日本刀に憧れていた転生者ですが、異世界で頑張って日本刀を作ったら女神様の祝福を受けてしまって大変なことになってるんですが!? 日本刀を作りたかっただけの私が静かに暮らせないのは女神様のせい!!
ごうごうと炎が燃える。
炎によって赤白く染まった鉄を打つ金槌の音。
身体の芯まで響いてきそうな音を聞いていると、私の脳裏に浮かんだのは〝ここじゃない〟どこかの光景だった。
(――あ、これ、異世界転生ものでよく知ってる奴だ)
垣間見た記憶を認識した瞬間、遠い記憶が溢れるようにして広がっていった。
例えるなら、仕切りで遮られていた水が流れ込むように脳裏を駆け巡る記憶。その濁流を堪えながら前世の記憶を拾い集める。
一気に思い出しすぎたせいなのか、器から零れ出てしまったように記憶は途切れ途切れで不鮮明だ。これが〝転生〟だとは認識出来ても、例えば転生前の自分がどんな人だったのか、名前はなんだったのか、そういった情報は抜け落ちていた。
覚えているのは、前世の記憶を思い出す切っ掛けとなった炎と鉄の記憶。
それは遠い憧れの記憶だった。前世で一番新しい最後の記憶は、そんな憧れの風景を見学しにいこうと家を飛び出したのが最後だった。
「わ、私……死んでる……! 生の〝日本刀〟を作っているのを目に出来る機会を、私はぁ――っ!!」
「カテナッ!? カテナ、どうした――!?」
突然、頭を抱えて絶叫し始めた私。そんな私を領内自慢の工房を見せに連れてきてくれたお父様が私を揺さぶるようにして心配をしてくる。
私、カテナ・アイアンウィルはこうして前世が日本人であったことを思い出した。これが後の私の人生を大きく変えることになった。
* * *
前世が日本人だった私ことカテナ・アイアンウィル。その父親は男爵の地位を授かっている貴族である。
アイアンウィル家は元々貴族であった訳ではなく、良質な剣や鎧を安定して国に供給してきた功績が認められて貴族となった。所謂、平民からの成り上がり貴族だ。
鍛冶師の家に生まれ、鍛冶を学びながらも商人として大成したお祖父様から始まったアイアンウィル男爵家。
それ故、我が家は代々鍛冶業を盛り上げるために頑張っている。当主自らが鍛冶を学び、自分の護身用の武器を作るのを伝統だと言い切る程だ。
そんな家に生まれた私は昔から、それこそ前世の頃から刃物が好きだった。
刃物が好きだと言うと危ない人に思われるかもしれないけれど、あくまで刃物という存在に惹かれているだけで試し切りをしたい訳じゃない。
私は女子なので、アイアンウィル家の伝統を行う必要はない。けれど、そこは刃物好きの私の血が騒いだのか、お父様に無理を言って工房見学を許可して貰った。
そして現場の風景を見たことで記憶が刺激されて、前世の記憶が戻ったというのが今の私の状態だ。
思い出してしまったからこそ、口惜しい。思わず歯ぎしりをしてしまう程に。
「日本刀を鍛造している所……見たかった……!!」
日本刀。それは日本人の心。大和の芸術品。またか日本人の変態技術の一つ。
私もそんな日本刀に魅せられた者の一人だった。実際に刀を所持したいと思って調べてみたこともあるけど、銃刀法違反という壁の前に諦める程度には一般人だった。
現実的ではないからこそ、あくまで憧れることしか出来なかった。けれど、本当に憧れのままでいいのか? と思い立ち、実際に日本刀が鍛造している所を見学に行く所だった。
それすらも記憶が途切れている。恐らく転生しているから死んだのだと思うけど、死ぬ前に私は日本刀の鍛造を見ることが出来たんだろうか? 見る前に死んだのだろうか? 記憶がないので実質、見ることが出来ていないのと一緒だけど。
「恨めしや……恨めしや……異世界転生トラックに災いあれ……!」
いや、トラックに轢かれたとは限らないけれど。それでも恨み言を言わずにはやってられなかった。
「カテナ、大丈夫か?」
自室で布団に潜りながら異世界転生トラックのタイヤが全部パンクするように呪詛を吐いていると、扉がノックされた。
扉の向こうから聞こえてきた声は兄、ザックスのものだった。私は布団から這い出て、扉の向こうの兄に返事をする。
「大丈夫ではないです。メンタルの死です」
「……うん、大丈夫じゃないのはよくわかったよ。中に入っても良いか?」
「どうぞ、どうぞ。私、寝間着ですけど」
「そんなの見舞いに来たんだから知ってる」
兄様が中に入ってくる。改めて今世の兄様の顔を見つめる。
色が濃くて黒っぽい灰色の髪に、青空を思わせる青い瞳。表情は仏頂面気味だけど、イケメン! と叫びたくなるような顔立ちだ。
性格は至って温厚で、表情筋がちょっと仕事を放棄しているだけで優しい人だ。お転婆だと言われている私の面倒を嫌がらずに見てくれる心の広さもある。
「工房見学で興奮しすぎて錯乱したって聞いたけど」
「事実じゃないけど事実です」
「……前よりも妄言の度合いが酷くなってないか?」
「気のせいです」
前世の存在を自覚してなくても、記憶自体は頭の中にあった訳だから意識しなくても奇行は繰り返してたのかもしれない。
今後は強く自覚して、慎ましい刃物好きの淑女として生きていかなければ。
「お前の刃物好きも、なんというか我が家の血筋だよな」
「兄様は刃物を見て心が沸き立たないのですか? 恋とかしないんですか?」
「刃物に恋をするな。人にしろ、せめて」
「だったら兄様は何が好きなんですか!?」
「…………金」
必死に貯めたお小遣いを換金して手に入れた金貨を頬ずりするぐらい好きですものね、兄様。あれにはお父様がドン引きしてましたよ、お母様はニコニコしてたけど。
お父様は入り婿で、元々はお祖父様の愛弟子だった。同時に凄腕の剣士でもあったという属性モリモリのスーパーマンだ。
お母様は刃物が好きというか、キラキラした金物が好きな人だ。宝石よりも合金の方に美しさを見出すような変人……ごほん、独特な審美眼をお持ちだ。気持ちはわからなくもない。
そうだ、お母様にシルバーアクセとか作ったら喜ばれそう。まだ今世では、そういった装飾品は一般的ではない気がする。あくまで飾り立てるための高級品と言えばドレスとか宝石だし。指輪なんかもあっても、あくまで台座。宝石の添え物とかでしかない。
「まぁ、あまり無理をするな。そろそろカテナも魔法適性を確認して、魔法教育を受けるんだろ?」
「……今、思い出しました。おぉ、イッツミラクルマジカル……」
「ミラ……マジ……? なに、なんて?」
そういえば今世には魔法がある。異世界ファンタジーでよくある四大精霊とされる火、水、土、風の魔法だ。
中には四大属性に当て嵌まらない希少属性を適正に持つ人もいるけれど、そういう人は貴族の養子に迎えられたり、時には王家に入ることも求められる事もある。
どんな魔法が使えるのかはその人次第。一つに特化した才能もあれば、どの属性もそこそこ使えるという人もいるし、まったく使えない人もいる。
そして魔法は貴族のステータスにも繋がるので、貴族の子供は年頃になると魔法適性を確認して専門的な教育を受けるのが一般的だ。
「私、どんな属性に適性があると思います? 兄様」
「刃物」
「刃物の魔法使い……! 良いですね!」
「俺が悪かった。真面目に受け取らないでくれ!」
「でもお兄様も金の属性の魔法があったら嬉しいでしょう!?」
「金の属性の魔法って何だよ!?」
ひたすらボケまくる私と、ツッコミ続ける兄様。今日も今日とて、アイアンウィル家は平和なのであった。
* * *
「んー……カテナお嬢様の適性は四大属性全部に適性がありますね」
「それって凄いこと?」
「凄くはありますけど……」
私の魔法適性を確認しにきた教師は難しい顔をしていた。
四葉のクローバーのような図形が書かれた器具の上に手を置くと、その図形に光が灯る。
赤、緑、黄、青。ぼんやりとした光は淡くて、儚く思えてしまう。どうやら結果は芳しくないらしい。
「カテナお嬢様は、簡単に言うと器用貧乏です」
「器用貧乏」
「はい。四大属性の魔法はどれも使えますが、日常で使える範囲の魔法が精一杯でしょう。魔法使いとして大成は出来ないと思います。この器具は適性の有無を確認出来るのですが、光の色が淡いでしょう? 光が強い程、その属性の魔法を扱う力が強くなるのです」
「私は適性はあるけれど、出力そのものは強くないってこと?」
「そうですね。珍しくはあるのですが、それだけに勿体ないですね。これで力も強ければ王妃だって夢じゃなかったんですが」
心底残念そうに教師はそう言った。けれど、私は王妃なんてごめんだったので逆に良かった。別に魔法使いとして大成したい訳じゃなかったし。
成り上がりの男爵の娘が才能だけで王妃になるなんて絶対面倒なことになる。多分、どっかの高位貴族の養子になってから、って話になりそう。
私は実家が好きなので、そこまでして贅沢が出来る地位が欲しいとは思わない。
「とにかく、カテナお嬢様の適性はわかりました。これに合わせた授業を明日から行っていきますのでよろしくお願いします」
「はい、ご指導よろしくお願いします」
教師の男性は柔和な優しそうな人で良かった。お父様の個人的な知り合いとは言ってたけど、どんな繋がりの人なんだろう?
そんな事を気にしつつも、魔法の授業を受けていくことになるのだった。
* * *
「うん。これはダメだね」
魔法を習うようになってから早二ヶ月が経過した。私の魔法は、端的に言えばヘッポコだった。
火は灯せるけれど、火の玉などにして飛ばすことが出来ない。
水も集めて形を作ることは出来るけれど、距離を離すと維持出来ない。
風も手元に集めることは出来ても、遠くに飛ばせば水と同じように掻き消える。
土に至っては「農家だったら大変喜ばれたと思います」と一言を頂いた。
「日常生活には便利なんだけどな……」
痒い所に手を届くような使い方は出来るので、不満はない。ただ、魔法を教えてくれた先生がやったように大きな火の玉を幾つも生み出して的を焼き尽くすのを見ると少しだけ羨ましく思う気持ちもある。
便利ではあるけれど、貴族としてのステータスにはならないってことで授業の数も減って、代わりに淑女としての教育が増えた。
「うーん、いっそどこかの商家とか鍛冶師さんの家に嫁ぐでも良いんだけどな……」
贅沢をしたいかと言われると、出来ることに超したことはないけれど貴族の義務を背負ってまでしたいかと言われると別にいいかな、と思ってしまう。
お父様も家を大きくするようなことは考えていないみたいだし、将来好きな人が出来たらその人と結婚出来たらいいな、ぐらいの気持ちでいる。
「でも、単体だとへっぽこな魔法でも使い方次第なんだよね」
魔法で灯した火を、風の魔法で酸素を集めて大きくしたりとか、そういった使い方は出来る。
だからなんだ、と言われればそれまでなんだけど。これは前世の記憶を思い出した事で得られた恩恵だよね。私SUGEEじゃなくて科学SUGEEだけど。
「つまり、前世の知識を上手く使えばヘッポコ魔法でも利用価値が……、……待てよ?」
ふと、点と点が線で繋がったような感覚を覚えた。
前世の知識を応用、幅広く使える魔法の利用。その前提で浮かび上がった構想に、私は思わず口元を手で押さえた。
「――これ、一人で鍛造が出来るんじゃないの?」
零れた前世の記憶が浮上する。それは動画で見た刀匠の紹介動画。
それは機械を用いて一人で刀を打つ刀匠の姿が紹介されていた。その記憶を思い出したことで私は自分が持つ可能性に気付くことが出来る。
火も、風も、土も、水も。私は魔法として扱うことが出来る。一つ一つでは大した力のない魔法だけど、これを組み合わせることによって前世ではあった機械を再現することが出来るんじゃないか、と。
刀を作る行程だけは知識として知っている。私に足りないのは技術と経験。もし、それを埋めることが出来たのなら……?
(今世に、剣を持つことを咎める法はない)
剣はまだ時代に求められている武器だ。なら、私が刀を持った所で咎める人がいるのだろうか?
前世では、既に刀は廃れた武器だった。伝統の芸術品としてその技術が残っているだけ。だから所持をするだけでも一苦労だった。
そんな憧れた刀を自分の手で作ることが出来たら? 前世で思い切って日本刀の鍛造を見学しに行こうと決めた日の気持ちが蘇ってくる。
私は走り出していた。使用人が驚いて咎めるような声を上げているけれど、もう気にならなかった。
そして執務室のドアをノックして、中にいるお父様に訴えるように叫んだ。
「お父様! 私、鍛冶を学びたい!」
* * *
それから私の試行錯誤が始まった。
完成形と製法の知識は知っていても、実際に刀匠でもなかった私ではわからないことは多い。
足りない知識と経験は、今世の鍛冶師から教えを受けて積み重ねて行くしかなかった。
簡単に作れるものだとは最初から思ってはいない。それでも心折れそうな時は幾つもあった。その度に折れそうな心を金槌で打ち据えるようにして前を向いてきた。
金槌を握る手は、いつしか淑女の手というには皮が厚くなってしまった。肌は焼け、健康的とは言えるものの貴族からの受けは悪い。
それでも私の今世の人生は充実していた。目指すのは、あの日憧れた美しさを手にすること。
鉄を溶かして、叩いて、魔法で調節して最適な環境作りを目指した。引き籠もって一日、寝食を忘れたこともあった。
そんな私を止める訳でもなく、無理だけはしないようにと好きにさせてくれた家族には頭が上がらない思いでいっぱいだった。
誰も私の情熱に水をかけるようなことをしなかった。ただ、それだけで家族への親愛を深められた。
何度も金槌を振るった。魔法の制御と調整の腕前だけは誰にも負けないと思えるぐらいになった。
繰り返す。繰り返す。何度でも、何度でも。前に進めているのかもわからないまま、ただ愚直なまでに鉄を鍛え続けた。
――そして、私が試行錯誤を続けて五年の時が経過していた。
「……ようやく、ここまで来た」
日本刀は素材を用意する所が一番、時間がかかると誰が言ったか。それは事実だと思う。
素材としての鉄を用意するまでに三年がかかり、その鉄を刀として鍛造するための試行錯誤に二年。まだまだ荒い所はあるのは自覚しても、当面の目標には近づいて来た。
刀の形へと整え、歪みやねじれを正し、刀身に波紋を入れるための素材を塗る。
手が震えそうになりながらも、慎重に、それでいて時間をかけすぎないように作業を続けて行く。
そして、全ての準備は整った。
私は五年もの歳月をかけた努力と汗と血の結晶である刀を魔法の火で熱している。そして、赤熱化した刀身を宙に浮かせた水の球へと一気に差し入れた。
じゅぅ、と水が温度差によって発生した音が緊張を更に増させていく。うっかり刀を取り落としたりすることがないように力を込める。
水の球から引き抜いた刀身は僅かに反りを描いているのを確認して、再び刀を火にかける。
そして、熱した刀身をもう一度、水の球に突き刺して冷ます。
刀身の熱が飛んだのを確認して、最後に刃の調整を行う。歪みはないか、不要に厚くなっていることはないか。
手足の延長のように感じるようになった金槌で、最後の確認を行う。最後で焦って失敗しないように気は張り詰めていく。
そして、仕上げの研磨を行っていく。我ながら、作業の手際は澱みがないと思えた。
そして、一体どれだけの時間が流れたのか。作業の手を止めた手は僅かに震え、呼吸を思い出したように私は息を大きく吐いた。
「…………」
言葉が、出なかった。
ここまでようやく来たんだという達成感と、自分が手がけたものが見せた美しさ。
反りが入った波紋が波打つ刀身。それは自分が憧れていた日本刀の姿そのものだった。
「やっと……ここまで……!」
茎と呼ばれる柄の内側の部分、ここにカテナ・アイアンウィルの名を刻んだ。
後は柄を填め込んで、鞘を用意すれば――異世界で生み出した日本刀の完成だ。
「長かった……!」
思わず涙が出そうになる。まだこの完成は始まりに過ぎない。もっと突き詰められることがある筈だし、もう一度同じ物を、いや、これを超えるものを生み出さなければ技術が身についたとは言えない。
そう思っても、逸る気持ちは抑えられなかった。前世の記憶を思い出してから五年。ただ今日、この日のために走り続けてきたのだから。
――そんな感動に浸っていた私に、突如声が聞こえてきた。
『――ほぅ、妙な気配の出所はお前か』
「……はい?」
声がした方へと振り返ると、そこには戦装束を纏った半透明の女性がいた。
この世の者とは思えぬ程に美しく、息をするだけで彼女の空気に呑まれてしまいそうになる。存在としての格が違う存在がそこにいる。その圧迫感に全身から汗が噴き出る。
『良い、楽にせよ』
「あ、貴方様は……?」
『――我が名はヴィズリル。美と戦を司る女神なり』
「はいぃっ!?」
神、それは今世では実在する存在だ。神は人を超えた存在であり、この世界を管理している超越者だ。
強大な力を持つ故、滅多には下界に顕現することなどない。神を崇める王や神官に神託を授けることはあっても、直接姿を見ることなど簡単なことじゃない。
なのに、その神様が目の前にいる。ヴィズリル様と言えば、本人も名乗ったとおり美と戦を司る女神として、主に女性からの信仰が厚い神だ。
美しさを巡って戦う女性を味方する神だとか、そういった逸話がある神であり、神同士の恋愛劇の主役に祭り上げられることも多い。
強かな女性であり、気まぐれで人を振り回すこともあるが、慈愛に満ち溢れているというのが一般的なヴィズリル様の神様像だ。
『神気の器になれる剣など久しく見ていなかったな。我との相性も良い。うむ、心地良いぞ』
「あ、ありがたき幸せです……?」
『気に入ったぞ。汝、名前をなんと言う?』
「カテナ・アイアンウィルと申します」
『では、カテナよ。汝の功績を評価し、我の神子として名を連ねることを許す。この剣を神剣として祀る名誉も与えよう』
「すいません、何言ってるのかよくわかりません!」
『なんだと? ここは感涙し、噎び泣く所だぞ?』
「キャパが! キャパがオーバーでございます!」
『なるほど、驚きすぎて言葉もないと。しかし、我も驚いているのだぞ? このような若き人が神器となりうる一品を生み出すとはな。実に興味深い』
本当に感心したように唇に指を当てて微笑むヴィズリル様。一方の私は冷や汗がダラダラと止まらない。
神から直接、神剣として扱って良いと言われる名誉なんて王族だとか、そういった雲の上の人たちの出来事の筈だ。
なのに、どうして成り上がり貴族の男爵の娘にそんな事態が降って沸いてるんです!?
「あ、あの! 私はまだ未熟と言いますか、こちらの刀……剣は未完成でして……」
『……なんだと?』
「そ、そんな未完成な品で名誉を賜るのも不敬かと……!」
『――ハッハッハッ!! 神が認めた一品を未熟と、未完成だと申すのか貴様ッ!!』
押しつぶされそうな圧迫感が上からのし掛かってきて、そのまま跪きそうになる。
笑い声一つで押しつぶされてしまいそうだ。もう、一体どうしたらいいのかわからない。
『――尚、気に入った! カテナよ、ならば更なる研鑽を積むが良い! 我が神子として、我に相応しき一品を献上するのだ! この剣は私も気に入ったが、お前が持つと不思議と絵になる。これで捧げるのが武器だけでは勿体ないな!』
「は、はい?」
『死後、お前は私の眷属として迎え入れよう。生前は私の名代として、我の威光を広げるが良い。その為の力も授けてやろう』
「へぇっ!?」
『では、な。次の剣が完成した頃に様子を見に来るぞ。それまで修練を怠らぬように。次は我が自慢の神剣と比べようぞ』
「待って、待ってください! ヴィズリル様、どうぞお待ちに――!」
私の制止も聞こえず、ヴィズリル様の光が輝きを増していく。目を開けていられず、腕で庇うように顔を隠す。
そして、ようやく視界が戻った時にはヴィズリル様の姿はなかった。残されたのは私と、形になったばかりの日本刀だけ。
そこで、不意に違和感を覚える。その違和感を確かめるため、いつもの調子で灯火を出そうとする。
今までだったら拳大ぐらいの大きさの火が精一杯だったのに、ちょっと力を込めるだけで三倍以上の炎が出せてしまった。
……もしかして、これがヴィズリル様が言っていた力? あの女神様、名代として威光を広げるためって言ってなかった?
「ど、どうしてこうなった――!?」
私はただ、日本刀を作りたかっただけなのに――ッ!
* * *
これは後に、武器の作成者の名にちなんで〝カテナ〟と呼ばれるまったく新しい武器を生み出した少女が、神の寵愛を受けたことによって様々な陰謀に巻き込まれたり、神からの試練と称して世界の危機に立ち向かったりする物語の始まりであった。
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追記:連載版も開始しました。そちらも良ければよろしくお願いします。