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その黎明に祈る  作者: 願音
合宿編
23/73

暗いの暗いの、とんでいけ


 転移魔術によって辿り着いたそこは、ミラの想像とは違って明るかった。いくつもの松明が壁に並べられていて、紋章のようなものが描かれた広い空間は見る者に感動を抱かせる。勿論国に撤去されているから財宝も散っていった冒険者の装備も何もない。瓦礫だけが端の方に寄せられている。

 幽霊は出なさそうだ、と安堵の息をついてミラはカインの袖を離す。とりあえず、とイエラクスが提案した。赤茶色の髪をかきあげる。


「今日は敬語はなしにして……役割でも決めようか?今度は属性と得意分野まで。苦手な魔術も全部教えてくれ」


 イエラクスを除く全員が頷いた。ダンジョン攻略において、仲間の技量や弱みを共有しておくのは大前提だった。


「ボクは土属性。特級魔術習得を鋭意努力中だ。風魔術は初級でもできる気がしない。飛行魔術は得意だけどダンジョン内で披露するのは難しいね」


「風魔術ができないのに飛行魔術は得意なんだよねー、ラクスくん」


 かなりおかしいことなのだが、テルクニアは能天気に笑っている。その紫紺の瞳には愛らしいものを見るような感情が見え隠れしているから贔屓だろう。

 テルクニアがはい、と手を挙げた。


「わたしは雷属性ー。簡易化した<閃電綴(センデンテツ)>ならギリギリ。治癒魔術使うと爆発するから、よろしくー」


「爆発すんのかよ……というか、簡易化?」


 カインが呟いた後首を傾げると、テルクニアは首から下がっていたロケットペンダントを持ち上げる。慎重な手つきでそれを開くと、中の紙を全員に向けて広げる。

 その紙に書かれていたのは、いくつかの魔術式だ。読み取って、ミラは息を呑む。


「……すごい式。ペンダントの飾りも魔石と似た魔素配列の素材が使われているし」


「そうでしょー?お義父様の手作りなの」


「父さん、ティアには甘いから」


 イエラクスとテルクニアは婚約者らしい。この魔術式はイエラクスの父親が作成したもののようだ。

 最後にテルクニアは一日一回なら特級魔術も使えると締めくくり、エムリナを選んだ。


「............闇属性。......そうね、使ったことはないけれど......上級魔術はできると思うわ......」


「闇属性か」


「わぁ、珍しい。だから昨日の実技訓練参加してなかったんだ」


 通常属性である炎、水、風、雷、土の五属性の次に稀少性が高いのは氷属性だ。そしてその次に珍しいのが光と闇。

 稀少な属性はそれほど魔力制御が難しくなる。特に闇属性は暴走してしまったときに他の属性と比べて危険だ。そのためセレナイト学園では特別な訓練を積んでから通常実技授業に参加することになる。


「............昨日で訓練も終わり......魔術使用は許可されているから安心なさい......」


 最後に魔力量はあまり多くないことと唯一練習できた結界術はかなり得意なことを知らせて、エムリナは横目にカインを見た。カインは小さく頷いて、口を開く。


「風属性だ。特級魔術もそれなりに。無属性魔術は苦手だな............同じく、治癒魔術は使う気すらない」


 使えるとも思えない。

 そう付け足して、カインは気まずげに頬を掻く。昔何かあったのだろうが、そこまで思うほどのことなのか、甚だ疑問だった。


 イエラクスとテルクニアから、特級魔術の部分におぉ、と小さく歓声があがる。ミラも促されて紹介を始めた。


「えっと私は......炎属性。特級魔術は第二目以外は使えて、飛行魔術は多分一生使えない......」


 ミラは運動神経が千切れているのである。飛行魔術はある程度のバランス感覚が必要なので、習得できる日は遠そうだった。

 自分で言って自分で落ち込むミラの背中をテルクニアがバシバシと叩く。かなり痛かった。


「まぁまぁー、特級魔術三つ使えるのもすごいからさ。さすが、総合順位第一位だよー」


「まぐれはないだろうし、羨ましい限りだ」


 はぁ、とイエラクスが言葉通り羨むように息をつく。全然そんなことはないのに、酷薄さを纏うその顔が冷淡に思わせた。

 しばらく思案した後、彼は顔をあげた。


「ボクが感知魔術、ティアが探索魔術を展開して先頭を歩く。そのすぐ後ろをルーティングくん。最後尾にバーバランくんとアルベルトくんがついて攻撃魔術の準備をお願いしよう」


 全員の得手不得手からして最も合理的な配置だった。五人はさっさと並び直すと、通路に足を踏み出す。

 先頭二人の詠唱を待って、ダンジョンを出口へ向けて進み始めた。


「............なんで通路暗いの?」


 二〇秒ほど歩いて、ミラは隣のカインに訊ねた。

 通路の様子は先程までの部屋とは大きくことなっている。広いことには変わりはないものの、一気に薄暗くなり数十メートルおきに松明が頼りなく揺れている。謎の文字が刻まれた壁画はそこはかとなく不気味さを醸し出していた。

 ―つまり、幽霊が出てもおかしくない雰囲気なのである。


「ダンジョンだからだろ」


 答えはド正論。再び涙目になる。


「......ほ、炎魔法で明るくしちゃ駄目?」


「ダンジョンだから強化された魔物も出るんだろ?手数減らしてどうすんだ」


「でも暗い......暗いと怖い......幽霊がぁ......」


「んなこと言われても」


 最早ビクビクしすぎて真面に魔術を使えそうにないミラを見てカインは鼻の頭を掻く。その間も考え込んでいたミラは、手を叩いた。


「目を瞑ればいいんだっ!!」


 かなり馬鹿な宣言にカインが目を剥く。

 何も見えなければ幽霊なんて関係ない。見えなければ、いないのだ。いないと確定しているのなら少しは気が楽になるものである。


(怖いなら見なければいいんだもんね、うん!!)


 ニコニコしながら目を固く瞑って一歩踏み出したミラは―


「わああぁっ?!」


―石畳の段差に躓いてバランスを崩す。これは転倒する、と思って来るだろう衝撃に身構えたが、それがミラの体に襲いかかることはなかった。


「......大丈夫か?」


 倒れるミラの体を抱き止めたのはカイン。ため息をつくと体勢を支えながら元に戻す。いつもより少しだけ低い声で呆れた。


「直感で分からねぇなら目を開けてろ」


「だって怖いし......」


「転んだ方が危ないだろ」


「でもぉ............」


 渋るミラに、カインは微妙に意味ありげな吐息する。肺の中の空気を全て無くすように深く息を吐くと、遠慮がちに右腕を差し出した。



「............どうしても瞑りたいなら、掴んでてくれ........................見てて心配だ」



 ミラは目を見開いて―顔を綻ばせた。

 不器用なの優しさと少しだけ滲んだ本音をそこに読み取って、手を繋ぐ。少し固い手の平と包み込むようなその大きさ、彼のように優しい温もり。それらから照れくささよりも安堵を得る。


「........................ありがと」


「別に。課題のためだからな」


(............だから、私は――)


 目を逸らして呟くカインについ可愛いという感情を抱きつつ、大事なことを再確認。カインが気付かないほど自然にエスコートしているのか、その後は段差に躓くことはない。


 ミラが恐怖を忘れ、安心し始めたところで少し開いた場所に出た。一度列を崩して、休憩を取ろうとしたところで―


「―っ!!......魔力反応があった」


「魔物の群れ......一〇数体いるわー」


―イエラクスとテルクニアから敵接近の報告。

 一〇数体の群れとなると、かなりの脅威になる。ミラは杖を握ると―ただし目は瞑ったまま―身構えた。

 カインが集中するように一呼吸。次の瞬間、大声で叫んだ。


「前方天井と壁の隙間から来る!!全員用意しろっ!!」


 最初の攻撃の後すぐに詠唱を始めていたエムリナが展開した半球体結界が初撃を防ぐ。結界は破壊されるが、砲丸のような勢いの攻撃をいくつも弾いたのだから急ごしらえの結界にしては強度が高かった。

 全員が備えるための詠唱の時間が稼がれ、その間にカインの指示が飛ぶ。


「ミラ、五秒後に角度六〇、距離一〇メートルだ!!」


 結界に弾かれ、遠くまで吹っ飛んでから巨大な蝙蝠のような形をした魔物が戻ってきてミラたちを殺すそうとする。


 しかし二度目の接触が起こる前に数匹を残して魔物は息絶えることになる。


(......魔力圧縮、増幅......術式発動)


 ピッタリ五秒間の短縮詠唱が終わった次の瞬間、炎でできた大蛇が魔物たちをのみ込む。炎系統上級魔術。決して短縮詠唱で起動するのは簡単なことではない。しかしだからこそ、強化されたことにより知能も高まっている魔物は冷静に行使してみせた人間に一瞬怯む。

 飛来した粘液はカインが風魔法で払って、他の数匹を隙を突く形でエラクスとテルクニアが仕留める。


 一分にも満たない初の攻防は広場に魔物の死骸を残して、一切の犠牲を出さずに終了した。テルクニアがのほほんとした様子で死骸を端に寄せながら口を開く。


「いやー、ミラちゃん凄いね。上級魔術を五秒で行使するなんてさ」


「怪我が無かったのはそれのおかげだよ」


「さっきの......テルクニアさんの魔術式を参考にして、手持ちの魔石に付与してみた感じで......だから、本当は出来ない。買い被りすぎだよ」


 あまりに褒められすぎてつい首を振って否定。カインも口を揃えて、軽食をとりつつ雑談していると、それまで完全に沈黙していたエムリナがミラを煽ってくる。


「............目を瞑りながら、お隣の誰かに完全に任せて頼りきる人間が見えた気がしたわね......」


「ちょっとそれ忘れてくれる?」


 流石に第三者視点で述べられると遠ざけていた羞恥が戻ってきてしまい、ミラは真顔でそう告げるのだった。



 次話投稿は4月3日午前5時の予定です。ダンジョン逆攻略編はもう少し続きますので是非お付き合いくださいませ。


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