STAGE 2-14;遊び人、悪魔の大鎌を受け止める!
「――――っ!」
地上世界で〝最強〟と称された悪魔による魔力の爆発に。
アストですらもその表情を引きつらせた。
「ほう――これは確かに、すごいな」彼女は目を見開きながら言った。「やはり【悪魔】と名乗るだけのことはある」
ぎりぎりと空気が震えている。
その圧に耐え切れなくなった大地はところどころでめくれ上がり。
石礫を巻き込んで周囲に嵐のような豪風を巻き起こした。
「いたーっ! ……なにー?」
切り立った岩壁のふもとで眠っていたリルハムの身に礫があたり、彼女は目を覚ました。
起き上がったと同時に飛び込んできた光景に、狼少女の毛が逆立つ。
「う、そー……? あれ、本当にフルカルス……?」
アストと対峙する黒い化け物が放ち続ける強大な圧気を見て、リルハムが呟くように言った。
「この地上世界にいる間に、どれだけの魔力をため込んできたのー……!? 冥界にいた時の強さを、とっくに超えて……うあーっ!」
リルハムは言葉の途中で。
暴風に巻き込まれた巨大な石を避けきれず、そのまま後方へ吹き飛ばされた。
そんな〝岩嵐〟の中心で。
烈々と黒い瘴気を全身から滾らせながら、フルカルスは言った。
『空間は無限だと言ったが――我輩はひとつ重大な失敗を犯していタ』
ぼこり、ぼこりと。
文字通りはち切れんばかりに唸る魔力で、全身に走る黒い筋を不気味に蠢かせながら。
その世界番は言った。
『次は〝罠〟の方も、言葉通り無限に仕掛けてやろウ――≪死死刈罠・創置≫!』
フルカルスは放出した魔力をすべて術式に変換して――
まさしく無限に思える量の≪魔法陣≫を創り出した。
文字通りに空間を埋め尽くす規模のそれは、煌々と輝いた後に。
それぞれの場所に溶け込むように消えていく。
『さア――ここからが本当の死合ダ』
フルカルスが力強い声で言った。
『我輩を楽しませてくれなくていイ――とっとと死ネ』
その言葉と同時に。
フルカルスが消えた。
次の瞬間。
巨大な鎌を振りかぶるフルカルスが、アストの背後に既にいた。
『――≪死死刈斬≫!』
どうにかアストが避けた先に待ち受けていたのは。
『終わりダ。人間――≪解放≫!』
先ほど無数に仕掛けられた≪死死刈罠≫の〝乱舞〟だった。
とてつもない衝撃と音がアストが吹き飛ばされた方向で鳴り響く。
『どこに仕掛けたか〝嗅覚〟で分かると言ったガ――そんなものは分かって構わなイ。≪罠魔法≫を無限に仕掛けた空間に、その柔い身体ごとぶち込めばそれで終わりダ』
しかし。
鳴りやまない轟音と石礫の渦の中から。
その人形のような少女は立ち上がってきた。
すべては回避しきれなかったのか、身体の隅々に血が滲んでいる。
『ふン。今ので四肢が無事とは――やはり運だけはいいようダ』
フルカルスは怯むことなく、次なる攻撃を仕掛けてきた。
『――ふハハハハ! いくら古代魔法を撃とうと無駄ダ! 我が鎌はその秩序の如何に関わらず、空間ごと世界を刈り取ル――頼みの綱だった≪職業魔法≫が封じられた今、キサマにはどうすることもできなイ!』
「ふむ……逃げてばかりでもきりがないな」
アストは目の前で繰り出される、ひとつでもまともに受ければ無事では済まない無数の攻撃の渦を受けてなお――淡々とした口調で言った。
「〝秩序すら切り裂く大鎌〟か――俺もなにかあればいいんだが……む?」
アストはそこで、自らの腰元にあった小刀の存在に気が付いた。
「ふむ――試してみるか」
♡ ♡ ♡
無数の≪罠魔法≫の乱打により巻き上がった土埃の渦が晴れた先で。
『んア――なんのつもりダ』
アストは自らの両手に収まるほどの大きさのナイフを手にして立っていた。
『ふハハハハハ! まさかとは思うがキサマ、その玩具のような小剣で、空をも切り裂く我が大鎌と張り合おうというのカ!』
フルカルスは天を仰ぎながら嗤っている。
『まがりなりにも銀狼に見初められ、我輩もその実力を認めてはいたガ――死期を察しとうとうおかしくなったカ!』
「いや――俺は別に、張り合おうとするつもりはない」
しかしアストは。相変わらずの淡々とした口調で。
「この小剣で――お前の鎌を壊すつもりでいる」
そう言ってから、フルカルスに向かって跳んだ。
『ふハッ! やはり気が違ったカ。そのような粗雑な小刀一本で、我が大鎌を壊すなど天地が返ろうが不可能。夢見がちな思考を現実に引き戻してやろウ――≪死死刈斬≫!』
世界最強の悪魔・フルカルスは、解放した魔力で大鎌を強化した。
これまで以上に激烈なオーラを纏い、青白く光った刃を――振るう。
そしてその刃先が――アストの構えた小剣に、当たった。
『っ! 莫迦ガ! こいつ、本当に受けやがっタ!』フルカルスが顔を歪めて叫んだ。『ようやく捉えたゾ、愚かな人間――このままキサマの身体を抉り取ってやル!』
しかし。
いつまで経っても、大鎌はびくとも動かない。
『……んア?』
フルカルスの赤い目が信じられないように見開かれた。
小さなアストが構える、小さな刃先は。
青白いフルカルスのそれと対照的に〝紅く〟輝いて。
大鎌の一撃を、完膚なきまでに受け止めていた。
『なあアアアアア!? 莫迦な! ≪死死刈斬≫は秩序すら切り裂く強度を与える付与魔法による攻撃――それをなぜ矮小な剣ひとつで受け止めている!? ――んア?』
フルカルスはそこで、紅に輝くアストのナイフに気が付いて、
『まさか……それハ……我輩と同じ≪付与魔法≫だト!?』
「ああ。お陰様で似た魔法陣は無限に見たからな」アストは当たり前のように言った。「やはり『職業』に関係しない≪古代魔法≫は便利だ。術式をすこし真似るだけで――俺にもできた」
フルカルスの赤い目が、最高潮に震えた。
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