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STAGE 3-33;遊び人、神様と比較される!


 アストが起動した常識を逸した数の古代魔法。

 その余波による激動は未だ収まらない。


「……すごい、振動っす……!」

 

 ようやく砂埃が晴れた先で――【逸脱した神遺物エクストラ・アーティファクト】である鏡像。

 アストと同様の姿形(すがたかたち)をしている彼女(それ)は。


『――ど、どうか! ご堪忍(かんにん)をーーーーーーーーーーー!』


 地面に五体投地して、謝罪をしてきた。


「「………………」」


 いきなりのことで困惑した後に。

 

「ア、【神遺物(アーティファクト)】が喋ったっすーーーーーーーーーーー!」


 チェスカカが叫んだ。

 あわあわとその口を震えさせてはいるが……見開いた目で興味深そうに〝土下座するもうひとりの鏡像(アスト)〟を見つめている。


「……む?」


 アストは拍子抜けしたかのように、続けて(はな)とうと空に展開していた極大魔法陣をおさめた。


「なんだお前、口が()けるのか」


『へ、へえ! (あね)()にはとんだ失礼をいたしやした……!』


 やけにへりくだった口調で神遺物(ソレ)は続ける。


「さ、さすがは【逸脱種(エクストラ)】っす~! 喋る神遺物(アーティファクト)なんて、現存する文献のどこにも残ってないっす……!」


 そいつはちらりとチェスカカに視線をやってから、神妙な面持ちで頷きながら説明をしてきた。

  

『すべては()()()を生み出した御神様(おかみさま)次第でさあ! 御神様がそこに『意志あれ』と願ってくれりゃ、あっしらも()()を持つことになる』


 とはいえ見た目と声はアストなので、口調といい声のトーンといい表情の変化といい……〝ふだんのアスト〟を知るものからすれば違和感しかない。

 

 チェスカカたちは眉間をしかめながら、その喋る神遺物(アーティファクト)を見つめていると。


 それは『ハッ』とふたりを向き直って、

 

『申し遅れやんした! あっしはまさしく神に創造されし【真涅鏡(ニルバナ・ミラ)】――ミラと気軽に呼んでくれて構わねえ!』

 

 今はアストの姿を真似ている、喋る鏡の逸脱種(エクストラ)――【ミラ】はそう言ってどんと胸を叩いた。


『もともとは御神様の御遣(みつか)いや、(いくさ)の稽古相手だったりに使われたもんでさあ。今は御神様は【西の果て】にお隠れになっちまったもんだから、残ったこの場所を(まも)ってたところを――姉御にこっぴどくヤられちまった……まったく、御神様に面目つかねえ』


 そこでミラは自分が目の前の少女に()()()()にされたという事実をあらためて思い出したらしく、鼻息荒く尋ねてきた。


『ハッ! そういやあ――そもそも姉御はどこの御仁で!? あっしを打ち負かすなんざ、とてもじゃねえが只者(ただもの)とは思えねえ。それこそ()()の血を引く御方か――」


「ただの真人族(ヒューマン)だ」


 アストが答えて、ミラが目を()いた。


「――職業『遊び人』のな」


 剥いた目がさらに見開かれた。


『じょ、冗談じゃ、あるめえな……?』


「アストさん、神殿の奥で神に使われた逸脱種(エクストラ)にすら目を剥かれて驚愕されてるっす……やっぱりホンモノっす……!」


 チェスカカはごくりと唾を飲み込んで恐れおののいた。

 続く動作で彼女はぴょこんと飛び上がり、帽子の羽根を揺らしながら何かに気づいたように言った。


「ミラさん! せっかくの機会っすし、単刀直入に訊くっす! さっき実際に()ってみて……アストさんの能力(チカラ)は【神様】にも匹敵するっすか……?」


 それは兼ねてから気になっていた疑問であった。

 人類の常識を逸したアストであるならば――もはや【神の域】にすらも到達しているのではないかと。


 しかし。

 

『いんや、それはねえ』ミラはあっさりと否定してきた。『さっき放った魔力砲をいくら喰らったところで、御神様はびくともしねえだろうな』


「そ、そうっすか……」チェスカカはどこか残念そうに言った。「さすがのアストさんでも、神様までには()()があったっすね。安心したというか、残念というか……むしろ! ()()()()()()()を越えてくる【神様】の存在が末恐ろしくなったっす……!」

 

『うんにゃ』ミラは顎に手を当てながら言う。『距離がある、っつうのは御幣(ごへい)があるが……』


「へ? どういうことっすか?」


『ああいや……なんでもねえさ』


 ミラは焦ったように頭を掻いた。

 頭上でアストを真似た遊び毛(ミラの場合は()()がぴょこんと飛び出るように跳ねていた)が揺れた。

 

(確かにさっきの攻撃ぐれえじゃ御神様はびくともしねえ。ただ……()()()()()()があったら正直分からねえな。なにせ、この目の前の真人族(ヒューマン)かどうかも未だ信じられねえ嬢ちゃんは――神に使われたこのあっしにすら、魔力の果てが見えねえんだからよ……!)


 ぶるり。ミラの背筋が震えた。

 もしも〝全力〟を出したアストと神が戦ったら――その結果は、ミラにすらも未知の境地であった。

 

 ミラのそんな懸念には気づかないまま、チェスカカが言った。

 

「アストさん……! やっぱり【神様】の方がよっぽど〝とんでもない〟お方みたいっすね……!」


「む? ああ、そうだな」アストは相変わらずの淡々とした様子で、しかし目の奥を輝かせた。「やはりゲームはこうでなくちゃならん。俺より強いヤツがいないと、張り合いがないからな」


「……ア、アストさん? それだとまるで神様と()()()()()()()()のような口ぶりっすけど……深くは聞かないことにしておくっす……!」


 チェスカカがぶんぶんと首を振って、その末恐ろしい予感を脳内から振り払った。


『で!』ミラがぱちんと腕を打った。『姉御たちはどうしたってこんな深部(しんぶ)にまで来たんでさ?』


「あ~~~~~~っ!」チェスカカが思い出したように叫んだ。「そうだったっす! 自分らはここに【神様】の手がかりを見つけに来たっすよ~!」


『手がかり?』ミラが眉根を寄せる。


 チェスカカはこくこくと頷いて、「神様が森人族(エルフ)に託したミサダメのことで、すこしややこしいことになってるっす……できれば、そのミサダメを書き換える……なんて畏れ多いことはできないっすけど、どうにか神様にご陳情(ちんじょう)を願えないかと、(わら)にも(すが)るつもりで来たっす……!」


『エルフのミサダメ……ああ、それならちょうど森人族(エルフ)の【原聖典(グランド・バイブル)】がこの奥に(まつ)られてるはずでさあ』


「……へ?」チェスカカがぽかんと口を開いた。「ど、どういうことっすか!?」


「む? なにかまずいことでもあるのか?」アストが口を挟む。


「まずいも何も――あり得ないことっす!」チェスカカは焦りながら説明を始めた。「【原聖典(グランド・バイブル)】は、それぞれの人間種族用に【神族】が記した神聖なる書物で、同種族のものはこの世に2冊とないっす! 1種族につき【 原聖典】は1冊のみ――もしこの先に森人族(エルフ)の【原聖典】が()るとしたら――今現在エルフの王様が手にして、ミサダメの根拠としているハズの【原聖典】は()()()()()って話になるっす……!」


「ほう。どちらかが〝偽物〟ということか」


「それがあり得ないことなんすよ……! 【原聖典】は一目で神が創りしものと分かる神聖な光を(まと)ってるっす!」


 ふとアストは同じく神の手によって創られた、あの美しい【種の宝珠(ファミリア・オーブ)】の輝きのことを思い出した。

 チェスカカは続ける。

 

「何より自分が以前、シンテリオ様と王族の(ほこら)に参った際にこの目で【原聖典】を確認してるっすけど……あれは正真正銘の()()()()だったっす! いずれにせよ、【原聖典】のニセモノを用意するなんてできるわけがないっすよ……!」

 

『そうは言ってもなあ、嬢ちゃん。実際にあるんだから仕方あるめえよ』


 ミラは特に驚くことなく、頭の後ろに手を回している。


「……! ミラさん! 自分らをそこに案内してほしいっす!」


 ミラは一瞬目を大きくしてから頷いて、ぱちんと自らの(もも)を叩いた。


『お安い御用でさあ!』


 

       * * *


  

「そういえば、なんだが」


 【原聖典】がある場所に先導してもらっている途中で、アストが尋ねた。


「ミラ、お前は()()姿()でも真似ることができるのか?」


 ミラと呼ばれた【逸脱した神遺物エクストラ・アーティファクト】は言った。

 

『できますぜ! この身の鏡に一度でも映した存在なら、その姿になることができまさあ』


「ふうむ。そうか」


『どうかしたんですかい? ハッ! いやあ、ついつい姉御の姿が魔力的にも効率が良いんで真似たままでしたが……気になるっつうなら他の姿に変えましょうかい?』


「ああ、いや……そうだな。気になるといえば、ひとつだけだ。お前、もしかして――」


 アストはミラの耳元に手を添えて、なにやらごにょごにょと囁いた。


『かっ、神様の姿にですかい~~~~~~~~~!?』


 アストはこっくりと頷いて、「ああ。神に使われて、神と拳を交えたこともあるお前にならできると思ってな。あいにく俺はまだ、神とやらの姿形を知らないんだ」


「っ! アストさんもすごいことを考えるっすね……!」チェスカカが冷や汗を頬に滴らせながら言う。「神の御姿(みすがた)なんて、それこそ世界に伝えられていない【禁忌】のひとつっすよ……!」

 

「だからこそ気になってな――ミラ、真似られるか?」


 ミラはたじろぎながらも、『そ、そりゃできるっちゃあできますが……この一度っきりにしてもらっても構わねえですかい? 保つのになかなか力を使うのと……あと、御神様の姿をとると、()()()()()()()()()()ような気がして落ち着かないんでさあ……』


「ああ。一度で構わん」

 

 アストは頭上の髪を犬のしっぽのようにふりふりと振っている。

 どうやら神の姿を()()とはいえ目の当たりにできることが楽しみであるらしい。


『姉御の頼みでさあ、叶えるにやぶさかじゃあねえ――当然、御神様()()の分を真似ることはできねえが……」


 前置いている間にも、ミラの身体を激しい光が包んでいった。


『これが御神様のひとつの御姿でさあ』

 

 やがてその光がひとつの形を創り出して。


 ――神の造形を取った。


「「…………っ!」」

 

 アストとチェスカカは目を見開いた。


 ふたりが目にした【神の姿】は。



 ――人類とまるで変わらない容貌をしていた。



 

遂に神様の片鱗が――⁉

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