第80話 アルニルのこと
この作品はカクヨムに投稿した物です。
イザベラはアルニルの状態をフローラに伝えますが、熱は下がったものの
まだ疲労が残っていると思うので、フローラ同様に2、3日は宿に留まるのが良いと提案します。
イザベラはアルニルの様子を話します。
「アルニルの熱は下がりましたが、疲れが一気に出たようでまだ眠っています。
アルニルの性格からしまして、体調が悪くても熱が下がったので先に進みましょうと言うはずです」
アルニルの熱は下がったそうですが、疲労によりまだ眠っているそうです。
そして、イザベラもアルニルは熱が下がったら、回復していなくても先に進むと言っています。
「イザベラもアルニルのことがわかっていますね」
わたしはこう言って苦笑いをします。
「前世からの付き合いですから、わかっていますよ」
イザベラも苦笑いしながら答えます。
「性別は変わったけど、元の性格がほぼいっしょだからね」
トリシャ様はいつの間にかおかわりしており、きのこと野菜のスープを口にしてこうおっしゃいます。
「トリシャは相変わらず食いしん坊ですね」
これを見たイザベラは、からかうように言います。
「うるさいよ、イザベラ。そういえば、女好きで生臭だったイザベラはどうなの」
トリシャ様もこう言い返しますと
「今はちゃんとした聖職者ですよ。前世では女性を抱き、妻帯もしていましたが、
今は清い身体のままですよ」
と今はちゃんとした聖職者だと答えます。
「そうなんだ、意外だね。ま、これ以上は姫様には刺激が強いので、やめとくよ」
トリシャ様はこう言って、再びスープを口にします。
(確かに刺激が強いですが、ファーガスの営みはわかっています……)
ファーガスの営みの記憶もちゃんとあり、それを思い出して顔が赤くなります。
「わたくしの話は良いのですよ。アルニルの体調が回復するまで、
ここに留まる必要がありますが、フローラ様はよろしいですか?」
イザベラはアルニルの話題に戻し、アルニルの体調が
回復するまではここに留まってもよいか尋ねます。
「わたしもトリシャ様も、イザベラと同じ考えです」
わたしはイザベラにこう答えます。
「わかりました。では、少なくとも2、3日はここに留まりましょう」
イザベラはこう提案しますが、やはりわたしと同じ内容です。
「こちらも同じ考えです。ただ、少し違うのはアルニルが回復するまで留まるつもりです」
わたしはイザベラにこう伝えます。
「やはり、考えることは一緒ですね。今のアルニルの様子では、2,3日でよいと思いますよ」
イザベラは微笑みながらこう言い、アルニルは思ったよりも状態は悪くないようです。
「思ったよりは悪くないのですね」
「そうですね、熱は出ましたが思ったよりは軽いとは思います。
わたくしは身体の治療と状態異常の回復が専門と言ってもよく、ある程度の病状はわかりますので」
イザベラは今は回復と状態異常を治すことが主ですが、前世ではトリシャ様ほどでは
ないものの、攻撃、防御、怪我や状態異常の治療ができました。
ただ、聖職者ということもあり、攻撃や防御はトリシャ様に任せ
イザベラの前世であるダニエルは、怪我や状態異常の治療の担当でした。
また、薬学や医学的な知識もあり、魔法を使わず薬草を使っての治療もしていました。
なので、イザベラが回復専門になったのは、ある意味自然なことだと思います。
「前世でも治療は得意でしたよね」
「確かに得意でしたが、攻撃や防御はトリシャの方が圧倒的でしたからね」
「人間がエルフに魔力で勝てないからね。あたしも回復系の魔法は使えるけど、
ダニエルの方が得意だったから、任せただけだよ」
トリシャ様も回復系の魔法は使えますが、ダニエルの方が得意だったので任せたそうです。
ただ、トリシャ様は少し照れくさそうにしています。
「トリシャが素直なのは珍しいですね」
イザベラが笑いますが
「あたしは素直だよ」
とトリシャ様は言い返します。
「そうでしたっけ?前世ではわたくしがファーガスを治療した時、トリシャと喧嘩した覚えがありますが」
イザベラは前世でのことを言いますが、わたしもそのことを思い出します。
―前世でトリシャ様が同行したばかりの時のことです。
ファーガスが命にはかかわらないものの、腕を大きく切られるという怪我をしました。
その怪我を治療する時、ダニエルが急いで処置をしましたが
「人間よりも、エルフの方が魔力が上だから、あたしがするよ。
こんな傷、あたしの魔法ですぐに治るから代わって」
とおっしゃいました。
これに対しダニエルは
「魔法での治療の前に、止血をしたり、傷口に異物や毒がないかを確かめるのです。
なので、やたらめったに回復魔法を使えばよいわけではありません」
と反論。
これに対して気分を悪くしたトリシャ様が
「人間は魔法でエルフにはかなわないし、そんなの魔法でどうにでもなるから」
と言い返します。
「たとえそうだとしても、しっかりとした処置をした方が綺麗に傷が治ります」
とさらに反論し、そのまま口論になりましたが、アンディが
「2人とも、ほっといたらファーガスが死んじゃうから」
と言って、2人も我に返り、ダニエルとトリシャ様が協力して治療したということがありました。
イザベラが言う、前世の喧嘩は多分これだと思います。
「あの時は、あたしも仲間になったばかりだし、正直人間を下に見てたよ。
ただ、あたしもあの旅で人間のことがわかったし、成長したんだよ……」
と顔を赤くしながら下を向いてこうおっしゃいます。
「確かに、昔と比べたら素直ですね」
イザベラもこれを見て笑います。
「もう、あたしのことはいいんだよ。このことをアルニルに伝えないと」
トリシャ様は話をアルニルに戻します。
「それについては、わたくしから話しますので」
「ならいいけど」
トリシャ様は照れながら、顔を上げますが顔はやはり赤いままです。
「イザベラ、アルニルが素直に言うことを聞かない場合は、わたしの命令だと言ってください」
「わかりました。フローラ様の命令なら仕方なく聞きますね」
「それでも、ダメな場合はわたしから直接命令します」
「わかりました」
アルニルがどうしても、言うことを聞かない場合はわたしが命令します。
「話はこれで終わるかな?」
トリシャ様がこうおっしゃいますが、この話はこれで終わりです。
「はい、アルニルの話はこれで終わりです」
「それなら、あたしはお腹もいっぱいになったから部屋に戻るよ」
トリシャ様はこのようにおっしゃり、立ち上がります。
「わたしも食事とお話が終わりましたので、部屋に戻ります」
わたしも部屋に戻ることにします。
「わたくしは食事をしますので」
イザベラはまだ食事の途中なので、食堂に残ります。
「では、イザベラ、アルニルのことは頼みましたよ」
「はい、わかりました。では、おやすみなさいませ」
「はい、おやすみなさい」
「あたしはまだ寝ないけどね」
トリシャ様はこうおっしゃると、先に食堂を出ていきます。
わたしもトリシャ様の後に続き、食堂を出て部屋に戻りました。
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