STAGE 3-49;遊び人、デバフを受ける!
【ご報告】このたび本作が『第11回ネット小説大賞』にて受賞、コミカライズが決定しました……!
これもひとえにお読みいただいた皆さんのおかげです、本当にありがとうございます!
連載も再開していきますので、引き続き『かわいくてニューゲーム!』を。アストちゃんたちの行く末を。どうかよろしくお願いします!
『信じられぬ!』『S級職の王が』
『真人族の少女などに!』『完敗を喫した……!』
『このようなことが』『あっていいわけがない!』
世界樹の内部は驚愕と呆然の嵐に包まれていた。
大陸が誇る七人の強者――【七星】にも数えられる規格外のS級職。
弓系職の最高到達点『極弓王』であった森人族の王・アルフレッデの全身全霊を。
アストが放ったどこまでも黑い一本の矢は、木っ端微塵に吹き飛ばした。
弓術に優れるエルフの威信ごと、そのすべてを呑み込んで――。
『『一体、何者なのだ……!』』
そんな驚嘆の声に対して。
アストという、この世の果てで輝く人形のように佳麗で劇的な金髪の少女は。
やれやれと首をふり。
ため息を吐きながら答えた。
「だから言っているだろう。――俺は祖国からも追放された、ただの遊び人だ」
「「っ……!」」
当然。
エルフの重鎮たちはそのことを事前に知っていた。
エルフが第一王女・クリスケッタによって客人として招かれた真人族の少女は、『遊び人』という最弱の職業を理由に追放された元貴族の令嬢だと。
そんな彼女が、行方不明となっていた第二王女・エリエッタをほんの数日で救出し。
巷間では例の『S級魔物討伐』の奇跡も彼女によるものだという噂も流れていた。
どれも信じがたい偉業の数々だ。
そんな、国が誇る精鋭部隊でも達成困難に思える結果を。
得体が知れないとはいえ、たかが真人族の、加えて最下級職の追放令嬢に残せるわけがない。
――きっとなにかの間違いだ。
心のどこかでそう信じ込んでいた彼らは。
実際に『エルフの王の撃破』という、A級が束になってもなしえぬだろう結果を目の当たりにし。
――間違っていたのは自分たちの方だった。
と。
決定的に思い知らされることとなった。
『これは夢ではない』『どこまでも現実だ』『ならば』
『受け止めなければならぬ……!』
『受け止め、認めなければならぬ……!』
『『あの金色の少女を――!』』
重鎮たちの表情に、驚愕だけでない尊敬と畏怖の念が混じりはじめた。
そんなやまないざわめきの中に。
「アストさんっ――」
凛と澄み渡る声が響いた。
まさしくアストが救出にきたお姫様――エルフの第二王女・エリエッタであった。
彼女は亜麻色の髪を揺らして、アストのもとに駆け寄ってくる。
「む。……うっ!?」
そしてそのまま。
アストに向かって飛びついた。
「アストさんっ! 助けにきてくださり、ありがとうございますっ――!」
「む……礼は、いらん。それより……く、くるしい、ぞ……」
「え? ……ひゃっ!?」エリエッタは自らの胸にうずめるようにしていたアストの頭部を離す。「ご、ごめんなさいっ」
解放されたアストは呼吸をととのえてから、エリエッタに向き直る。
「ふむ。とにもかくにも、無事でよかった」
「~~~っ……! はいっ」
エリエッタは感極まるようにしてうなずいた。
「アストさんは、二度もあたしの命を救ってくださいましたっ。本当に感謝してもしきれません――このご恩は、必ず――」
言いかけたところで、別の声が世界樹の内部に響いてきた。
「アストさん~!」「アスト殿!」「ご主人ちゃんー!」
アストのもとに駆けてきたのは3人。
帝国軍に属する〝大樹林の調査役〟であった探索家の少女・チェスカカ。
捧蕾祭を前に行方が分からなくなっていたエルフが第一王女・クリスケッタ。
獣人族を装い、アストの付き人として旅を続けている炎狼悪魔・リルハム。
3人は不穏な動きを見せていた帝国特別軍の大佐・シンテリオの悪行を暴き、無事に帰還をしたところだった。
「む……おまえら、無事だったか。クリスケッタも」
「ああ。シンテリオによって囚えられていたところを――偉大なる狼人のリルハム殿に助けていただいたのだ」とクリスケッタが答える。
「あー! だから何回言ったら分かるのさ! リルは犬じゃなくて狼……あれ? 今、ちゃんと〝狼〟って言ってくれたー!?」
リルハムは途中で気付いて『わーい』『えっへん』『クリスケッタがようやくわかってくれたー!』と嬉しそうに尻尾を揺らしながら飛び跳ねている。
「クリス――無事だったのですね」とエリエッタが言った。「儀式の際に姿が見当たらず、心配をしていました」
「それはこちらの台詞だ、エリー」とクリスケッタは返す。「まだ魂を捧げる前で良かった」
「はいっ。すべてはアストさんのおかげです。……あれ、アストさん?」
ふと振り返ったところで。
ばたん。
アストが地面へと倒れ込んだ。
「アストさんっ!?」
慌ててアストのもとに皆で駆け寄る。
「アストさんー!? 大丈夫っすか!?」
チェスカカがアストの身体を起こしながら心配の声をだす。
「う……あ」
「よかったっす、意識はあるみたいっす……! で、でも……アストさん、なにかへんっす……!」
チェスカカだけじゃない、周囲の皆もアストの様子がおかしいことにすぐ気がついた。
アストは。
「……む、う……」
なにやらそんなふうに、うわ言のような息を吐きながら目をとろんとさせている。
上質な陶器よりも白い頬には、収穫を待ちわびる果実のような赤みが差していた。
「わー! ご主人ちゃん! 安静にしてたほうがいいよー!」
しかし。
アストはチェスカカの肩を支えにして立ち上がった。
「むう……しまった、すっかり忘れていた」
「忘れてたー?」とリルハム。
アストは頭を押さえながらうなずく。
「先のエルフのおっちゃんとの勝負で【邪神の魔法】を使ってな」
エルフの威厳高き王のことを『おっちゃん』と呼んだことにまわりは一瞬目を丸くしたが。
リルハムはそこには気をとめないでつづける。
「えー! ってことは、それにつられて神様からもらった【職業の魔法】も発動しちゃうっってことー……!?」
リルハムは前回攻略したダンジョン〝北の大穴〟での『桃色の記憶』を思い出して、反射的に身構えた。
「リルもさっきの戦いでけっこー魔力使っちゃって……今からアストの相手をするのはカラダがもたないかもー……!?」
アストはすこし怪訝な顔をしたあと首を振る。
「いや……今回発動させたのは〝一部だけ〟だ」
――だからこそ俺は、『遊び人』の魔法の一部だけを発動させてやる代わりに、■■■■■■を部分的に使えるよう調整した。代償として、どんな『遊び人』の魔法がかかるかはランダムで、自分にも分からんが――
そうしてS級職のエルフ王を倒すべく発動させた邪神の魔法ではあったが。
当然、その代償をアストは受ける必要があるらしい。
アストは自らの頭上に浮かんでいる魔法陣を解析しながら言った。
「ん……どうやら、邪神の魔法と引き替えに――『酩酊』のスキルが発動したらしい」
「酩酊――って、酔っ払っちゃうってことー?」とリルハム。
「アストさんは、お酒はお強いのでしょうか……?」エリエッタがおずおずときいた。
アストは思い出す。以前の世界であれば、20を超えるまでは飲酒は禁じられていたが……この世界では15の成人とともに酒も解禁される。
あいにくアストの成人の日は『最底辺職』の授与という大事件で宴どころではなくなり、まだ酒を嗜んだことはないが。
それでもアストは前の世界では、無表情で淡々と酒を体内に流し込み続ける『無音の酒神』として、たまの飲み会で(とくに飲み放題の酒をぜんぶ飲み干されるんじゃないかと心配する店員から)畏怖される超A級の大酒漢だった。
「む……酒に強い? 当たり前ではないか」
アストは皆の方をゆっくりと。ゆっくりと。振りかえりながら。
「この俺が、しゃけくりゃいで、……ヒクッ」
呼吸を乱し。顔を真赤に染めて。目をぐるぐると回し。
「どぅおにかにゃるという、こちょは、にゃい……んっ♡」
絶望的に足元をふらつかせながらそう言った。
「ぜんぜん弱いじゃないですかーーーーーーーーーー!」とエリエッタたちが突っ込んだ。
ぜんぜんだめでした!
酩酊したアストが取った行動は――?
※最新話までお読みいただきありがとうございます!
ネトコン大賞受賞記念! 更新再開していきます~!『エルフと世界樹』編もまもなくクライマックスです!
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(大寒波襲いくる中、今後の執筆の励みにさせていただきます――!)




