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その黎明に祈る  作者: 願音
合宿編
22/73

幕間 今日と並んで、『これから』へ


 気付くと、知らないところにいた。


(......ぇ、え?私、寮で寝てたはずじゃ......)


 部屋を見渡すと、覚えのないものがたくさん目に飛び込んでくる。

 立派な装飾の執務机。そこにはたくさんの書類が山積みになっている。自分が今座っているソファの手触りも高級な素材が使われていると分かるほど素晴らしい。目の前のローテーブルには茶菓子が並べられていた。


 ミラが混乱しすぎて、(美味しそうだなぁ)と考え始めると、すぐ後ろで物音がした。


「―っ?!」


 息を呑む間にも物音の主は移動して、ミラが座っている向かいのソファに腰を下ろす。運んでいた二つのカップもテーブルに並べた女性を見て、ミラは唖然とする。


(............フラン、ツェルっ?)


 茶菓子の包装を取りながら口元を華やかな笑みで綻ばせる美女。何か話しているが、ミラはそれどころではない。

 その()()艶やかな髪の色は薄い藍色。覗く瞳はヒヤシンスのような上品な瞳。結いつけられた鮮やかなリボン。

 ミラの記憶よりも大人っぽい印象を抱かせる彼女は首を傾げた。


「どうかしたの、ミラ?」


 その声も、仕草も、フランツェルのまま。何故か髪が長いけれど、本人なのだとぼんやりと分かる。


「............えっと」


「フランの話聞いてなかったの?」


 少しだけ責めるような言い方に、ちょうど彼女の()()()()()()()右手を眺めていたので、混乱もあり適当に口が回った。



「フランツェルがフィンレストくんと結婚したって話だっけ」



 一瞬で彼女は爆発した。


「はあああぁぁぁぁぁぁっ?!」


 顔を真っ赤に染め上げて、ワタワタと手を振る。次の瞬間始まったのは、機関銃のような言葉の連射だ。


「そ、そういう関係ではなくて、別に、フィンとは婚約すらしてないのよ?最近なんて、毎日顔を会わせて一緒にはいるけど、全然そういった恋愛関係というものには関係ないはずで、そろそろどうせ私の婚姻の話が父上からあがるんだわ、残念とかも全然、思ってないのよ?ふ、フラン的には別にプロポーズしてくれたら承諾するとか、そんなことないのよ?夫婦になるならフィンじゃないと嫌とか、そういうこともないのよ?......だから、つまりは」


 ふううぅ、と長い深呼吸をして、無理矢理落ち着くと指を突きつける。



「フランは結婚してないのよ!!」



 ドヤ顔だった。ミラは何だかイラっとしたので、揶揄うことにする。


「でも告白されたら吝かではない、と」


「だって、フィンはフランのこと大事にしてくれるもの............って、あ!!今のなしっ!!」


「いいこと聞いたなぁ」


 ニヤニヤと笑いながらカップを口に運ぶ。

 最早、フランツェルの髪が長かったり知らない場所にいたりという異変はどうでも良かった。フィンレストの恋路応援隊隊長だったので。二人の仲が順調に成長しているようで何よりだった。


 フランツェルが髪を指に絡めながら話を転換する。


「そういえば......ミラ、フランのことを()()()()()()とは呼んでいなかったと思うのだけれど」


「............え?」


 その指摘にポカンと口を半開きにする。


(............イードルさんだった?ううん、定期試験の後フランツェルって呼ぶようになったはずだから、間違ってないよね)


 フランツェルがほら、と示した。



「ちょうど()()()()()()からはフランだったわ」



「........................二年、前?」


 衝撃の言葉に、ミラは思考も含めて全ての動きを停止して―たっぷり沈黙し三〇秒後、顔をひきつらせて笑い飛ばした。


「あはは、そんな訳ないよ。フランツェルの旦那さんは今日何してるの?」


「フィンは今日()()よ。フランしかお休みとれなくて......っあ」


「フランツェル......本当に可愛い」


「うるさいっ!!」


 再び失言して真っ赤になるフランツェルに、気になったことを訊ねる。『仕事』という言葉が聞こえた気がしたが、多分幻聴に違いない。


「カインくんは?」


 ミラがフランツェルとお茶していて、フィンレストが来られなかった。だとすると、カインも何らかの用事でここにいないということだ。


 ―そう、思ったのに。


「―ぇ」


 見開かれたフランツェルの目が、事実が予想と違っていることを教えてくる。露出したヒヤシンスの瞳はつい数秒前の恥じらいとは、違う感情を映している。

 気まずさ、戸惑い、寂しさ。

 全部フランツェルに見たことがないもので、意外に思っている間に彼女は迷うように口を開く。



「......彼は――」



 その先は聞こえなかった。 


 それでも暗転する世界の中、何かを告げようとしていた彼女の表情だけはミラの記憶に鮮明に焼き付いた。


*_*_*_*_*_*


「............ん」


 ベッドから上体を起こして、グッと伸びをする。カーテンの隙間から覗くのは朝日。どうやら今のは夢だったらしい。

 窓を開けると、爽やかな秋の風が舞い込んでくる。鳩が飛んでいくのをぼんやりと眺めつつ、徐々に薄れていく夢の実感をとどめようとする。


「............変な夢だったな」


 現実味があるのに、あり得ない。そんな矛盾を孕んだ夢。

 制服に着替えて、教科書を鞄に詰め込む。ちょうどその時、部屋の外から声がかかった。


「ミラ、行くわよー!!」


 フランツェルだ。

 今日は日曜日。図書館で勉強会をする約束をしていた。これからに胸を踊らせながら、部屋の外に向かって一歩踏み出す。



「............今行くね」



 扉の向こうにいた三人と笑い合って、軽口を叩く。形は変われど、こんなありふれた日常がいつまでも続くことを願ってミラは未来に思いを馳せた。


*_*_*_*_*_*


「あ、二人共。結婚したら言ってね?」


「「けっ............っ?!」」


「弄んでやるなよ......」



 嘘とは言えないかもしれませんが、エイプリルフールだったので......。そして、3月31日、合計1000PV達成です。(嘘じゃないです)

 次話投稿は4月2日午前5時の予定です。是非お付き合いくださいませ。


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