6話(上)悪魔
悠然とした態度のまま、男はこっちに走り出した。
「え!?」男は自身の腕を剣のように変え、俺に切りかかってきた。それを俺はとっさに持っていた剣で受け止める。相手の攻撃をはじいた瞬間に生まれる隙をついて、俺は男に魔素吸収を使った。体の形を変形させることができるのは魔法だけだからだ。しかし、男は顔色一つ変えることなく再度俺に切りかかってくる。俺は相手の攻撃を防ぎながら隙をついて攻撃していた。数分が打ち合いが続き、俺は体力をかなり消耗していた。師匠は加勢しようとしていたが、結界のようなものに阻まれており、入ることができないようだった。足がもつれふらつく。切っ先を受け止め損ね、俺は切られてしまった。まるでガガザジと戦った時と同じように、右上のHPゲージが赤く光っている。スキルの敗北が発動することを願いながら男を見た。男はまだ笑っている。それはまるで悪魔のよう…。
しかし、男は俺にとどめを刺さず、師匠の方に歩いて行った。男が指を鳴らすと結界が解け、その瞬間、男はものすごいスピードで師匠に向かって走り出した。師匠は驚いてはいたが、さすがは魔女。すぐに浮遊魔法を使って避けた。男は背中から自身の体と同じくらいの大きさの羽をはやした。黒く蝙蝠のような羽だ。そのまま師匠が浮遊してる高さまで飛ぶと、師匠に切りかかった。師匠は避けたが、頬を切られた。俺もすぐ加勢したいが、敗北は発動せず、切られて倒れたまま、ただただ見ていていることしか出来なかった。血液が流れ落ちていく。男は腕の形を戻し、師匠にふわっと近づいた。そして何らかの魔法を師匠の腹あたりに打ち込んだ。師匠は舌打ちをしてから後ろに下がり、風魔法と火魔法を放った。しかし、男はその攻撃を軽くよけた。そして、師匠のもとへ一瞬で移動し、師匠の頭上から腕を振り下ろして地面にたたき落とした。男は笑顔を貼りつけたまま、俺には一瞥もくれず去っていった。師匠は…。俺は、自身の体を引きずりながら師匠のもとに向かった。
「師匠…。大丈夫ですか…?」しかし、師匠は首を横に振る。
「あの男…悪魔が私に放った魔法は、悪魔独特の固有魔法…。あの魔法に当たったものは…、例外なく、
死ぬ。」
俺は師匠の足が透け始めていることに気付き、目を見開いた。俺の目から知らず涙がこぼれた。
「師匠…、スノー師匠。嘘ですよね?魔法でそういう風にしてるんですよね?そうですよね?うぅ…。答えてくださいよ。ねぇ!?」「達也君。そんなに泣かないで。」「死なないでください。師匠と一緒に旅するって言ったじゃないですか!」「うぅ…。もっと生きたかったなぁ…。達也君と一緒に、旅したかったなぁ。」師匠の目からも涙がこぼれる。師匠の体の三分の一が消えてしまった。
「大体あいつは誰で、何のために…。」「わからない…。多分あなたを殺さなかったってことは、私だけを殺すために来たんでしょう…。」「畜生!師匠…。師匠の仇は絶対に打ちます!」「いいよ…。私はそんなこと望んでない。」「でも!——————」俺が言いかけた時、師匠は俺の唇に人差し指を置いた。師匠の体の三分の二が消えた。
「あなたは、妹さんを探すため、絶景を見るために旅をするんでしょう?だったら、私のためにあなたの目的を投げないで、ちゃんとした楽しい旅をして。」「師匠…。僕は師匠のためなら、絶景なんてどうだっていいです…」「いうと思ったわ。でも私は、仇討なんて望んでない。だから、寂しいけれど、あなたには私のことを忘れてもらうわ。」「…は?どういうことですか?」「私が死んだあと、私の魔法であなたのHPは全回復します。そして、ほうきがあなたを連れて隣の国まで飛ばすわ。目的地に着いた瞬間、あなたの記憶から『スノー・シャル』という人物は消去されるわ」「そ、そんなの嫌です!師匠…、僕は師匠という人をずっと覚えていたいです…。」「でも、そうしたらあなたは私の敵討ちをしに行っちゃうでしょ?だからよ。」「師匠…。」
「さようなら。達也君、永遠に」
その瞬間師匠の体がすべて消えた。