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STAGE 3-37;遊び人、決意する!


 月は満ちて。

 

 捧蕾祭(ほうらいさい)は本祭当日。森人族(エルフ)の国は言いようもない人々の熱気に溢れていた。

 夕刻が過ぎ、陽が沈んでから世界樹の内部にある祭壇で行われる【本祭】。


 ――そこでエリエッタの魂は、世界樹に捧げられる。


 その神聖なる生贄の儀にはエルフの王族と上層部のみ参加することが許されており、期間中彼らは世界樹の内部に籠ることになる。


 やがて実るとされる世界樹の果実を、神代の魔物【世界喰(セカイグラ)イ】が眠る宝珠湖(エメラルド・レイク)に捧げることで捧蕾祭の主たる行事は完了する。


 一連の祭儀はまさしく今宵行われ。

 今も彼らはその準備に勤しんでいたが……。

 

「なに? 第一王女(クリスケッタ)の姿が見当たらぬ、だと⁉」


 エルフの王――アルフレッデが低く圧のある声で言った。


『はっ! 午後より誰も姿を見ておりませんで……』


 言いにくそうに兵士のひとりが報告した。


「大愚。この重要な本祭の日に姿を消すとは、あやつには森人族(エルフ)の王族としての自覚がないのか……!」


 王のしゃがれ声には怒りが満ち、震えていた。

 

「儀式を遅らせるわけにはいかん。既にエリエッタは樹内の祭壇にて今朝方より清めの儀を受けているのだ。間もなく日も暮れる――参るぞ、ルウルキフ」

 

「……はい、お父さま」


 ルウルキフと呼ばれた第三王女が、薄青のガラスのような髪をなびかせながら王のあとを追った。

 途中で振り返り、黒い雲がかかった日没の空に向かって呟く。


 

「お姉ちゃん。もうすぐ始まっちゃうよぅ――」


 

     ♡ ♡ ♡


 

「俺は――迷っている」

 

 同日、夕刻。

 アストが従者である悪魔・リルハムに向かってそう打ち明けた。


「えー! ご主人ちゃんがー?」


 リルハムが驚いたように目を丸くした。

 迷う、という言葉がふだんのアストとあまり結びつかなかったからだ。


 アストはこくりと神妙に頷いて続ける。


「エリエッタのミサダメのことだ。あれからあいつとも何度か言葉を交わしたが……俺にはどうも分からない。自らの命を捧げることを、あいつは()()()()()()()()()()ようにみえる。その運命に従うことを、一切迷うことも、疑うことすらせずすすんで受け入れている」


「…………」


 リルハムは唇を結んでアストの目をじいと見つめている。


「例えそれが運命であろうと――もし嫌であれば嫌だと言って拒否をすればいい。助けを求めてくれれば俺はいくらでも助けるつもりでいた。しかし――それが森人族(エルフ)の誇りであると言われれば、あくまで他種族(ぶがいしゃ)である俺には、どうすることもできないようにも思う」


 話を聞いていたリルハムは目をぱちくりさせて、ふうと簡単に息を吐いた。


「そっかー。ご主人ちゃんは優しいねー。リル、とっくに()()()()ものだと思ってたよー」


「む? 決めている……?」


「きっと種族が違うからこそ。信念が違うからこそ。あくまで()()だからこそ――結局のところは〝自分自身がどうしたいか〟しかないと思うよー」


 リルハムは大きな尻尾をゆっくりと振りながら、落ち着いた声で言う。


「ふむ――自分自身がどうしたいか、か」


 リルハムはこっくりと頷いて、柔らかく微笑んだ。


「ご主人ちゃんはどうしたいのー?」


「確かにそうだな。リルハムの言う通りだ。それなら――とっくに決まっていた」


 えへへー、とリルハムは耳をぴくりと動かして()んだ。


「リルハム、すまない。いくらかは迷いが晴れた。礼を言うぞ」


「ううん。リルはなんにもしてないよー。それに、」


 狼少女はそこでひとつ区切って言った。


「ご主人ちゃんがどんな選択をしたとしてもー。リルだけはいつまでもご主人ちゃんの味方だよー」


 アストはその言葉の意味を心に染み込ませるように時間を置いてから。

 目を何度か瞬かせて、微かに微笑んだ。


「ああ。頼りにしているぞ」


 そしてアストは深呼吸をしてから、日没の紅い空に目を細めた。

 

「時間がかかってしまったが――()()()()()()()()()。エリエッタの想いと決意はもう充分に聞いた。だから、今度は俺の番だ」


 全身が夕焼けに染まる中で、アストは自らの今の想いを言い切った。


 

「俺はエリエッタの命を救いたい。だからまずは――あいつにそのことを、伝えに行こうと思う」


 


覚悟が決まったアスト! 消えた第一王女の行方は――⁉

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