STAGE 2-6;遊び人、犬耳(全裸)美少女に懐かれる!
襲われていた巨大な銀色の狼の正体は――【裸の女の子】だった。
そんな異世界RPGのような展開に。
「む、むむ、む……?」
それまで極めて冷静さを保っていたアストが。
冷や汗を多くしてあたふたし始めた。
「これは……さっきの銀色の犬がこうなったのか……?」
ぴくり。
裸の少女の頭から垂れた〝耳〟が震えた。
衣服を身に着けていないとはいえ、全身のところどころにまさしく獣のような毛が生えている。
大きめのお尻にはもさもさとした尻尾があった。
「……うー」
時折ぴくんと震えながら、眠るように息をしていたその少女が。
短い唸り声をあげた。
「む――気が付いたか?」
アストは視線のやり場に困り耳を真っ赤にさせながらも、獣耳少女の顔を見た。
妖艶にも映る銀色の髪は毛先にシャギーが施されたボブカット。
その側頭部には三角耳がたれ気味についている。
ゆっくりと開かれた瞳はくりくりとした丸目で――まるで燃ゆる果実のように色づいていた。
「……あ、れー? どうなった、のー……?」
獣耳の少女が見た目と同じく、可愛らしい声を出した。
「ふむ。意識が戻ってよかった――痛むところはないか?」
アストは心底から安堵したようにそう言って、少女の安否を確かめる。
しかし。
「……うあー」
そんなアストを視界に入れた獣耳の少女は。
くりくりとしたまん丸の目を。さらにきらきらと煌めかせて。
アストに向かって、思い切り抱きついた。
「かあいいーーーーーーーーーーーーーーー!」
「む、むう……な、なにを……」
抵抗もむなしく、アストはそのまま地面に組み伏された。
銀狼の少女はその紅潮した頬をアストの色んなところにすりすりと押し当てている。
「や、やめ、ろ」アストは目をぎゅっと瞑りながらせめてもの反抗を試みる。「〝傷〟が開いたら、どうする」
その〝傷〟という言葉に狼少女はぴくりと反応して。
「い、いたいー……」
と急に泣きそうな声を出してその場にへたり込んだ。
彼女のジェットコースターのような感情の起伏にアストは小さく溜息をつきながら言った。
「まったく。無理をするからだ」
アストは斜め掛けの鞄から救急用具を取り出して。
少女の傷に対して簡易的な手当を行った。
「形ばかりだが――あとはゆっくり休むといい」
手当の様子を狼耳の少女は『やさしー。すきー……』などと、どこぞの使用人たちのような呟きをしながらとろんとした目つきで見つめていた。
「ありがとー!」
処置を終えた少女が立ち上がる。
その身体をあらためて目の当たりにしたアストは、
「む、う……目のやり場にすこし困る。これを着てくれ」
などと。
まったくもって『すこし』ではないかのように不自然に目を背けながら、自らの着ていた外套を少女に渡した。
「わかったー!」少女がそれを羽織いながら無邪気に言った。「リルはね、リルハム!」
「……む?」
狼耳の少女は自分の身体を確かめるようにくるりとその場を回ってから。
アストに向かって首を傾げた。
少しの間のあとに。それが〝名前〟のことだと気が付いて、「俺はアストだ」
「アスト! いい名前だねー!」
【リルハム】と名乗った少女は左右にふらふらと揺れながら。
その言葉の続きで。
まるで朝の挨拶のように軽率に――とんでもないことを言った。
「アスト! リルの〝ご主人様〟になってよー!」
「む? 断る」
「やったー、ありがとー! ――って、だめなの!?」
「当然だろう」アストは目の前で表情をくるくる変える狼少女に向かって、諭すように言った。「いきなり〝契約〟を迫ってくるやつなんて、詐欺師か悪魔と相場は決まっているからな」
「うー……アストは勘がするどいねー」
たれ気味の耳をぴくぴくと揺らしながら、リルハムはそう言った。
「……む? どういうことだ」
「どういうこともなにも、アストの言うとおりー!」
リルハムはひとつ前置いてから。
やはりさらりと。
とんでもないことを言ってのけたのだった。
「リルはねー、【悪魔】なんだよー」
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