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その黎明に祈る  作者: 願音
学園生活編
15/73

憂慮は似合わない


 結局、その後はどうにかミラの機嫌を取り戻し、夕食まで練習を繰り返して寮に戻った。食事中も話し合い、次の日も朝から夕方まで練習し―ついに提出期限日の前日。


「............やべぇ」


「......どうしよう」


 二人は顔を見合わせて叫ぶ。


「「全然習得できない......!!」」


 何度も何度も試すが中々成功しない。特級魔術は難易度が途轍もなく高いことを加味すると、全然おかしくはないのだが課題が間に合わなくなってしまう。


「......またダメだ」


「いけね、間違えた」


 二人はもう何度目かすら分からないほどに繰り返した言葉を口にする。


 中々成功しないことに焦り、それがミスを呼ぶ。ピリピリした雰囲気で魔術を発動しようとしていた。


(何がダメなんだろう......制御も慣れてきてるはずなんだけどな)


 うーん、と唸って再び挑戦。また失敗しそうになったところで―どこからか翔んできた蝶がミラの視界に突然侵入してくる。


「............っ!!」


 蝶に驚いて、ミラは目を見張る。操作が一度止まり、また失敗かと思われたが―


「まだ、いけるかも」


 小さく呟いて、軌道修正。急いで儀礼詠唱を口にする。


「―<施火園>っ!!」


 しかし何も起こらず、地面に火痕が付くだけ―ではなく。


 ミラは目を見開く。口がポカンと開き、呆然とする。徐々に頬が赤く染まり、口角が持ち上がる。


 ミラの隣、そこに精霊はいた。炎を纏って静かに佇んでいる。そのせいで、何も見えない―否。居るようで、いない。炎の塊なのだ。

 精霊が右手をスッと振り上げ、動かす度用意していた的に攻撃が繰り出される。

 恐ろしく濃い魔力。数秒で繰り返される攻撃は全てが上級魔術と同じ威力を持っている。


「召喚、終了......」


 魔力が尽きかけたので魔術を放棄する。ミラはペタリと座り込んだ。その唇はムズムズと動いている。顔に浮かぶのは、華やかな笑み。


「できたっ!!」


 歓喜の声を上げながらカインを振り向くと、ずっと見ていたらしく目が合う。


「先を越されたか......それにしてもすげぇな、精霊。全部上級魔術みたいだった」


「うん。すっごく濃い魔力だった。憧れちゃうなぁ......」


「強化術式使えばいけるか......」


 ふぅ、と落ち着いたところで、カインがハッとした表情になる。勢いよく立ち上がる。


「......俺まだ成功してないんだった」


 その悲嘆に満ちた声に、魔力補給を終えたミラは距離を詰めてパッと手を掴む。


「―っな、おい」


 カインは驚いて、振り払いかけるがミラはガッチリ掴んで離さない。滅茶苦茶真剣な声で宣言した。


「私、手伝うから」


「............ぉ、おう」


「じゃあまず―」


「ちょっと離してくれ」


「え、うん」


 カインが微妙な表情で告げてくるので手を離し、一歩離れる。気を取り直して、口を開いた。


「えっとまずね、私さっきちょっと失敗しかけたんだけど......それで多分、一瞬だけ魔力制御が揺らいだんだけど。それが大事なのかも」


「制御の失敗が?」


「うん。失敗というより、揺らぎかな?確かにその部分の式の意味を考えると、それは納得できる」


「どこなんだ?」


 ミラは宙に浮いた魔術式を眺めるように、虚空を見つめながら言う。



「――()()()()()()。これを属性の魔素式と融合させた部分だよ。精霊は不完全な存在でもあるからかな?そっちの方がしっくり来ると思う」



 ふぅん、とカインが相槌を打って離れていく。「揺らぎ......」と呟きながら彼は杖をホルダーから取り出す。


 長い長い詠唱の中、魔素式の部分に辿り着く。感知魔術で視て、ミラは手を握り込んだ。


(完璧......綺麗に、揺らいでる)


 ―波打ち際で生まれる波紋のように。


 ―風に吹かれ、花が揺れるように。


 美しい流れを伴ってグラリと揺らいだカインの魔力。詠唱が終わり、それに呼応するように彼の隣に影が顕れる。


 それは、女性のようだった。流麗な銀髪は地につくほどに長い。冷ややかなアイスグリーンの瞳は、ドロシーとも同じ色のはずなのに全く別物に見える。彼女の周囲を渦巻く高濃度の魔力がその性質を物語る。


 どこかぼんやりとした輪郭だった精霊は、カインの儀礼詠唱で存在を形作る。



「......揺らげ、<一陣昂>」



 その瞬間、風が吹き荒れた。カインの周囲に無数の斬撃が舞う。確実に地面を抉る攻撃は間違いなく脅威。不可視にもできるのだから、恐ろしい。


 ミラは感動を一旦心の隅に追いやって考える。


(精霊は全部、人型か魔力体現型、変身型のはず。<施火園>のときは魔力体現型だった。そして今回は人型......効果が違うのは、そのせい?確か、水系統特級魔術第二目<渦紋蝋>は自分の周囲にだけ精霊を召喚する描写が小説にもあったはず。なら......)


 魔術を解いてこちらに歩み寄ってくるカインに、魔石を手渡して、誘う。


「お疲れ様。上手くいってよかった。レポート、纏められそうだねっ!!」


 すると。ミラは気付いていなかったが、カインは魔力補給しながらはぁ、とため息をつき、ボソッと呟いた。


「......何なんだよ、もう............」


 ほんのりと色付く耳は、魔術の成功による興奮なのか、照れなのか。


 それはまだ、誰も知らない。


*_*_*_*_*_*


「全然分からないのだけれど」


「頑張ってよ、フランツェル」


 少し離れた椅子で足を組んだフィンレストはカリカリと紙に書き込みながら苦笑する。その紙は配布されたレポート用紙だ。


 ミラが作成した術式構築科目の定期試験対策用問題集と向き合い、頭を抱えて唸るフランツェルに気軽に声をかける。


「ほら、どこに迂回術式を入れられるか。一個ずつ問題を分けていった方がいい」


 助言しながら手元のレポートを進め、時間を確認。そろそろお昼時だった。


(そろそろ寮で昼食をとれるはず......となると、フランツェルの新しい友人らが食堂に来るだろう。かなり疲れてきているようだし、一度休憩を挟むか)


 そう一瞬で結論付けると、フランツェルの作業が一段落つく頃を見計らって立ち上がる。さっと机の上を片付けた。


 フィンレストは、監視役としても学生としても、非常に優秀だった。―そして、幼馴染としても。


「......フィン?」


 不思議そうに首を傾げるフランツェルを見ながら可愛いなと考えつつ、「お昼にしよう」と提案。すぐにそのヒヤシンスの瞳がパッと華やぐ。


「やったぁっ!!」


 一瞬で机の上は片付いて、彼女は図書館の玄関に向かう。肩口で切り揃えられた淡い藍色の髪に結ばれた赤いリボンがピョコピョコと頭の動きに合わせて揺れている。

 余程ミラに会いたいのだろう。鼻唄を歌いながら上機嫌に寮に向かうフランツェルを少し後ろから眺めて―


「僕の幼馴染、世界一可愛いんだ」


―フニャリ、と緩んだ笑みを口元に漂わせる。


 報告するのではなく、ただ誇るようなその言葉は風に吹かれて消えていく。まだ、誰にも聞かれることはない。


*_*_*_*_*_*


 食堂で()()()()合流して四人は仲良く昼食をとり、解散。ミラとカインはそのままレポートのまとめに入る。

 二人で議論しつつ伝承と検証結果、他の研究論文などを纏め、翌日レポートをレベッカに提出。


「何か言われるかな?」


 教員棟へと向かう道すがら。朝日を浴びながら、ミラは目を細める。


「さぁな。悪く評価されないといいが」


「せっかく特級魔術も習得したしね」


「あぁ」


 穏やかな時間はすぐに終わり、レベッカの元に辿り着く。二人は深呼吸。頷き合うと、扉をノックする。


「誰だ」


「バーバランとアルベルトです。レポートの提出をしに来ました」


「入れ」


 無愛想な声に返事をして、部屋に足を踏み入れる。レベッカは部屋の中央の机に頬杖をついていた。紙束を提出して、部屋から出ようとしたとき呼び止められる。


「なぁ」


「......はい?」


 普段よく「面倒臭い」とボヤいているレベッカに話しかけられてミラは少し反応が遅れる。顔をしかめられると思ったが、レベッカは気にしていない。その目は虚空を見つめていた。


(......珍しいな)


 レベッカの効率厨じみた行動を思い返していると、カインが「早速小言か?」と耳打ちしてくる。「聞こえてたらどうするの......」と指摘しながら次の言葉を待っていたミラは目を見開く。


「今年の一〇組......レポートの出来がかなり悪いんだよな」


「............」


「マシだったのは......フィンレストんとこだけか。全体的に能力が低い............リルグニストとマリステラが懐かしいぜ」


 思わず身を乗り出す。ミラの瞳はキラキラと輝いていた。


「知っているんですかっ?!」


「ちょうど配属されたときの教え子でな」


 レベッカは少し八重歯を覗かせて仄かに笑う。昔を懐かしむように瞳を細めた。


「同じ課題出して......成績順に並べて、あの二人がペアになったんだが。超優秀だった。あの後この課題で満点をつけたことはない」


「師匠とレイチェルさんが......」


 学生時代の二人はあまり想像できない。今と同じようなやり取りを交わしていたのだろうか。制服が似合いそうだ、と心の片隅で考える。


「確かお前、リルグニストの生徒だろ」


「はい」


「......元気にしてるか?」


 どうやらそれが本題らしい。ミラは少し気まずげなレベッカの様子に、少しだけ微笑ましいものを感じる。


「すっごく元気ですよ。試験の少し前に猫と戯れたりもしていて」


「そりゃ良かった。この仕事してると、卒業してった奴らが気になってな」


「師匠にもお伝えしておきますね」


「おぅ。もう行っていいぞ」


 会釈して、暇そうに立っていたカインと連れ立って外に出ようとして―ミラはあ、と立ち止まった。振り向いて、笑う。



「私たちのレポート......期待していいですよ」



 その言葉に、今度こそレベッカは八重歯をハッキリと覗かせて笑った。



「そうか。楽しみにしてるぜ」



 この人に憂慮は似合わないな、と思った。



 次話投稿は3月24日午前5時の予定です。是非お付き合いくださいませ。


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