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リークの本領

「…っ。くそったれ」


 迫りくる竜をよけ続けながらアレクはつぶやく。ロコを突き飛ばしたのは、彼女の真下から竜が高速で接近してきたからだ。もし、あのままであればロコは腕か足を食いちぎられていただろう。

 ロコを守れたはいいもののその代償がないわけではなかった。アレクの腕には暗赤色の血液が伝っている。大方、竜から彼女を遠ざけたとき、竜の鰓か翼に引っ掛けたのだろう。その証拠に彼の二の腕には鋭い切り傷がついている。


「出血死はしないだろうが、このままだとジリ貧だな…」


 彼を追うのは3mほどの竜。竜の中ではあまり大きなサイズではないだろう。だがそれでもれっきとした脅威であり、人間を捕食することは当たり前だ。

 竜の見た目は様々だが、すべて魚の姿をしている。リークを追っている竜は吻を持ち、大きな背びれを持つバショウカジキのような竜だ。しかし、すべてがすべてバショウカジキと同じような見た目をしているわけではない。口には鋭い歯があり、胸鰭は空を飛ぶために体長の二倍は優に超える。

 そしてこのタイプの竜は飛翔が速い。アレクも何とか逃げてはいるが、あまり長くはもたないだろう。いずれ追いつかれ捕食されるのが目に見えている。

 だが、アレクはいたって冷静だった。自分を追う竜よりも、速く空を翔け、天空の覇者といえるものがいることを知っていたからだ。

 

 一方そのころ。ロコはアレクが竜からただ逃げ回るのを見ていることしかできなかった。あの中に入っていったとしても自分に何ができるだろうか。

 アレクの集中が途切れてしまったら、それこそ終わりだろう。今でもギリギリのところで逃げ続けているアレクはたちまち喰われ、己もやられる。アレクに助けてもらったのに、彼を助けることができない。ただただ歯がゆくて仕方がないロコだった。


「そうだ…!リークさんは…」


 そこでやっと彼女は頼れる大人の存在を思い出す。彼なら助けてくれるはずだ。そう思い、振り向いた時には、すでに彼女の目の前に漆黒の翼が広がっていた。


「大丈夫か?」


 言いながらロコの頭を優しく撫でる長髪の男。それを視認した彼女は安堵の表情を浮かべる。


「リークさん…、アレクが…」

「わかってる。絶対に大丈夫だから。安心しろ」


 涙目になるロコを落ち着かせるように、リークは優しく声をかける。『絶対に大丈夫』それを証明するものは今どこにもない。だが、この長髪の男の言葉はそんなものお構いなしにロコを安心させるものだった。


「…わかりました、お願いします」

「ああ、任せろ」


 そう言ったが最後、リークは一瞬にして上空にいる竜に肉薄した。腰に下げていた小さなナイフを信じに取り出し、死角である真下から竜の鰓に一刺し。勝負は一瞬だった。

 鰓から鮮血をばらまきながら、竜はそのまま雲海に落下していく。先ほどまで捕食者として獲物を追っていたというのに、なんともあっけない最後である。

 途端に静寂が訪れ、残ったのは自身の血液で染まったアレクと、竜の血液で染まったリークだけだ。


「待たせたな。よく頑張った」

「…待たせすぎだよ」

「お前なら俺が少し遅れても何とかなるだろうって思ったんだよ」

「……」


 予想していなかったリークの言葉。直球ではないが、リークが自分の飛翔技術をほめてくれたことにアレクは驚きと嬉しさを覚える。しかしそれもつかの間、彼の腕が痛みを訴え、アレクは苦悶の表情を浮かべる。


「ケガしてるんだろ。ちょっと見せてみろ」

「良いって。別に平気だ」

「そういうわけにもいかない。自分のせいでお前が傷ついたとロコが知ったらどんな顔をすると思う?」

「あ…」


 リークの言葉にアレクは黙り込む。そしてそのまま素直に自分の腕を差し出した。彼の二の腕にははっきりと紅い線が入っていた。


「あー結構やってるな。さすがにロコに隠し通すのは無理だろう。まあ、傷だけは見せないようにしておくか」


 そう言ってリークは消毒液を取り出し、傷口を消毒し始めた。


「ちょっと染みるぞ」

「っ!」


 痛そうな表情を浮かべるアレクだったが、リークはお構いなしに処置を進めていく。彼にとっては空中で浮かびながらの傷の処置などお手の物だ。気が付けば、アレクの二の腕は包帯でぐるぐる巻きになってしまった。


「ちゃんと消毒しないとな。昔、竜に足をかまれた奴が適切な処置をせずに放置して、そのまま壊死したという話を聞いたことがある」

「…なんでそんな話を知ってるんだよ」

「本で読んだだけだ」


 実際には彼の軍属時代の話なのだが、アレクとロコはリークが軍に所属していたことを知らない。そしてリークも伝える気はないのだろう。何かを読み取ったのか読み取らなかったのか、アレクもそれ以上リークに質問することはなかった。


「さて、帰るか。ロコも待っていることだし」

「……ありがとな」


 赤くなりながら小さく感謝を呟いたアレクに対して、リークは満足そうに口の端を上げる。


「素直じゃないなぁ」

「うるせえよ」


 



少しでも面白いと思っていただけたら幸いです!

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