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「陽向、おはよう」

「おー、おはよう夏芽……って、え!?」


教室に入ると陽向の姿が見えたので、いつものように挨拶をしたんだけど、


「その前髪、どしたん?伸ばしてるんじゃなかったっけ……いや、それよりもその目フゴッ!?」

「シッ!……これにはわけがあって」


陽向は振り向きざまに余計なことを口走りかけたので、私はすぐに手で彼の口を塞いだ。


「ちゃんとあとで話すから、今は大人しくしてて、ね?」


と言うと、陽向はブンブンと勢いよく頭を縦に振ったので、私はそっと手を離す。


「じゃあ昼休み、屋上にきて。そこで話すから」

「……わかった」


陽向は訝しげな顔でこちらを見ていたが、そのまま引き下がって自分の席に着いた。

するとその直後、


「白雪さん……だよね?おはよう」


背後から何やら聞き覚えのある低音が。

声がした方向に振り向くと、


「……雨宮くん、おはよう」


やっぱり雨宮くんだった。

ちょうど登校してきたところらしい。


「あの長い前髪切ったんだね。その方がいいよ、似合ってる」


そう言った雨宮くんは爽やかな笑みを浮かべた。

思いもしなかった台詞に私はポカンとした。


「……はい?」


急に何を言い出すんだこの男は……普通の女子ならこの言葉でイチコロだろうな。

私とてダメージが0というわけではない。前世では私に対して冷たかったレイン王子そっくりの顔で甘い言葉を吐かれると、ギャップで混乱してしまうのだ。


(落ち着け私。彼はあのレイン王子ではないのだから)


「白雪さん……?なんだか難しい顔してるけど」

「な、なんでもないよ。大丈夫、大丈夫」


危ない危ない。また表情に出てしまっていたようだ。


(感情が顔に出やすいのは気をつけなきゃ。今後の課題だな)


と考えていたところに、また声をかけられる。


「白雪さんメガネかけてるけど、もしかして視力悪い?」

「あー、実は今までコンタクトしてたんだけど、いちいちつけるの面倒だしメガネにしようかなって」


嘘というのは、本当のことを混ぜるとバレにくいらしい。

なので、この返答も半分は本当で、もう半分は嘘である。

メガネについて質問されることは予想していたので、あらかじめ考えておいたのだ。


「今までコンタクトしてた」のは本当だ。普通の透明なコンタクトをつけていた。


しかし、今は色つきのコンタクトをつけている。それがバレないように、カモフラージュとしてメガネをかけているだけである。


ただ、それだけでは不安だったため、予防としてメガネは伊達ではなくあえて度入りのものを用意した。今の返答の信憑性を増すためだ。なので、カラコンの方は度が入っていない。


(うん。対策はバッチリね)


予想通りの質問がきてちゃんと答えられたことに満足していると、雨宮くんがじっとこちらを見つめてくる。


「ふーん……そうなんだ」

「えっと、何か?」


何事も見通すかのような鋭い眼差しに思わず息を呑む。その姿はレイン王子のそっくりさんではなく、まるで本人のようで……


(柔らかい表情よりも、こういう冷たい表情の方がよりレイン王子っぽさが増すな……)


吸い込まれるような碧い瞳に射抜かれ、少し胸がドキドキする。


(まさか、カラコンだとすでに見抜いているとか……!?)


最悪な想像が頭をよぎり、背中に冷や汗が流れのを感じた。


だが、返ってきたのは思いもよらない言葉だった。


「やっと目を見ることができたけど、うん。すごく綺麗な目してる」

「……はい?」


本日2度目の「はい?」が炸裂した。


私は目を白黒させながらも内心ほっとしていた。


(カラコンがバレた……というわけではなさそう?なら、よかった。……ただ、)


カラコンとはいえ、「綺麗な目」と称されたのは生まれてはじめてだった。


前世では冷たいだの冷酷だのと言われ、今世でも幼い頃は忌み嫌われていた。なのに、


(「綺麗」……か)


ほんの少しだけ、胸の奥があたたかくなったような気がした。


「……ありがとう」


ぼそっと呟いた声は、雨宮くんには届かなかったようだ。



席に着くと、クラスの女子たちが恨みがましい目つきでこちらを睨んでいるのをひしひしと感じる。

しかし、以前とは違いもうこんな視線に臆する私ではない。これについてもちゃんと対策を練ってきたのだ。


(秘技!冷ややかな眼差し!)


睨む女子たちに対して私も視線を向けた。

すると、視線を向けられた女子たちは一斉に震え上がり目をそらしたのである。


(よし!成功ね)


心の中でガッツポーズをした。


この「冷ややかな眼差し」というのは、前世でよく言われていたやつだ。

あの時と同じように見つめれば、今世でも効果を発揮するのではないかと思ったのだ。

結果はご覧の通りである。


(これでもういじめに遭うことはないかな)


この時、想像以上の効果にご機嫌だった私の横で、雨宮くんが不思議そうな顔をしてこちらを見ていたのを私は知らない。

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