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STAGE 3-25;遊び人、探索家に相談を持ち掛ける!


「カミサマの発言を()()させる~~~~~~!!!!?」

 

 帝国特別軍所属の『探索家(ディグラー)』であるチェスカカが叫んだ。


「む。すこし言い方が違うな。俺はただ、ミサダメとやらが書かれた【神典】の内容を()()()()()()()もらおうと思っただけだ」


「一緒っすよ!!!! どっちもふつうの人間なら想像すらつかないあり得ない行為っす!!!!」

  

 ふたたびチェスカカが大声を出す。

 本人の身体とともに、頭上の帽子についた大きな羽根もすぽんと飛び上がったようだった。


「むう」アストが唇を突き出すように歪める。「そうは言ってもな。俺はそれが一番良いと思ったんだから仕方ない」


 チェスカカは『はあああぁぁぁ~~~』と大きなため息を吐く。

  

「良いとか良くないとか、アストさんの中の善悪の問題じゃないっすよ、特に()()のことに関しては……」


 森人族(エルフ)の第一王女――エリエッタによる剣舞披露と〝非業の運命の告白〟から一夜が明けて。

 アストは樹下街の広場でチェスカカと落ち合っていた。あたりにはまだ昨夜の祭りの名残が残っている。

 屋台などもそのままになっており、捧蕾祭の本祭が終わるまでは(あるいは終わったあとの〝後祭〟も含めて)また広場では〝お祭ごと〟が定期的に行われるらしい。


 それでも。

 昨夜の主役であったエリエッタが〝後祭〟を楽しむことはない。

 彼女は【神典】に定められた使命に(のっと)り、今日から数えて6日後の満月の夜に世界樹に【生贄】として捧げられてしまうらしい。


 アストはそのことがどうしても腑に落ちなかった。

 

 ――あたしには、生きて帰らなければならない場所があったんですっ。


 エリエッタは貴族の館からの帰り道で、真っすぐな瞳でアストにそう告げていた。

 〝生きて帰らなければならない〟ということはつまり彼女にとって、〝()()()()()帰らなければならない〟ということと同義だったのだろうか。

 自らが助けた命がまたみすみす失われることを考えると、たとえそれが〝神様の命令〟で〝本人の誇り〟であったとしても、アストの中ではもやもやとした気持ちとなって残り続けたのだった。


 そこでアストは考えた。


 ――神に命令を訂正してもらおう。


 と。


「………………」


 チェスカカは口を大きく開けたまま沈黙している。

  

 神様から職業(ギフト)を授かり、神様への祈りを欠かさないこの世界の人間には一笑どころか怒り出す人もいるような。

 どこまでも馬鹿げて――どこまでも規格外なそんな〝相談事〟を。


 アストは唯一【サイハテ】の話ができ、神様に関する知識もありそうなチェスカカに持ち掛けたのだった。

 しかし。

 

「無理っす!!!!」


 チェスカカには簡単に断られた。


「無理に決まってるっすよ! 仮に訂正をお願いしようにも、神様はこの世界の遥か西の果て――サイハテに、」


 チェスカカは『はっ!』として周囲をきょろきょろと用心深く見回す。

 それにあわせて彼女の胸で【呪文外しの首飾り】と称された鈍色のペンダントが揺れた。

 ひととおり付近を確認し終えると、彼女は小声になって囁くように続けた。


「神様はそのサイハテにいらっしゃって、()()()()には出てこられないっす……! 会いたくても今からじゃとてもじゃないっすけど、6日後の本祭までには間に合わないっすよ! 第一、我々()()()()人間の()()()()お願いを聞いて『ハイハイ分かりました訂正しましょう』なんて神様が納得してくれるかどうかも怪しいっす……ぜんぶが無茶苦茶っすよ……」


 チェスカカは大きな身振り手振りの末に、とうとう両手で頭を抱えたまま地面にばったりと倒れこんでしまった。


「む……大丈夫か……?」


「大丈夫じゃないっすよ……なんて相談を持ち掛けてくれたっすか、アストさん……」


 チェスカカは地面にうつ伏せになったままで答えた。

 どうやらその奇妙な体制が彼女にとっての〝思案を巡らせる〟際の恰好であるらしかった。


『神典を我々の手で書き換える……なんてもちろん本質的じゃないっすし』

『そもそも神典は、神族にしか書き記せない聖なる書物……易々触れるものじゃないっす……』

『その上で〝6日以内〟に内容を神様に訂正させるなんて非常識を、どうしたら……』


 などとチェスカカは倒れた状態でブツブツ呟いていた。

 アストの無理な相談とはいえ、彼女はその性格と職業柄であろうか、どうやらかなり真剣に考えてくれているようだった。


「はっっっ!!!!!!」

 

 やがて彼女は()()式の人形のようにぴこーんと立ち上がり、アストへ勢いよく向き直った。


「む? 良い方法でも思い浮かんだのか」アストもつられて頭上の髪を跳ねさせながら訊く。

 

「可能性としては〝やってみる価値はある〟ってとこっすね!」

 

 彼女は得意げに胸を張りながら念を押してきた。


「知りたいっすか? 知りたいっすよね!?」


「あ、ああ」その勢いに圧されるようにアストは頷く。


「そうだと思ったっす~!」


 チェスカカは満足そうに顎を撫でてから〝とある条件〟を出してきた。


「いいっすか!? これはひどく困難で複雑で難解な相談事っす! 世界を見渡してもこんな相談に乗ってあげられるのは自分くらいしかいないっすね!」


「む? なにが言いたいんだ」アストは眉間に皺を寄せる。


()()()()っすよ! アストさんの相談に乗る代わりに、自分もそれに見合った〝報酬〟が欲しいっす!」


「むう、確かにそれもそうか。なにが欲しいんだ?」


 俺に用意できることであればいいが、とアストは不安げに視線を下げた。


「大丈夫っすよ! アストさんに簡単にできることっす! いや……アストさんにしか簡単にできないことっす!」

 

 チェスカカはそこでらんらんと輝かせていた瞳をふと奥に引っ込ませて。

 ごくりと唾を飲み込んで。

 指を一本、空に重々しく立てて。


「この難攻不落の城塞を砕くかのような相談事を受ける代わりに――」

 

 ひどく真剣な表情と雰囲気を作って。


 報酬の概要を、話した。



 

「自分にアストさんの――〝(わき)〟を()めさせてほしいっす――!」


 


「……は?」

 

 アストは『は?』と言った。



 

チェスカカからのまさかの要求……!

アストの腋は舐められてしまうのでしょうか――?


ここまでお読みいただきありがとうございます!

面白そうでしたらページ下部よりブックマークや、星★での評価などもぜひ。

(今後の執筆の励みにさせていただきます)

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