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STAGE 3-16;遊び人、お姫様を救出する!


「イメージよりは……質素な場所だな」


 樹上宮(じゅじょうきゅう)・王座の間。

 そこには、ゲームの世界で描かれる王宮のような豪華絢爛さはなかった。

 〝最低限のものがそこにあるだけ〟といった設えの空間で、王が座るであろう椅子も、シンプルな作りのものだった。


 そこに、ふらりと。


「………………」


 エルフの王であろう男が、杖をつきながらやってきた。


 あろう、と断言できなかったのは。

 その男の容貌が、あまりに〝王〟というイメージから乖離していたからだ。


「お父さん、クリスケッタだよぅ」


 無造作に椅子に座ったその男の耳元に、ルウルキフが囁くように言った。

 続いてクリスケッタが声を張る。


「アルフレッデ王よ! ――ただいま、帰還いたした」


 森人族(エルフ)の王は【アルフレッデ】と呼ばれた。


 それにしても……その枯草色の長髪は、ぼさぼさとして艶はない。

 顔からは生気が失せ、無精ひげと眼のくまが酷い。

 本来であれば、威光を輝かせるべきであろう翡翠色の瞳は血走っている。

 街中で見かけたとしても、彼を王だと認識するのは困難に思えるくらいに――心労が溜まっているようだった。


 彼はしゃがれた声で言う。


「先に到着した兵からあらましは聞いた。()()()()()()()()()


 それは〝神が起こした奇跡〟とされた『変異種ワイバーン(S級魔物)の討伐』のことを指していた。

 クリスケッタは訂正したい気持ちを、ぐ、と抑え込んで続ける。


「ひとつ、願いがあって参った。ここにいる真人族(ヒューマン)の少女――アスト殿というが、」


 エルフの王は、そこではじめてアストたちの存在に気が付いたかのように目を見開いた。


「彼女に――第二王女(エリエッタ)の捜索を託したく、(ゆる)しをいただきたい」


「――ならぬ!!」


 そこで。

 はじめて、エルフの王――アルフレッデが見せた感情は。




 明確な、怒気であった。




     ♡ ♡ ♡




「第二王女の捜索を――」


「ならぬ!」


 ようやく表出した〝王〟足り得る迫力に、クリスケッタもたじろいだ。


「くっ……なぜ、ですか」


「まさに天啓。神の御業により、暗雲の立ち込めた我が国の未来を晴らしたもうた。神は――未だ、我々を見放してはいない」


 もはや狂気する感じる語気の強さで、アルフレッデは続ける。


戒告(かいこく)。これ以上、我らの神使命(ミサダメ)を掻きまわすな」


 最後に、ぎろりとその血眼をアストに向けた。


「しかし、王よ! そもそも、あの〝神の御奇跡(みきせき)〟とやらは――」


「閉口せよ! もとはといえば、第二王女(エリエッタ)の監視は貴様の領分であったはずだ」


「くっ、それは……」


「笑止。神使命(ミサダメ)を軽視した、貴様の行動が神の怒りに触れたのだ!」


「違う! 妾は、だれよりも神の忠義に……くっ……!」


 クリスケッタの言葉尻が、広間の床に落ちていく。


「ふむ。なにやら、一筋縄ではいかぬ家族関係のようだな」


 ふたりの問答を見ていたアストが小さく呟いた。


()()()()()よ!」エルフの王が、唐突に人の名前を叫んだ。「お主からも、この神に背きし愚娘への戒告(かいこく)を頼む」


「いやはや……戒告、と言われましてもねえ」


「……む?」


 アストが振り向くと――王座の間の部屋の隅。

 目立たない柱の前に、その男はいた。


「ほう、気がつかなかったな」


 線の細い真人族(ヒューマン)の男であった。白黒(モノクロ)を基調にした軍服を着ている。

 日焼けのない肌に馴染むような灰色の髪と、金糸色の瞳。

 目鼻立ちはよく――むしろ目の前の王よりも、彼のほうがよほど〝エルフ〟という存在に相応しい美麗な見目をしていた。


「ルウルキフ! 人払いをしろと言ったであろう!」


 クリスケッタが語気を強めた。

 ルウルキフはふるふると首を振って、「お父様が、どうしてもって」


「くっ」その男がいたのは想定外であったのか、クリスケッタは唇を噛んでアストに囁く。「奴はシンテリオ。先に話した、大樹林に常駐する帝国特別軍の大佐(トップ)だ。言い方は悪いが……国王は、過剰なまでにあの男に入れ込んでいる」


「はてさて……クリスケッタ様も、落ち着かれてはいかがです?」


 【シンテリオ】というその男は、やけに優しげな口調で言う。


「妹君の失踪の件は、我が軍が〝友好種族の誇り〟をかけて調査中です。神の手によるものか――人の手によるものか」


 口元に微笑を浮かべてはいるが、瞳からは覇気が欠損している――つかみどころのない気配を漂わせて彼は続ける。


「それがもし仮に後者――あろうことか、神使命(ミサダメ)により世界の救済を託された森人族(エルフ)の『文化職』の姫殿下を攫うような愚者であったとすれば――その犯人の捕縛も含めて、我々に一任されています」


 はあああ、とクリスケッタは長めの溜息を吐きながら、皮肉を強めに言った。


「いつになっても進捗ひとつ寄こさない貴君らの調査に加えて、妾の方でも信頼と実績ある者に託すというだけだ」


 ふう、とシンテリオは返すように短く息を吐いて、「それが神の意図に背きかねない、と王は仰っているのですよ」


「言い方が悪かったか。貴君らだけに任せておくのは不安だ、と()()()()()()()


 がたり。ふたりの会話を聞いていたエルフの王が、たまらず立ち上がった。


「無礼千万!!! この愚かな娘を懲罰檻へ引っ立てよ!」


 国王が、自らの娘を捕縛せしめんとする矛盾めいた指示に、その場にいた上層部のエルフたちが困惑した。


 ざわざわと騒がしくなる空気の中に、あどけない声が響き渡る。


「あの、ね」


 第三王女――ルウルキフだった。


「むずかしいことは、わかんないんだけどね。()()は……お姉ちゃんが、神様のもとじゃなくって、もしまだこの世界にいるなら」


 くい、と彼女は自らの腰衣を握りしめて続ける。


「ただ――会いたいなって、思うよぅ」


 空気が変わった。

 幼い少女の、姉に対する純粋な想いが――その場のだれもに伝わったようだった。


「……過信。貴様が肩を入れるその真人族(ヒューマン)の実力は知らぬが、どうせ不発に終わる」


 エルフの王が上衣を翻して、再び座に就いた。


「……! ということは、」


「好きにするがいい。神が見放した愚かな娘よ」


 言葉には変わらず棘があったが。

 アストによるエリエッタの捜索は、認められたようだった。


「……っ」


 シンテリオは溜息とも舌打ちともつかない短めの息を吐く。

 心なしか、その笑顔が歪んでいるようにも見えた。


「いやはや――王も人が悪い」


「アスト殿!」


 クリスケッタが安堵を滲ませ声を張った。


「形ばかりですまないが、これで種族としての許可がおりた。正式に、妹の捜索を依頼したい」


「分かった。お前らの言うミサダメやらなんやら、難しいことは俺にも分からないが――」


 アストは頭上の髪をふらふらと揺らしながら言う。


「とにかくも、お前の妹を捜してくればいいんだな」


「ああ。簡単には言うが、相当に骨が折れる所業には変わりない――」


 そうしてアストは、エリエッタの情報をいくつか聞き出すと。

 ひとりでふらりと大樹林を後にして。


 数日も経たないうちに、()()()()()




     ♡ ♡ ♡




「よし、連れてきたぞ」


「「「(なに)いいいいぃぃぃぃぃ!!!!!?」」」




     ♡ ♡ ♡




 その場にいた全エルフの顎が外れた。

 瞳をまん丸に見開いて、衝撃の表情を浮かべている。


「「んなっ、なっ、なあああ……!?」」


 正式な依頼を受けて幾日もないうちに。

 大樹林に戻ったアストが連れてきたのは、紛れもない。


 ――森人族(エルフ)の第二王女【エリエッタ】であった。


「あ、あのっ……」


 彼女はどこか気まずそうにしながら、森の息吹のように美しい声で。

 

 言った。

 



「ただいま、ですっ」





ミッション、秒で完了(コンプリート)――!

(全カットされた救出劇の全貌を復習されたい方は、本作冒頭部・第1話~5話をご覧ください……!)


ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白そうでしたらブックマークや、星★での評価などもぜひ!

(今後の励みにさせていただきます)

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど…最初の5話はここに繋がってるんだ。最初見た時、なんかストーリー噛み合わないと思った原因がこれか…
[気になる点] 結局、捜索してると嘯いていた帝国の奴等が奴隷にしてた訳だけど、エルフの国と帝国の関係性どうなるんだろう。
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