1
そもそも、なぜ女子たちに囲われることになってしまったのか。話は数時間前に遡る。
~~~~~
私のクラスで席替えが行われた。
くじ引き制で、番号の書かれた席に座るという単純な仕組みだ。
そこで私は、
(7番か。……やった、隅っこの席だ)
見事、一番後ろの窓側の席を引き当てたのである。
目立ちたくない私としては、最良の席と言えよう。
問題があるとすれば、
(隣は誰になるのかな……)
授業中、ペアワークと称して隣の席の人とコミュニケーションを取らなければならない時がある。そのため、コミュ力が低い私にとって最も重要な問題だった。
できれば、少しでも話しやすい女子がいい。もし男子になってしまうなら……
「あれ?夏芽、7番なんだ。俺その前の席だわ!よろしく〜」
手をヒラヒラと振ってくるこの男、陽向春斗。
家が近所ということもあり、幼なじみの腐れ縁である。地域的に小中一緒なのは仕方なかったが、まさか高校まで一緒に通うことになるとは。
まあ、彼なら知らない仲ではないし、隣になったとしても気まずくはならないと思っていたが、どうやら隣ではなく前の席になったらしい。
「……そんな気軽に話しかけてこられると困るんだけど」
「え〜?いいじゃん!俺たちの仲でしょ?ね!今度ノート見せてよ。夏芽のノートめっちゃわかりやすいんだよね〜」
「本当に、アンタという奴は……」
明るい茶髪に紅い目を持つ彼はイケメンの部類に入るらしく、女子からの人気も高い。人当たりもいいので男子や先生からも人気を集めており、その人望の厚さから生徒会の会計を務めている。本人曰く「柄じゃないんだけどね〜」だそうだ。それでもそつなく業務をこなしてるので、やはりそれなりのスペックは持ち合わせているのだと感じる。
そんな彼だからこそ、
「……やっぱり、女子の視線が痛いから少し離れて」
「う〜ん、もうちょっと夏芽と話してたかったけど……仕方ないか」
親しげにしていたら、女子から目の敵にされてしまう。小中時代からずっとそうだった。
ちなみに、私のことを下の名前で呼ぶのは今のところ家族以外だと彼だけである。私は普段彼を「陽向」と名字で呼んでいる。
名前で呼ばれるとなんだかこそばゆくなるため「名字で呼んで」とたまに催促するのだが、「白雪ってちょっと長いし言いにくいし〜」と毎度はぐらかされる。「3文字と4文字でそんなに変わらないじゃん」と突っ込んでも、「まあ気が向いたらね」と返され終わってしまう。
こちらとしてははやくその気になってほしい。私の身の安全のためにも。
そして彼は、いそいそと他の男子たちの元へ向かって行った。人気者の彼は、もちろん友達も多い。
ちなみに私は、友達らしい友達はいない。
(隣の席まだ誰になるかわからないのか……優しい人になるといいな)
まさかこの席替えが自分の運命を変えることになるとは、この時は夢にも思っていなかった。
陽向が去ってから数分経過した。特にやることもなくボケーッと頬杖をついて窓の外を眺めていたところに、突然背後から声が聞こえた。
「……隣、いいかな?」
涼やかで、凛とした低音が耳に響く。
もしかして、私の隣の席の人だろうか?私に声をかけてくれたのかな。一体誰なんだろう?声色的には男子っぽいけど……と、少しドキドキしながらゆっくり後ろを振り向いた。
「白雪さん……だっけ?」
「あなたは、確か……雨宮、くん?」
「うん。雨宮冬貴です。隣、よろしくね」
そう言って彼は、碧い目を細めて微笑んだ。
その笑顔はどこか儚げで……何故だか少し、懐かしい気持ちになったのを覚えている。
雨宮冬貴。これが、彼と私との最初の出会いだった。