STAGE 3-1;遊び人、神エイムを見せつける!
『――〝世界樹〟を枯らしてはならぬ』
それは彼らにとっての使命であり。
『――〝世界樹〟枯れし時、世界もまた滅びん』
世界にとっての生命線でもあった。
『――さすれば備えよ。〝獣〟が目覚めし危難の時に』
大地から魔力を吸い上げ、空にも届く。
まさに世界を象徴する大木――
その〝世界樹〟の守人は【森人族】と呼ばれ。
遥か古代より〝使命〟を果たすべく、不可避の運命を生きていた。
♡ ♡ ♡
「うあーーーーーーーー!」
中心部に〝世界樹〟を擁する大樹林の入口から数里進んだ先で。
狼悪魔少女・リルハムの叫びが響き渡った。
「まってまってまってー! ご主人ちゃんたち【真人族】と【森人族】って友好種族じゃなかったのー!?」
「ふむ……俺もそう聞いてはいたが。この様子を見るに、少なくとも歓迎はされていなさそうだな」
金色の髪の美少女――アストは。
単調ではあるが、あどけなさも残る口調で。
次から次に飛んでくる〝矢の嵐〟を避けながら言った。
「歓迎どころか、完全に敵だと見なされてるよねー!? うあーっ!!」
リルハムの目の前を矢が掠めた。
魔法による強化圧が込められたそれは、後方の岩を砕くような勢いでびいんと突き立った。
「ふむ。見事なものだな」
それを見たアストは、心配どころか感心するように言った。
「ここまで相当な距離がある上に、動く的の挙動も完璧に予測して射っている」
「感心してる場合じゃないよー! ひー!?」
北の大穴を攻略したアストたちは、神々が棲まう地を目指すのに必要な6種の人間族が持つ【淵源の宝珠】を手に入れるべく。
まずは森人族に接触しようと、彼らが統治する大樹林を訪れていた。
――友好種族のエルフなら、話はスムーズにいくんじゃないかなー。
そんなリルハムのフラグを徹底的に回収して。
今現在、ふたりは姿の見えない森人族の弓兵隊による、まさに〝矢継ぎ早〟の攻撃を受けていた。
「〝エルフの弓術〟って言ったらすごく有名なんだよー! 職業も弓系の上級職が多いって聞くしー」
「ほう、道理でな」アストは頭上の髪の毛をぴこんと跳ねさせて言う。「この森の木々を傷つけないようにしているのだろうか。矢が俺を外しても、なるべく地面や岩石に当たるよう射線が調整されている。このあたりは確かに――心優しさの表れなのだろう」
「心優しさー……?」
リルハムは目の前を飛び交う、明らかな殺気が込められた無数の矢を見ながら首を捻った。
(うーん。間違いなくリルたちに風穴を開けにきてると思うけどなー……)
ががががが、と。
統率された矢による波状攻撃は止まない。
むしろ、いくら矢を射ろうとも避け続けるふたりの少女たちにいらいらを募らせ、その勢いを増しているようにも見える。
「いずれにせよ……上姉様から受けていた矢に比べれば可愛いものだ」
アストはそんな不穏なセリフを呟きながら。
動かし続けていた足をふと止めて。
その場に立ち尽くすと――
「ご主人ちゃんー? どうしたの、いきなり止まってー……うあー! あぶないー!」
リルハムの叫びを気に留めずに。アストは。
ふう、と短く息を吐いて。両の掌を二三度開閉させて。
小さな身体へと、強烈な覇気をまとって襲い来る大量の矢を。
ばちちちちちちちち。と。
白く細い指と指の間のそれぞれで挟むようにして。
受け止めた。
「ーーーっ!?」
リルハムが大きく丸い目をさらに見開いた。
「ふむ。やはり〝優しい弓〟だ」アストはまったく動じず、そのうちの一本の矢じりを紅色の舌で舐めあげてから言った。「致死性の毒なども塗られていなさそうだしな」
「魔法強化された森人族の矢を……受け止めたー……!?」
その事実は、遠方から矢を放ってきたエルフたちにとっても想定外だったのだろうか。
徹底的に規律正しく放たれてきた矢の奔流が刹那、乱れた。
「ってゆーかご主人ちゃんー! 毒があるかもしれないのに舐めて確かめないでよー!」
なにかあったらどうするのさー、とリルハムが我が子を心配する親犬のように耳を跳ねさせながら言った。
「西南西に3人。南南西に5人」
しかしアストは。
「……へー?」
何物にも代えがたい宝石のような瞳を、左右に軽く動かしてから淡々と続ける。
「5人の方が熟練者のようだが、司令塔は――3人の方についているな」
「い、今までの攻撃でそんなこともわかるのー!?」
「ああ。射線の角度に放たれてからの時間差や威力、回転や矢の手入れの癖――これだけヒントがあれば充分だ」
アストは話しながら、ばらりと手にしていた矢を地面に落とした。
次の瞬間。
それまでよりもひと際強大な圧気をまとった矢がアストへと迫るが――
それすらも彼女はなんなく受け止めた。
「ほう、今までにない種類の矢だ。司令塔自らで撃ってきたか。他よりも抜群に強くて上質だ」
「え、……待って待ってー? 当たり前のように澄ました顔してるけど、今のって上級レベルの魔法攻撃だよねー……? それをご主人ちゃんは、素手で受け止めたのー……?」
リルハムがこくりと唾を飲み込みながら言った。
狼少女の驚愕もつゆ知れず。
エルフの中でも腕の立つ者が放ったであろう〝強くて上質な矢〟はアストの手の中でびいんと震えて、やがて勢いは消失した。
「ふむ。次は俺の手番だな」
そうしてアストは頭上の髪を、まさしく山札から新たなカードを引く子供のように楽しげに跳ねさせながら。
空に古代ルーンの魔法陣をいくつか展開させた。
「ご、ご主人ちゃん、なにする気ー?」
アストは矢の飛んできた方角――リーダーがいると予想した南南西を宝石のような瞳でぞくりと見抜いて。
掌中の矢をくるりと反転させて持ち直し。
遠投の選手のように大きく振りかぶって。
手にした矢を思い切りぶん投げた。
「うあーっ!?」
ぐおん、とつむじ風が振りぬいたアストの右腕を起点に巻き起こった。
矢の進行方向では、周囲の草木がまるでボーリングのピンのように容易に倒れていく。
みしみしとシャフトを軋ませながら激烈な勢いで飛んでいくアストの矢は。
遥か先にいた森人族の弓兵隊――
そのトップが手にしていた弓の、爪先にも満たない細さの弦を。
完璧に撃ち抜いた。
「よし、当たった」
掌を瞼の上に当て、目を凝らしながらアストが言った。
「あた、ったー……?」
リルハムは何を言っているのか理解ができないといった様子で語尾を上げる。
そんな常軌を逸するエイム力を見せつけたアストは、どこか目をきらめかせて。
懐かしそうに言った。
「ああ。腕が鈍っていなくて良かった――FPSは昔から得意なんだ」
もはや得意不得意の次元を超えた異常すぎる出来事に。
死すら厭わず外敵を排除するように放たれていた無数の矢の乱舞が――
ぴたりと止んだ。
いよいよ今話より新章突入!
エルフが古より守る〝世界樹〟――
『種族』と『世界』が背負った薄幸の運命に、アストたちが立ち向かいます!
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