STAGE1-13;神童、忘れられない想い出をつくる!
【〝あの夜〟の後日談 ~アユの場合~】
「へっ……? あの夜に何が、ですか……?」
アユはその質問でその〝何か〟を思い出したのか。
顔を真っ赤に染め、瞳をぐるぐると回し始めた。
「えへ……えへへ? えへへへへ……?? なにも??? なにもありません??? でしたよ~?????」
過剰なまでに疑問符を多くしながら。
アユはふらふらとそこら中の壁や障害物にぶつかりながら去っていった。
「アユはなにもみてませんし、されてませんよ~? えへへ、えへへへへ……アスト様がおひとり、アスト様がおふたり……えへへへへ」
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【後日談 ~イトの場合~】
「別になんてことはないぜ! 目が合ったイトに向かってアスト様が~隕?>縺九?縺輔▲縺ヲ縺阪◆縺ィ蜷梧凾縺ォ蜚?r鬧?スソ縺励※」
~以降、自主規制~
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【後日談 ~ウタの場合~】
「ウタにあの夜何があったか、ですか?」
ウタは平静を装いつつ、ほっぺたをぷくうと膨らませた。
「べつに特別なことはありませんでした。べつに……なにも……ぷしゅう」
と思いきや。
彼女は頬を紅潮させて、まるで湯気のように口から息を吐きながら。
そのままぱたんと後ろに倒れた。
「……ぷしゅう……」
視点は明らかに定まっておらず、空中を泳いでいる。
そのまま正気を取り戻すのに――数時間を要した。
♡ ♡ ♡
「あの夜、私たちはなにもなかった。良いわね?」
エレフィーが〝被害者〟となったメイドたちを集めて、きわめてにこやかな笑顔で言った。
「私たちはなにも知らない。もしこれ以上詮索をしたり、ましてやだれかに広めようものなら――その人を記憶ごと消し去る必要があるわね」
エレフィーはやはり最後まで。
恐ろしいまでに爽やかな微笑みを浮かべて。
しかしその頬を僅かに紅く染めながら――言った。
兎にも角にも。
こうして一連の事件は〝桃色の幻宴〟などと呼ばれ。
決して触れてはならない事件として、ティラルフィア家の伝説のひとつに刻まれた。
♡ ♡ ♡
「妙だな。最近皆から避けられているような気がするのだが――気のせいだろうか」
アストが相変わらずの口調で言った。
ここのところ、メイドたちに挨拶をしても彼女たちはなぜか顔を真っ赤に染め声を上ずらせて。
アストの前から逃げるように走り去っていくことが多い。
「きききき……気のせいですよ、アスト様、えへへへへ」
明らかに動揺しながら三つ子メイドの長女・アユが言った。
「そうか、それならいいんだが――ところで」
アストは「何度も聞いて申し訳ないんだが」と前置きして疑問を口にする。
「あの夜、俺が≪職業魔法≫を発動させたあと――皆に〝迷惑〟はかけなかっただろうか」
びく、と全メイドたちに緊張が走った。
どうやら〝大事件〟を巻き起こした張本人のアストには、〝桃色の幻宴〟の記憶が一切ないようだった。
アユは慎重に言葉を選びながら答える。
「……は、はい! 迷惑になることなんて、なにひとつ。えへへ……ね、ねえ、ウタちゃん」
「そそそそそそそそうです。アスト様は一切迷惑をかけておりません。ぷしゅう」
途中でウタの顔から湯気が噴出した。
ごまかすようにアユが風を送るが、そんなアユ自身も顔を真っ赤に染めている。
「うんうん!」最後にイトが頬を緩ませて言った。「むしろ迷惑どころか、もっとやって欲しかったくらいで――」
「「イト!」」
言葉の続きは他のふたりに制された。
こほほん、とアユが咳払いして言う。
「と、とにかく! この屋敷中のだれひとりとして――アスト様のことを〝迷惑だった〟とは思っていませんっ」
「――そうか」
アユのその言葉を聞いて、アストは安堵の表情を浮かべた。
「信じて……いただけるのですか?」
「ああ、当然だ」アストはあっさりと頷いて、「この件は不甲斐ないことに、俺の記憶が完全に飛んでいるんだ。真実を確かめる手段がないのなら――信用のおけるお前たちの言うことを、それこそ〝信用〟するしかないだろう」
「「「……アスト、様……!」」」
自分たちのことを〝信用する〟と言ってくれたことに感動したメイドたちは。
酒池肉林を伝えられていない後ろめたさを完全に無視してアストに抱きついた。
「アスト様ー!」「イトたちは嘘はついてないぜ!」「迷惑では……なかったです」
「む、なんだ、やめろ……くるしい……」
それぞれの柔らかい膨らみが顔に当てれられて。
アストは耳まで真っ赤にして羞恥しているが――〝それ以上のこと〟を彼女たちにしたという事実を本人は知るよしもなかった。
「それにしても――しばらく≪職業魔法≫は封印するしかないな」
アストが珍しく溜息をつきながら言った。
「そ、そうですね! えへへ、それが良いかと思います……みんなのためにも」
ぽそりと意味深に付け足しながらアユが言った。
「むう。せっかく職業を授かったというのに」アストが不満げに口をとがらせる。「使用中に記憶が飛ぶとは欠陥もいいところだ。〝開発元〟に文句を言いたいくらいだな」
自分で言ってふと思考を巡らせた。
――この場合の〝開発元〟というのは。
「神様、か」
――≪ 欠陥魔法 ≫を提供した〝 神 様 〟に文句を言いに行く。
元の世界じゃまさしく〝ゲームの世界〟でしか考えられないことだったが、この世界ではどうだろうか。
そんな妄想を巡らせながら――アストは懲りずに今晩のおかずのお願いも兼ねて礼拝堂へと向かった。
次回よりまたバトルシーンです!
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