STAGE 2-12;遊び人、最強悪魔に怯えられる!
〝【神様の加護】など僅かにも届かない〟と断言された『北の大穴』最終階層にて。
ダンジョンを揺るがすほどの衝撃を宿す≪古代魔法≫をアストはぶっ放した。
『あああああああああああア!?』
断言した本人である世界最強の悪魔――
フルカルスが赤い瞳が左右に揺らしながら絶叫した。
『なんダ、今の莫迦げた威力の魔法ハ……! いつ術式を展開したんダ……!? いや、それよりも――なぜ【神の加護】が届かぬこの場所で、人間種如きが魔法を使えル!?』
「うー……」
アストの後方で、地面に倒れこんでいだ狼少女――リルハムがタイミングよくうめき声を出した。
心配してアストは振り返ったが、彼女は『もう食べられないよー……うあー』と何やら平和な寝言を言っていたため、すぐに安堵の息を吐く。
『ッ! そうカ、炎狼との契約で手にした【邪神様の≪職業魔法≫】……! ならば逆に好都合ダ!』
フルカルスが勝利を確信したかのように高らかに叫んだ。
『我々【悪魔】は【邪神様】の眷属――人間風情が【邪神様】から借りた『職業魔法』くらいでは、傷ひとつつくことはなイ!』
しかしアストは、フルカルスが長々と喋った言葉を無視して。
『……んア?』
小さな指先からは考えられないほど甚大な規模の≪魔法術式≫を展開した。
『なアアアアア!? こ、これは人間どもが使う『職業魔法』ではなイ――! 悪魔と同じ≪古代ルーン≫の術式だト!?』
ふたたびフルカルスが赤い目を揺らしながら叫んだ。
『莫迦ナ! 古代ルーンは魔力に長けた我々【神族】に向けた魔法文字だゾ!? 人間の塵滓の如き矮小な魔力量で、まともに使いこなせるはずが……ガッ!?』
言葉の途中でアストは。
その古代ルーンによる≪古代魔法≫を完璧に使いこなして。
フルカルスにふたたび巨大な魔力砲を放った。
『――ッ!?』
世界番はその巨砲をすんでのとこで躱す。
「ふむ、今度は避けられたか――見た目の割になかなかすばしっこいやつだな」
『っ! ――莫迦にするナ! 人間風情がアアア! 例えキサマが≪古代魔法≫を使えようガ、悪魔とは年季の入り方が違うのダ!』
フルカルスは言いながら空に、古代ルーンによる術式を展開し始めた。
しかし途中でその手がぴくりと――止まる。
『――あアッ!?』
見開かれた視線の先で。アストは。
今度は≪古代魔法≫ではなく【邪神】から授かった≪職業魔法≫の術式を。
悪魔の想像を遥かに上回る規模で展開し始めた。
『ッ!? 今度こそ、職業魔法ヲ……なんという、魔力量ダ……!』
その事実から導き出される最上級の〝嫌な予感〟に。
フルカルスの顎からとめどなく冷や汗が滴っていく。
≪職業魔法≫――それは発動時に【神】の力を借りる、人類に忖度された魔法。
それは≪古代魔法≫と比較して、何倍・何十倍もの魔法効率を誇るという。
『≪職業魔法≫はもともと〝魔力量の少ない人間用〟に、神が【加護】として創造した魔法ダ――それなのニ』
フルカルスがごくりと喉を鳴らして続ける。
『我々【神族】と同じ規模――下手をすればそれ以上に≪古代魔法≫を使いこなす〝常識外〟の化け物が――最大効率の≪職業魔法≫を扱ったらどうなってしまうのダ……!?』
ひどく焦りを募らせる世界番の悪魔を前にして。
「さっき〝捜し物〟が見つかったと言っていたが……それは俺もだ」
アストは冷静に、淡々と続ける。
「新しく手に入れた魔法の〝実験台〟を探していてな――どうやらお前がちょうどよさそうだ」
続いてアストは【神様の職業魔法】の時とは異なる黒い魔法陣の中に。
はち切れんばかりの魔法文字を詰め込んで、術式を完成させていった。
(あんなものを喰らえば、例え眷属といえど――!)
その常識外な規模の術式に。
世界最強とされる悪魔ですらも、背筋におぞましい悪寒を走らせた。
『おイ、待テ――!』
フルカルスが慌てて止めに入ろうとした刹那。
アストがそれまで展開していた≪魔法陣≫が、ふらりと揺らめくと――
散っていくように空中から消えた。
「……む?」
アストはいぶかしげに首を傾げる。
「失敗したか。邪神の魔法術式――思ったよりも難しいな」
アストは新しい術式を完成させる上で。
珍しく弱気な言葉を使って眉をしかめた。
ふたたびアストは魔法文字を空に書きつけるが――
その隙を。
【世界番】が見逃すはずもなかった。
『あア……そうか。キサマ――まだ≪黒の魔法≫に慣れていないナ?』
フルカルスはそれまでに感じていた焦りを。
すべて吹き飛ばすかのように口元を厭らしく歪めて。
六本の脚で空を蹴った。
「む――」
瞬時に少女との距離を詰めると同時に。
その猛烈な勢いのまま――
悪魔は大鎌を振りかぶり≪魔法≫を放った。
「――≪死死刈斬≫!」
瞬時に展開された魔法陣から放たれた魔力が、フルカルスの持つ大鎌の刃を不気味に青く輝かせた。
その〝触れれば即座に魂が抉り取られそうな〟圧を放つ鎌が――
アストに向かって振るわれた。
「――!」
目を見開いたアストは、その鎌刃の持つ禍々しい殺気を察知して。
組み立てていた黒の術式を解き、それを躱すことにすべてを集中し――
跳んだ。
「ふむ……いまのは喰らうと、まずそうだ」
大鎌が振るわれた先の光景を見て、アストが言った。
言葉でどう表せばいいかが分からない。
見たままを表現するならば、鎌が通り過ぎた軌跡――その空間が死んでいた。
『一時は焦りもしたガ――例えキサマが狂った量の魔力を、狂ったように扱うことができたとしても。魔法が発動する前に刈り取ればどうということはなイ』
フルカルスはそう言うと、ふたたび地面を六本の蹄で叩いて。
離れたところで術式を組んでいたアストへ大鎌による一閃を放つ。
『見た目に比べすばしっこいのハ――キサマの方だ……んア!?』
その一撃を躱した先で空に浮かんだアストは。
今度は≪邪神の魔法≫を一時的に諦めて――
得意とする≪古代魔法≫の巨大な砲撃を放った。
しかし。
『――≪死死刈斬≫』
青白く光る、死の予感を漂わせるフルカルスの大鎌は。
アストが放った巨大な魔力の光球を――空間ごと刈り取った。
「む……!」
『キサマは何か勘違いしているようダ』
鎌によって切り取られなかった分の魔力弾が、後方でけたたましい音を立て地面を抉った。
その轟音を背後に、フルカルスは言う。
『確かに他の人間共と比べれば、魔力もその扱いにも抜群に長けているようだガ――それだけダ。悪魔の基準に当てはめれば、【冥界】にごまんといるほどの実力に過ぎなイ』
「……ふむ」
アストは懲りずに邪神の魔法術式を組んでいくが、やはり途中で耐え切れないように消滅してしまった。
『ふハハハハハ! 無様だナ! 矮小種族の分際で【神の加護】に頼っているからこうなル――だから身の程をわきまえろと言っているんダ』
世界最強の悪魔は鴻大な黒翼を広げて。
掲げた巨鎌の刃を不気味に光らせながら――言った。
『素直に我輩に魂を捧げるか、それとも――見るも無残に身体を切り刻まれた上で魂を喰われるか。好きな方を選ぶがいイ!』
第二章、クライマックスバトル開幕――!
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