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その黎明に祈る  作者: 願音
学園生活編
14/73

揶揄いの結果は


「よぉ」


「あ、カインくん。おはよう」


 待ち合わせの図書館横にあるベンチで合流する。そのまま訓練所に向かって歩きだした。


「なんか大荷物だな」


「そう?まぁ、紙と魔石とその他色々必要だからね」


「......魔石?教師に貰ったのか?」


「入学前にね。いっぱいあるから魔力は心配しなくていいよ」


 中庭の横を通過する。丁寧に育てられている花々の間を飛び交う蝶が可愛らしい。


 ミラは若干頬を緩めながらカインの横顔を見る。恋慕―ではない。これは渾身の成果の報告を誇らしく思っている動作。つまり、早く言いたいということである。


「それでね、特級魔術なんだけど」


「何か思い付いたのか?」


 ふふん、と胸を張る。ミラは物凄く得意気に言った。


「問題になってた魔力操作と制御......どうにかなりそう!!」


 その報告にカインがおぉ、と感嘆の声を漏らす。ちょうど訓練所に到着したので、隅の休憩スペースのベンチに持参したメモを開いた。


「ほら、短縮詠唱で操作とかが難しくなる法則を逆に考えると―」


「......成程、分からなくはない。この仮説通りなら、ギリギリ習得できそうだ」


 二人は二、三語軽く言葉を交わすと立ち上がる。訓練所の貸し出し用の杖と的を抱えて、中央の方に向かった。まずミラから魔術を使ってみることにする。


 目を瞑って、入学試験を思い出す。

 <火寵焔>。あの魔術はそれより前に実物を見たことがあった。だから、それを寸分の狂いなく完璧に再現すれば良かったのだが、今回は見たことがない。


 ならばどうするか。


 ゆっくりと詠唱を始める。

 伝承を通して触れた精霊の姿をイメージする。それはどこまでも気高く、美しく、真っ直ぐな生き様。


 そっと魔力を巡らせて、段々と勢いを持たせていく。魔力を循環させて魔力筋を慣らしていく。


 ―炎の精霊は酒宴を好む。

 だから思い浮かべるのは酒場。歌って踊って、酒瓶をぶつけ合いながらするバカ騒ぎ。何よりも熱狂的で、すべてに陶酔した男達。


 一言一句違わずに詠唱して、慎重に、それでも大胆に魔力を流し込む。式が崩れないように制御しながら、儀礼詠唱。


 ―のつもりだったが。


(............ぁ)


 式から一部魔力操作が漏れ出る。一気に制御を失って、魔術が崩壊する。息を呑む間に、少しずつ編み上げた式がほどけていく。


「........................失敗した」


 形にすらならなかった。<火寵焔>をまぐれで成功した程度の自分は、まだ<施火園>には手が届かないのだと痛感する。目指すところは、未だ遠い。


 ガックリと肩を落としていると、カインが飲み物を持ってきた。


「水」


「ぁ、ありがと」


 長い詠唱と緊張、失敗による脱力によって掠れた声で感謝を伝える。カインは地面に僅かについた火痕を眺めながら言った。


「さっきので失敗か......できる気がしねぇ」


「視てる感じはどうだった?」


「感知魔術で確認してたがあと五歩って感じだったな」


 あと五歩。

 そっか、と頷く。魔術式は完璧だった。詠唱も間違えなかった。だからこれは、魔力操作と制御の問題なのだ。


「一回魔力が漏れ出ちゃったら終わりだったな。十分魔力操作は簡単になってるはずなのに」


 水を一口飲んで、呟く。カインはギョっとしたようだった。身を乗り出してくる。


「簡単になってるって......試したのか?!」


「うん」


 その問いに軽く頷く。


「昨日、元々のやつの検証してみたんだ。部屋でやったけど、出来ないだろうな、って思ってたから」


「お前は馬鹿か」


 別に普通のことだと思っていたので、真顔でつっこまれて驚く。ミラはパチパチと瞬きした。


「え......何で?」


「夜中に普通特級魔術使おうとするか?寮で本当に使う奴いるか?!」


 成程、それが普通だったらしい。

 ミラとしては出来ないと予想したことは出来ないので軽く、初級魔術でも使うつもりで発動したのだが。


「......まぁともかく。俺もやってみるか」


「離れて視てるね」


 紙を手渡して数メートル離れ、感知魔術を作動する。風に遊ばれて髪が揺れた。耳にかけて、カインが詠唱を開始するのを見つめる。


(脳内構築する魔術式はメモを見ればいいし、詠唱だって読み上げるだけ。必要なのは操作と制御の技術だけなのにこんなに難しい......舐めてちゃダメなんだ)


 沈黙しながら探る。ミラが説明した通りにカインの魔力は巡っていた。ゆっくりと魔術式に流し込まれていく。


「............すごい」


 思わず呟いていた。その原因はカインの魔力。物凄く優れている。緻密な操作に、完璧な制御。指示にあくまでも忠実に、それでも自由に練られる魔力が安定して体を巡る。

 ミラ以上だ。下手をすると、その辺りの上級魔術師よりも優秀。



 ―それでも。


「............くそっ、」


 まだ足りなかった。詠唱は八割を切り、<一陣昂>は完成間近。しかし魔術は制御を失い、一瞬で崩壊する。


 カインが悔しげに舌打ちをして、こちらに向かってくる。ミラは視ていて思ったことを口にした。


「カインくん......他の特級魔術使ったことある?」


「ない」


 即答で返ってきた言葉に、ミラは指を立てて提案する。


「術式ももっと理解してもらいたいけどね......やっぱり、特級魔術って他とは雰囲気が違うから他の魔術も色々使ってみてからなら掴めるかも」


「......なら、風属性だと第一目<薫風鋼(クンプウコウ)>か」


 カインが言ったのは、風系統特級魔術の中で最も難易度が低い<薫風鋼>。<一陣昂>の練習用には妥当だ。


 ミラは頷いて、訊ねる。


「式は分かる?」


「途中までしか分からん」


「魔術式の勉強、した方がいいと思うよ......」


 はぁ、と息をついた。詳細を確認すると、一般術式と位置固定術式までは分かるらしかった。仕方がないので紙に記入していく。

 残りは魔術をある程度安定させるための保護術式と風の魔素式を挿入するための迂回術式。風の魔素式はカインが知っていたからミラが組み立てるのは属性が関係ない部分だけだ。


「ほら、ここは余分が生まれるから補完術式を入れるの」


「そんで、こっちに迂回術式だな?」


「そう。迂回術式も合わせると一〇一九節。素数だからこれで式は完成かな。遠隔とか、短縮詠唱にするならここから手を加えるの」


「短縮詠唱......化物だな、特級魔術でやんのは。出来る気がしねぇ」


「それは同感......」


 持ち寄った軽食を食べながら解説を終える。カインがサンドイッチ片手に立ち上がると、少し離れたところで詠唱を始めた。


「............ん。あれは、いい感じ」


 本日七個目のサンドイッチを食べながら目を細める。今度は魔術式をしっかりと理解していたからか、制御も誤らず式の最後まで辿り着く。


 カインはニヤリと笑うと、儀礼詠唱をするべく口を開く。魔力が爆発的に膨れ上がる。


「―<薫風鋼>」


 いつもの彼らしく、何の気負いもない声。しかし作り出された巨大な風の槍は圧倒的な力を持って地面を深く抉っていく。


 ミラは無意識に拍手をした。カインを褒め称える。


「一発成功......魔力の使い方、すごく上手」


「もうちょっと上手く出来る気はするけどな。初めてならこんなもんか」


 鼻をかきながらの言葉。照れているのだろうか、注視しないと分からないほどだが耳が若干赤らんでいた。それより、と話題転換。


「俺も見てみてぇし......お前もなんかやれよ」


 えぇ、と声を漏らしたが、確かに勘を戻すには悪くないかもしれないと頷く。首を傾げた。


「何がいいかな?」


「一番好きなやつだ」


「一番好きな魔術......」


 そう言われると、即答できる。


 ミラは一度目を閉じて、すぐに開く。一瞬で集中し、少し先の地面を見る。理想の光景を思い浮かべながら詠唱。


 これまで通りに魔力を巡らせて、流し込む。そして告げる。


 その魔術の名を。


 最早馴染み深くすらある、祝福を。


「......<火寵焔>」


 いつもよりも厳かに聞こえる声が宣言した次の瞬間、ミラを中心に巻き起こった炎が一つの流れを作り、天に昇っていった。


 幻想的なその光景に、カインが「すっげ......」と驚愕する。ミラは己の魔力がすっからかんになったことを悟りながら、点数をつける。


(今日は......七〇点かな。ちょっと微妙)


 空中の対象にも攻撃できるようにと上へ向かわせたのだが、式の改変が甘かったらしい。タイムラグが大きく、実戦には不向きだな、と判断。お蔵入りだ。


 魔石で魔力補給しながら先程の<火寵焔>について考えていると、カインが話しかけてきた。


「使うの何回目なんだ?」


「えっと確か......二回目かな?」


 一度目が入学試験、二度目が今。

 そう言うと、目を剥かれた。


「一度も成功してないのに入学試験で使ったのか?!」


「うん、そうだけど」


「昨日の夜のことといい......お前、頭が弱かったんだな」


 憐愍の瞳を向けられて、眉間に皺を寄せる。イラっとした。口を尖らせて カインを睨むと、口の端がピクピクと震えているのに気付く。


(........................)


「........................」


 ミラは――キレた。


「..................」


 つーん、とそっぽを向いて沈黙する。カインが慌てたように弁解してくるが、聞く耳を持たない。小さい子供のような拗ね方だった。


「悪い悪い。冗談だよ」


「............」


「怒んなって」


「............」


 ついにはぁ、とため息をつかれてミラは頬を膨らませる。


「もう知らないんだからっ」


 細い肩を怒らせて休憩スペースに歩いていく。置いていかれたカインはポツリと呟く。



「......あいつ、めんどくせぇ」



 ―と呟きつつも。

 少し後を追いながら、何度も言葉をかけるのだった。



 次話投稿は3月23日午前5時の予定です。是非お付き合いくださいませ。


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