ミラの狙いだった。


 魔術砲弾はイエラクスの間一髪の結界に弾かれ―イエラクスの背後に()()()()()()炎の槍が彼の背中に突き刺さる。痛みはないはずだが、当然魔力制御は崩れる。

 飛行魔術の制御を失ったイエラクスはたまらず地面に落下。そこに、炎魔法がイエラクスの魔力をキッチリ削りきるまで降り注いだ。


 魔力切れになって徐々に体が薄れていくイエラクスと言葉を交わす。


「術式の書き換え......いつ行った?」


「先輩の水魔術を受けていたときです」


「雷魔術の詠唱をしていたはずだ」


 見事に騙されているイエラクスに、ミラは悪戯っぽい笑顔を向けた。


「あれは、嘘なんです」


「............嘘?」



「雷魔術の詠唱はしていただけで、脳内で書き換えと炎魔術の構築をしました。だって......飛行魔術の機動力が、怖かったので」



 その告白に、イエラクスは。



「......ははぁ。やられたね」



 そう額を押さえて言うと、結界外へと転送されていった。ミラも帰還用特別術式を起動して、外に出る。


「......魔力消費は......二〇〇弱。かなり減らされた......けどあと一戦はいけるかな?」


 多分、と声に出さずに呟いて、また結界の中に入る。何事もなく対戦を終了して出てくると、ちょうどカインがいた。


「あ、カインくん」


「おぅ。調子は?」


「絶好調。レジュメル先輩に勝ち星をあげましたっ」


 茶化すように拳を作ると、カインの目元が綻ぶ。二人で魔力補給しながら言葉を交わす。


「何戦やった?」


「今七終わったとこだな。一回負けた。お前は?」


「私は......八戦終わったかな?あと六人で全員だよ」


 おぉ、とカインが唸って、ミラは気になったことを訊ねる。


「一回負けたのって......誰に?」


 カインが負けるなら、確実に先輩だろう。昨日のダンジョン逆攻略訓練で途中退場したチームの、とはあまり思えないのだが。

 カインは思い出すような目になる。


「エムリナだよ」


「エリー?」


「あいつ、マジで性格悪い」


「あぁ......」


 成程、と頷く。容易に想像できた。エムリナなら戦略性においてカインを上回るだろう。魔力量に差があっても、魔法戦では相手をいかに錯覚させるかで負けることもある。三大要素をあげるなら、魔力量と魔術行使の速度、戦略だ。


「お前も気を付けろよ」


「......うん。そんなこと聞いたら嫌でも」


 思わず苦笑いする。エムリナと遭遇したら震えそうだ。ミラは基本的に小心者なのである。

 魔力補給も終わって、二人は結界へと歩き出す。手を振って、背を向けた。


「レジュメル先輩も強かったから、頑張って」


「エムリナボコしといてくれ」


「ぼ、ボコす?............考えとく」


(............まぁ、だってエリーだからね)


 小さい声で呟いて、少し離れたところで結界に入る。その先で出会ったのは。



「ミラちゃんだ。昨日振りー」


 

 手をヒラヒラと振って、テルクニアはのほほんと朗らかに笑う。ミラは対照的に、顔をひきつらせる。


 ―あぁ、魔力補給しておいて良かった。


 心の底からそう思った。


*_*_*_*_*_*


「―わぁっ、ぶ!!」


「ごめんねー」


 テルクニアがミラを追いかける。彼女は楽しげだが、対照的にミラは息も絶え絶えだった。


(リゼット先輩怖いんですけど?!どうして治癒魔術で襲ってくるの?!)


 心の中で叫ぶ。

 その間もテルクニアが追いかけてきていて、足を止めるわけにはいかない。テルクニアは治癒魔術を行使しながら持ち前の運動神経でミラを追いかけていた。走り回っているせいで当たるものも当たらない。

 初めて知ったのだが、治癒魔術は魔法戦で使用した場合相手の魔力を吸収するらしい。吸収しても結界に還元されるがこちらの魔力は確実に減るし、効果の高い治癒魔術だとこちらの魔力は爆散する。テルクニアが発動しているのは二級治癒魔術である。


「ちょっ、ちょっと、待ってて、くださっ」


「うん」


 素直に足を止めるテルクニアから距離をとって、ゼェゼェと荒く息を吐く。テルクニアは余裕の笑顔で、ミラは半泣きで。しばらくテルクニアは停止していたが―


「......休憩終わりねー」


「いやぁあああああああああっ?!」


―突然また走り始める。


 ミラはまだ整わない呼吸のまま再び走る。


(どうしたらいいっ?!走り回られたら、何も当てられな―............そうだっ)


 思い付いたことを実践。このままだと無駄に体力を消費して負けかねない。


 使用するのは風魔法。

 自分の足元に向けて勢いよく放つ。高くまで飛び上がって、ミラは地面に近付いていく。驚いた様子のテルクニアが着地地点の近くで構えるが、段々と迫る地面にまた風魔法を放って高く飛び上がった。かなり気持ち悪いが、どうにか耐える。この方法なら強制魔力吸収には引っ掛からない。


「ミラちゃん。危ないよー?」


 詠唱をしているから答えられないが、「先輩のせいなんですけどっ!!」と言いたくなった。絶対今度仕返してやる、と珍しく先輩に考えて、怒りのまま魔術を組み上げる。

 術式の脳内構築を終えて今は詠唱が半分。残り二分弱の詠唱を、風魔法による危険な飛行で神経を磨り減らしながら行う。


 そして二分後。

 完璧に魔力操作を済ませる。一旦そこで魔術を維持しながら、一呼吸。この後の作業は大変だ。


(一つずつ、進めたらいいから......焦らないで)


 自分に言い聞かせて、風魔法を使いながら()()()()()()()()()()()()結界を発動する。万が一書き換えられることがないように、ダミー術式を盛っておく。

 そしてもう一つの魔術を起動した。



「............幾多降れ、<流星燕>」



 溢れんばかりの憤怒と、ほんの少しの恨みを込めて、テルクニアへと星が降る。


 テルクニアの魔力が切れるのを見届けて、ミラはしてやったりととびきりの笑顔を浮かべた。


*_*_*_*_*_*


 結界の外へと帰還して、ミラはため息をつく。強い人間と戦うとやはり魔力消費が激しい。テルクニアとの対戦はすっからかん直前である。

 魔石で魔力を補給しながら自分もまだまだだと振り返る。そこにいきなり声が割り込んだ。


「............調子はどうなの......」


「―っ?!............って、エリー」


 驚きながら振り向いて、ふぅ、と胸を撫で下ろす。その反応に、エムリナはニタァ、と笑った。やっぱり性格が悪いな、と思う。

 促されるままに座った。


「......どうもこうも、ちょうど先輩たち撃破したところだよ」


 そういえば婚約者達を揃って撃破したことになる。揃っても微妙に嬉しくなかった。


「エリーは?」


「............疲れたからもう見学してるわ......」


 言葉通り日陰で読書していたのか、右手には本を持っている。それは一度見たことがある『黒魔術の盃』。


「..................いいの?」


「............いいのよ......授業はもう十分堪能したわ......」


 十分堪能とはどういうことなのだろう。

 全く理解できなかったが、魔力補給が終わったので立ち上がる。



「私、エリーと対戦したかったなぁ、残念」



 地面から立ち上がりながら告げる。


(ボコボコにしてって言われたし......私もやりたいと思ったし)


 そんなかなり酷い心境で告げた言葉だったが。エムリナは何故か目を見開いた。呆気にとられたような顔で瞬きすると、無表情に戻る。

 ―しかし、その口元だけはいつもの冷笑やニタァ、ではなく、柔らかい笑みに彩られている。



「..................魔法交戦大会では相手してあげる......」



 ボソリと呟かれた言葉。ミラはクスリ、と後ろを見ないまま微笑んで次の対戦へと向かう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ