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STAGE 3-34;探索家、原聖典を調査する!

「ほっ……本当に【原聖典(グランド・バイブル)】があったっす~~~~~~~っ……!」


 禁忌ともされる神の御姿の模造(もぞう)に触れたあと。

 喋る神遺物(アーティファクト)である【真涅鏡(ニルバナ・ミラ)】により案内された神殿奥地で。

 探索家であるチェスカカが、祭壇に(まつ)られた聖なる書物を見て叫んだ。


『だから言ったはずでさあ!』


 ミラは再び【アスト】の姿に戻っていた。

 頭上に跳ねた2本の髪を震わしながらミラは言った。


『あっしは姉御(あねご)に嘘を吐くほど度胸は備わっちゃいねえ……!』

 

「て、手に取ってみてもいいっすか!?」


 チェスカカが好奇から目をきらめかせて言った。


『いいもなにもねえや――姉御たちはそのために来たんだろ?』

 

 チェスカカは興奮した面持ちでこくこくと頷くと、白い手袋を両手にはめて慎重にその書物を手に取った。


「この御威光(ごいこう)、確かにホンモノの【原聖典】の気配がするっす……! 信じられないっす~~~~~!」

 

 チェスカカは大きく深呼吸をしてから、中身を開いてそこに書かれた文章をゆっくりと追っていく。


「………………っ!」


 その表情が――やがて()()()変わっていった。


 ぱたり。

 ある程度中を読んだところで、チェスカカは聖典を閉じた。


「む? どうした。難しい顔をして」


 アストが尋ねた。


「……この原聖典は、()()()()が良かったかもしれないっす……」


 苦虫を嚙み潰したような、複雑な表情でチェスカカは言った。


「やはり本物だったのか?」


「本物だとしたらマズイことになるっす!」チェスカカがたまらず叫んだ。「この書物の中には……今現在、エルフの王族が所持している原聖典とは〝異なるミサダメ〟が書かれているっす……」


「ほう」アストの眉根がぴくりと跳ねた。「内容が違うということか」

 

 こくり。チェスカカは頷いて、「まさしくっす。そして、中身が異なるということは――」


「ふむ――やはりどちらかが()()()()()()()ということになる」


 アストはあくまで淡々と言い切った。


「その可能性が高いっす……! ただ、現時点ではどちらが()()()()かどうかは自分にも分からないっす。何せ、自分が見た限りでは両方ともに紛れもない神の手によるホンモノにしか見えないっす! いずれにせよ、どちらかが贋作(がんさく)だった場合――神の御威光を(かた)るなんて許されていいことじゃないっす! だからこそ……見なかった方が、良かったっす」


 チェスカカはうろたえるように視線を泳がせている。

 書物を持つ手は震えていた。


「それは――そんなにまずいことなのか?」アストがその震えを見て訊いた。


「そんなにまずいことっす!」チェスカカは恐れおののきながらも断言する。「どちらかが真実でどちらかが虚実だとすれば――それこそ森人族(エルフ)が信じてきたミサダメがひっくり返ることになるかもしれないっす……! そうなったらアストさん! 自分たちがここに来た意味もあったかもしれないっすよ……!」


 ごくりと唾を飲み込みながらチェスカカは続ける。


「すべてはアストさんのお陰っす! アストさんが神鳥(かんどり)に導かれて、あの怪物ゴーレムを粉砕して、【逸脱種(エクストラ)】すらも倒して味方につけた――そんな非常識なアストさんと一緒だったからこそ、()()()()()()()()()()()()この場所にまでたどり着くことができたっす! だから……これは、武者震(むしゃぶる)いっす!」


 チェスカカは自らの震える腕をもう片方の手で押さえつけながら言った。


森人族(エルフ)が王族より、大樹林の調査を許された公的調査員として。そこに駐在するエルフの友好種族として。そして――アストさんの功績を無駄にしないためにも! 自分にはここに渦巻く〝真実〟を見極める責任があるっす!」


 そうして彼女は、それまでの迷いを振り切るように叫んだ。


「アストさん!!」


「む?」

 

「この【原聖典】――少し自分に預からせて欲しいっす! 一体どちらが()()()()か――拠点(アジト)に戻って、色々と調べさせてくださいっす!」


 アストは腕組みをしたまま頷いた。


「ああ、願ってもない。頼んだぞ、チェスカカ」


 チェスカカはいつになく真剣な表情でその【原聖典】を艶のある布でくるむと、何やら≪保護魔法≫を施して、大切そうにバッグへとしまった。


 アストはふと思いついたように、少し離れたところで様子を見ていた【真涅鏡(ニルバナ・ミラ)】に言った。


「おい、ミラ。ひとつ頼みがあるんだが……俺と一緒についてきてくれないか?」


『がってんでい! 姉御の頼みってんなら喜んで馳せ参じますぜ!』


 アストは満足そうに片側の口角を上げた。


「チェスカカが調べている間……ひとつ()()を思いついてな。お前がいたらとても助かりそうなんだ」


 ミラは得意げに自らの胸をぽんと叩いた。


『あっしにできることならなんでも言ってくだせえ!』

 

 

      ♡ ♡ ♡



 同時刻。大樹林の辺縁部。

 黒く(うごめ)く影をまとった(やから)達が声を荒げていた。

 

『アストという少女の始末はまだか!』

『聞けば既に何度も()()()()()()()とのこと』

『〝あのお方〟もそろそろ黙ってはおられぬぞ』

『問題ない。次の手は打っている』

 

『次こそは!』『次こそは!!』『次こそは!!!』


『このままでは〝あのお方〟の悲願の達成に差し障る』

『その妨げとなる存在は』

『どれほど些末(さまつ)であっても片付けろ!』

『その芽を容赦なく刈り取れ!』

 

『御意!』『御意!!』『御意!!!』


『すべては〝あのお方〟の切望の成就のために』


『世界を滅するために!』

『人類の抹消のために!』

『すべてを終わらせるために!』


 

 

『『〝あのお方〟の宿願(しゅくがん)――【世界喰(セカイグラ)イ】の復活のために!!!』』


 


いよいよ捧蕾祭ほうらいさいとエルフの運命に渦巻く謎の核心に迫っていきます……!


ここまでお読みいただきありがとうございます!

よろしければページ下部↓よりブックマークや星★での評価などもぜひ。

(今後の執筆の励みにさせていただきます――)

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