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その黎明に祈る  作者: 願音
合宿編
21/73

ダンジョン攻略の前に


 ダンジョン周辺は鬱蒼と木が茂っていた。快晴のはずなのに、光を木に遮られて森の中は暗い。ゴツゴツとした岩の足場も相まって、転倒していまいそうだった。

 荒い息を吐きながらようやく入り口に辿り着いて、ミラはそれを見上げる。


 巨大な神殿のような見た目だった。天井を支える荘厳な装飾が施された柱には、何本もの蔦が絡み付いていた。つい数分前までは見かけていた小鳥や栗鼠などの小動物の姿は消え、通路の奥を見渡せない暗闇もあってかなり不気味な印象を抱かせる。

 昔偶然図書館で見つけてしまった心霊小説に似た場所が出てきたことを思い出すと、ミラの中で何かが決壊した。



「........................これ、なんか怖くなってきたんだけどぉ............」



 若干涙目になりながら、ちょうど近くにいたカインの制服の袖を掴む。ミラは心霊的なものが全く駄目な人間だった。小さい頃からその系統の話を聞くと、耳を塞いで目を瞑り丸まって、完全防御体勢になるほどだ。


「うぉっ、いきなり、なんだよ......」


「わっ、私、こういうの、無理......」


「......」


「だって幽霊とか、怖すぎるでしょぉっ!!」


 ビクリと体を一瞬跳ねさせたカインに、ミラはつっかえながら言葉途切れで説明をする。大した説明にはなっていなかったが、どうにか言いたいことは伝わったらしく、カインはそう言われても、と吐息した。


「外で待つ訳にもいかねぇし......」


 そう呟いたとき、いきなり後ろからゾッとするほど静かな声がかかった。



「............仲が良さそうで何よりだわ......」



「ひゃあああああぁぁぁっ?!」


「ちょっ、おいっ!!」


 声を聞いてエムリナだと分かるはずなのに、ミラは過剰反応を示してカインにガッシリと抱きついた。

 焦ったような呻き声が頭上から聞こえるがお構いなしにしがみつく。過呼吸気味になりながら脳内で叫びまくる。


(出た出た出た出た出たぁっ!!絶対ダンジョンで死んじゃった若い冒険者とかの幽霊が話しかけてきたんだけどぉっ!!)


「............失礼ね......」


「今のはミラが可哀想だな」


「............可愛そうって......?」


「誰もそんなこと言ってねぇ!!」


 傷ついた感を出しつつ少しだけ口角をあげてニタァ、と笑っているので完全に面白がっているのが分かる。エムリナはかなり性格が悪かった。


「......え、エリー。驚かせないでよ、もう」


「............あ。何か飛んでいるわ......」


「わあぁっ?!」


「あんまこいつ弄ぶなよ......」


「............玩具で遊んで何が悪いの......」


「何もかもだろ」


 ミラを引き剥がしつつカインは冷たい目でツッコむ。エムリナは相も変わらず静かに言った。


「............本当はイチャついているカップルに課題の詳細を教えてあげようとしたのだけれど......」


「「イチャついてないっ!!」」


 エムリナのタチの悪い揶揄いに二人揃って顔を赤らめながら反論すると、近くで笑いが起こった。男女がプッと吹き出す声だ。目を向けると、そこにいたのは予想通り二人の生徒。


「ここまで来ると一級品だ」


「んー、羨ましいなぁ」


 一人は赤茶髪の少年だ。眼鏡をかけ、酷薄そうな笑みを浮かべている。目付きが鋭いのもあって、かなり残酷そうな人間に見えていた。

 もう一人は青紫の髪を高い位置で一つ結びにした少女。紫紺の瞳は悪戯っぽく煌めいている。あどけない顔立ちなのに、同時に大人っぽさも感じさせる独特の雰囲気を纏っている。


「ボクはイエラクス・レジュメル。六等級だ、よろしく」


「わたし、テルクニア・リゼット......ラクスくん同じく、六等級だよ。よろしくねー」


「............エムリナ・ルーティング、八等級......一応、よろしくお願いしておくわ......」


 エムリナのボソリと呟くような挨拶をきっかけに、ミラがはハッとしたような顔で恐る恐る目の前の二人に告げた。



「これが、幽霊............」



「違うからな?」


 冷静にカインが指摘した。


 ―ちなみに、その近くでエムリナが再びニタァと笑い、イエラクスとテルクニアは大爆笑していた。


*_*_*_*_*_*


 エムリナ―途中からはテルクニアの説明を受けて成程、とミラは頷いた。


「ダンジョンの()()()......転移なんて出来るんですか」


「そうー、最優秀クラスの全一五人を五人ずつにチーム分け。入り口の隣に転移魔術で最奥部に行って、返ってくるんだってー」


「一〇分ごとに出発でボクたちは最後だよ」


 転移魔術。


 初めて聞いた魔術だった。文字通り、物体を転移させる魔術なのだろうが。

 無属性魔術なのは間違いないとするとどういう魔術式になるのか考えても、予想もつかない。


 ミラが不思議そうにしているのに気付いたのか、イエラクスが口を開く。


「ほら、一応無属性魔術ではあるんだけど......禁止されてるんだよ」


 禁則魔術の文字が脳内を踊って消えていく。確かに転移魔術なんてものがあったら戦争の常識が簡単に覆ってしまうことが予想できたので頷いた。持っている必要のない知識だ。


「............<開闢の迷宮>は()()()迷宮......踏破された直後に転移魔術が付与された。......その頃は禁則魔術という概念は存在しなかった......」


 ようは、時間短縮用に付与された前時代の遺物らしい。魔術式を見てみたいと考えつつ、脳内でこれまでの説明を整理する。


(とりあえず、出てくればいいんだよね)


 転移魔術で最奥部まで行って、そのまま帰ってくればいいのだ。早さも中で行う課題も存在しないのだから、とても単純で―それでいて難しさが際立っていた。


「まぁどうにかなんだろ」


 ストレッチをしつつ能天気な反応をするカインをチラリと見て、ミラは先程のことを思い出す。

 不気味なダンジョン、幽霊への恐怖、そして―


(........................抱きついちゃった、よね)


―細身なのに意外と筋肉質なカインの上半身。


「―っ!!」


 その感触が脳裏に甦って一瞬で頬を火照らせる。視線をスッと逸らして、指先をこねた。口を尖らせて必死に忘れようとするが、そういうときほど人間は鮮明に思い出してしまうもの。

 感触だけでなくカインの体温と柑橘系の良い匂いまで完全に脳が再現して、ミラは膝を抱えた。


(忘れて私......抱きついたなんて恥ずかしすぎるから......二度と思い出さないで私......)


 ブツブツと呟きながら、心のどこかでちょっとだけ考えてしまう。


 ちょっとカッコよかった。男の子って感じがした。ドキッとしたなんてそんなこと―


 追いやろうとしながら片隅で考えてしまい、最早素肌を真っ赤に染め上げて煙を出しそうになる。―その隣ではカインも同じようなことを考えているのか頭を抱えており、先輩二人は大爆笑真っ最中。

 エムリナはまたニタァと悪役令嬢でも浮かべないような凶悪な笑顔になった。カインが眉間を震わせながら睨む。


「............見事な道化ね......」


「本気で殺すぞ、てめぇ」



 次の投稿は4月1日午前5時の予定です。是非お付き合いくださいませ。


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