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#OPENing STAGE-3;遊び人、古代魔法を披露する!


「「……へ?」」


 一瞬なにが起きたのか。

 その場のだれもが理解できずにいた。


 空間を揺るがすほどの轟音を立てていた魔力の巨塊が。


 ()()と間抜けな音とともにあっけなく消滅した。


「どこにいきやがった……? おれ様の……究極魔法……」


 全力を使い果たし、ぜえはあと肩で息をしていた辺境伯が絞り出すように言った。


「てめえ、なにをしやがったあああ!」


 辺境伯の混乱と対照的に、アストは淡々とした口調で答える。


「それはこちらの台詞だぞ。お前はなんてことをしてくれたんだ」


「んああ!?」


「他の人間から魔力を吸い上げたら、()()()()()()()()()()()


 アストはまるで当たり前かのように。

 常人には理解不能な言葉を続ける。


「だから俺の方で魔力を吸い取って――もとの持ち主に戻してやった」


「……は?」


「あとついでに、お前にかけられた洗脳魔法とやらも解除しておいた」


「はああああああ!?」


 その常識外れの言動に、小太りの男が顔中の穴を開いて叫ぶ。


「あ、ありえんッ! そのようなこと『最底辺職(遊び人)』の貴様なぞにできるわけがッ……」


「いや、なんかできたぞ?」アストは飄々と続ける。「洗脳魔法自体はさっき見せてもらったからな。ただ――」


 少女はそこではじめて、表情を微かに曇らせた。


「魔力を戻す時に、皆が洗脳された時の記憶に触れたんだが……お前、()()()()()()()()


「ッ!?」


 視線を向けられた辺境伯の全身に。

 おぞましいほどの悪寒が走った。

 気づけば無意識に指先が震えている。


「ああ、そういえば」アストが思いついたように言った。「さっき俺が吸収した魔力だが――〝お前の分〟をまだ返していなかった」


 彼女は白く小さな手を空にあげて。

 辺境伯がしていたのと同じように《魔法術式》を展開する。


 異なることといえば。


 その空に刻まれた魔法陣は、辺境伯のそれとは比較にならないほど〝大規模〟であった。


 圧倒的に莫大で。緻密で。輝かしい――

 一種の〝美しさ〟すらも感じる術式が、空間を覆い尽くしていく。


「ん、な、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」


 辺境伯だけではない。

 その場にいた全員が驚愕し叫んだ。


「ななななッ! なんだ、この馬鹿げた規模の術式はッ! そもそもロクな魔法を持たない『遊び人(ゴミ職)』がこんな魔法陣を組めるわけがないッ!」


「いえ……規模だけじゃありませんっ」エルフの姫は信じられないように目を見開く。「激しくまばゆい金色の光。その内部に編み込まれた魔法文字(ルーン)は〝古代〟のもの――信じがたいことですが、彼女がこの場で発動しているのは現代ルーンを用いた《 職業魔法(スキル・マジック) 》ではなく、今や使い手がいないはずの《 古代魔法(オリジナル・マジック) 》ですっ……!」


「古代魔法ッ!? バカげたことをッ!」小太りの家臣が叫ぶ。「神からの職業がまだ無かった時代に()ったとされる、圧倒的に()()()()な魔法ではないかッ」


「……ヒ、ハッ! そうか、確かに神様の力を借りねえ《古代魔法》なら『神の加護(しょくぎょう)』に関係なく紡ぐことはできる。ただ、その圧倒的な非効率性を、」辺境伯が顔を歪めながら続けた。「あの底が見えねえ〝魔力量〟と、化け物染みた〝術式理解力〟で埋め合わせてやがる……ヒハッ、夢の方がまだ現実的だぜ……」


 周囲を驚愕させる圧倒的な規模の術式展開の果てに。少女の頭上には。

 先ほど辺境伯が作ったそれとは、文字通り一線を画した大きさの――周囲の空間すべてを巻き込むほどに激烈な〝魔力塊〟が完成していた。


「――できた」


 彼女は小さく呟いて。


 ひょい、と。


 まるで軽く埃を払うように辺境伯へと放り投げる。


 しかしその弾球の速度は。


 本能的な生命の危機を感じ取り、一瞬でも早くその場を離れようと。

 残った全身全霊の力を振り絞って駆け出した辺境伯の初速を。


 遥かに上回った。


(ヒハッ――逃げ切れる、わけがねえ……!)


 巨大な魔力弾は一瞬のうちに辺境伯を飲み込むと。


 そのまま途轍(とてつ)もない速度で外へと飛び出して。

 無限の落雷の如き光の明滅が周囲を包み。

 心臓を突き動かすほどの轟音で世界を揺らした。


「……星が、落ちたみたいですっ……!」


 エルフの少女が唇を震わせながら状況をそう例えた。


 辺境伯の部屋があった建物は半壊し、ぽっかりと夜がむき出しになっている。

 星のあかりがゆっくりと周囲に満ちていった。

 その中心で照らされたアストは。


「ふむ。しまったな。せっかく今この場で()みだした新しい技だったが――肝心の〝名前〟をつけるのを忘れていた。名も無い必殺技など、これでは()()()()()()だな」


 などと。

 やはりどこかずれたようなことを呟いて。


 心底残念そうに溜息を吐いたのだった。


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