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STAGE 3-31;遊び人、自分自身と戦う!?【前編】


 ひとつの(おごそ)かな鏡を挟んで映る()()()()()()()


 その片方が、間に存在する鏡面を越えて現実世界のアストに飛びかかってきた。


「……!」


 アストは地面を蹴り後方へと下がる。

 跳んだ先でバランスを崩し、後ろに転がった。

 

「アストさんっ!」


 チェスカカが目を見開いて叫ぶ。


「やっぱりその鏡、()()っす! 神遺物(アーティファクト)の中でも、類型に当てはまらない【逸脱種(エクストラ)】っすよ~~~~!」


「逸脱種?」


 ぶんぶんとチェスカカが首を縦に振った。


「【逸脱した神遺物エクストラ・アーティファクト】――ふつうの魔道具はそれ自身が〝武器〟になる以外には、使用者の魔力を高めたり、魔法効率を上げたりする〝触媒〟としての効果しか持ってないっす! 【逸脱種(エクストラ)】は名前のとおり、それ単体で触媒以上の〝特別な力〟を発揮する魔道具のことを指すっす! そんな魔道具の中でも()()()にあたるのが神に使われたとされる【神遺物(アーティファクト)】――その【逸脱種(エクストラ)】なんて言ったら、それだけで()()()()()()()()()ようなとんでもない代物っす……! 実際、鏡の中から〝もうひとりの自分〟が飛び出してくる魔道具なんて、見たことも聞いたこともないっすよ~~~~~!」


 チェスカカは相当に焦っているようだったが、それでもその大きく広げられた瞳の奥が(きら)めいていた。

 おそらく未知の魔道具とその効果に探索者としての血が騒いでいるのだろう。


「ふむ。つまりは〝すごい魔道具〟ということだな」アストは端的にまとめた。「だからこその逸脱(いつだつ)、か――血が騒ぐのは俺も同じだ」


 アストは地面から立ち上がり、服の裾を払いながら言った。

 そのあとに手の甲で頬を撫でる。頭上の髪を揺らす。じりじりと距離を取るように後ずさる。

 それらの行為すべてを――【鏡の中のアスト】に真似されていた。一挙手一投足。すべての所作を左右対称に模倣されている。


 ただひとつ――相手が口元に浮かべている歪んだ笑みを除いて。

 

「ふむ。まさかこんなところで()()()と戦えることになるとはな」


 アストが首を鳴らす。

 こきこきという音がふたり分響いた。


 そして現実世界のアストもついに。


 ――その口角を、上げた。

 

「一体どっちの俺が強いのか――とても楽しみだ」


 刹那。

 ふたりのアストが消失した。

 ゴーレムの時と同じだった。まともな動体視力ではとても追い切れない、超速度の踏み込み。

 各々が蹴った地面に遅れて網目状のひびが入る。


 それからちょうどふたりが立っていた地点のど()(なか)で。


 現実世界のアストと鏡面世界のアスト――ふたりの拳がかちあった。


「「…………‼」」

 

 衝撃が周囲に爆散した。

 静かだった湖の水面に、(とつ)として巨大な隕石が落下したかのような破滅的な波紋があたりに広がる。


「ひえええええ~~~~~……っ!?」


 チェスカカは衝撃に備えて身を小さくした。

 抑えた頭上の帽子がばたばたとなびく。おそるおそる視線を向けた先では。


 ふたりのアストが、互いに〝超絶的な攻撃〟を左右対称に繰り出し続けている。


「~~~~~~っ!」


 アストが大きく右足を蹴り出せば、相手も右足を蹴り出し。

 左肘をぶち込もうとすれば、相手も左肘を突き出して。

 勢いのまま回し蹴りを入れれば、相手も身体を回転させ蹴りを入れてくる。


 すべては美しさすらも感じるほど対称的に。

 まさしく鏡に映る自分を相手取るかのごとく演舞(えんぶ)的に。


 常軌を逸した肉弾戦は続けられる。

 その果てのない打ち消し合いの彼方で――ふたりは互いに距離を取った。

 隙は見せない。一瞬のうちにアストは空に古代ルーンで魔法陣を描きつける。


 当然のごとく、鏡面世界のアストも同じ魔法陣を展開した。

 

「んなあああ~~~っ!? あいつ、魔法もトレースするっすかああああ!?」

 

「ほう」


 アストは感心したように目を見開いた。

 続く動作で、展開させた魔法陣から。


 神殿の門番である魔法生物(ゴーレム)が放った魔力砲をも。

 遥かに上回る規模の波動砲(ビーム)を発射した。


「んななななななあああ~~~っ!????」


 大地だけでなく空気をも激しく(ひず)ませる鳴動(めいどう)とともに、互いの超威力の魔力砲がぶつかり合う。


「むむむむむ無理っす……! こんなの続けてたら〝神殿〟すらも壊れちゃうっすよ~~~~~……!」

 

 互いの攻撃がぶつかり合う中心では星が爆発するような衝撃があり、周囲に()るすべてを揺り動かした。

 激烈な嵐が巻き起こる。巨大な岩が弾け飛ぶ。大地が轟々と震える。神殿の構成物がびりびりと痺れるように歪む。

 

 そんな途方もない魔力の激流がどうにか収束し。


 周囲を濃霧のように覆い尽くしていた砂埃が()んだ先で。


 ――ふたりのアストは、互いに()()で対峙し合っていた。


「ひええええぇぇぇ~~~……完全に、打ち消し合ってるっす~~~……!」


 アストの実力と()()()()()

 その恐ろしさは、アストの異常さを知るチェスカカだからこそ理解でき、それと同時に全身を果ての無い恐怖が(つんざ)いた。

 彼女の大きく開かれた瞳から、大粒の涙が零れ始める。

 

 

「あのアストさんと()()だなんて……この【逸脱種】は、この世に()ってはならない存在――まさしく〝とんでもない〟やつっす~~~……!」


 


途方もない戦いの結末は――⁉


本日このあとも更新します!

作品ブックマーク等の上、お待ちいただけると嬉しいです。

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