舞え!蝶のように 八話
闘い済んで日が暮れてぇ~
今日もドラゴンライダーは往くぅ~
魔王たる者の情報は得られなかった。
代わりに知り得たのは、エクセリアという世界の情報。
ここに住む者達は、喩え魔物だとしても善と悪があるという事。
人々に脅威を与え続ける存在。
闇から生み出された宝石モンスター。
紅い魔法石に命を吹き込まれた魔物だとしても、悪意だけの存在では無いという。
反対に人であろうが、悪意を持つ者が居るという事も。
村の娘をオークの根城から救出するという依頼は果たせなかった。
いいや、果たす意味が無かった。
彼女達は望んでオークに雇われていたのだから。
村では考えられない高給取りとして、自ら働いていたのだから。
金ぴかオークのコンドーが別れる時に言った。
「また機会があればバイトしてね!」
・・・と?!
そこには悪意など微塵も感じられないのだから、異世界エクセリアは不可思議である。
店を後にする時、店員達の見送る姿が眼に焼き付いた。
不思議な世界・・・不思議な者達が住まう。
エクセリア・・・真実の姿は、いつ見えるのだろうか?
「きりきり歩け!もう直ぐ辺境警備隊がやって来るからな!」
タストンの前で連れて行かれる村長達。
「どうやら村長とは名ばかりのブラック企業主だったみたいだねぇ?」
腕を組んだタストン店主が呆れ果てて天井を見上げる。
「いやはや・・・参ったぜ。依頼主の身元をちゃんと調べらきゃならんとはな?」
狐モドキの俺がテーブルの上で丸こまって呟いていた。
「おかげで元々の村長から、お礼品を頂いたのよ。アンタ達にも振舞ってあげるわ」
指差すタストンに釣られて観たのは・・・・
山と積まれたサツマイモの塊り?!
「これだけあれば・・・焼き芋食べ放題よ!」
ー ・・・焼き芋だと?!
他に料理の方法があるだろ・・・とは、口が裂けても言えない。
だって・・・
「ヤッキ芋ぉっ!」
独り、眼をハートにする男の娘が居たので。
「アタシだけで食べても文句はないわね?!
今回のツケを払っていないミコやリュートに文句をいわれる筋合いはないわよね?!」
身を乗り出して言い募るサエぽんに、言い返せず知らんぷりしてやった。
「別に。ボクは構わないけど?」
気にも懸けないのか、ミコは直ぐに同意したんだ。
「サエさんに借りた金額は直ぐにでも返せるよ。きっと・・・」
地図に眼を落とすミコが、ギルドからの依頼書を確認して答えた。
「ほほぅ?!次なる件が舞い込んでいたの?」
うん・・・と、頷いたミコがタストン女史に訊ねる。
「このギヤマンの壁って件なんだけど。
悪魔教団の殲滅依頼って、もしかして人殺しとか言うんじゃないだろうね?」
ギルドには時としてとんでもない要求が齎されるという。
「この前は確か・・・浮気調査とか言って。
相手の暗殺を依頼して来たじゃないですか。
依頼主を逆にふん縛る事になった・・・タダ働きだったじゃないですか!」
思い出したミコが、今回の依頼を疑いの目で観る。
「あれは、ミコ達が逆切れしたからでしょう?
依頼に添って暗殺すればタダ働きにはならなかったでしょうに?」
言い募られたタストンは、それでもミコ達の行為が間違いだったとは言わない。
唯、依頼主から報酬が出なくなっただけだと、嗤うのだった。
「じゃあ、今回の件は?
殲滅って言えば、やっぱり滅ぼすんですよね?
相手は人なんですか?魔物・・・じゃないですよね?」
悪魔教団と聞いていたから、人の集まりだと思ったのだが。
「そこよミコ。情報では魔王の配下らしいのよね。
なんでも直近の部下らしい。そいつを熨して、捕まえれたら・・・」
「魔王の情報を掴める!」
タストンとミコがうんうんと頷き合う。
「で、報酬はざっと・・・2000ゴールド。
サエに払わなきゃいけない金額の、ざっと4倍!」
「いいねぇ~っ、残りで豪遊してもまだお釣りがくる!」
傍で聴いていたが即断する。
だって、両得に思えるからな、俺達にとっては!
「やろうぜミコ。魔王の部下も捕まえたいしぃ!」
気乗りする俺に、
「そうだよねぇ・・・」
何か、勘に来る物があったのか。
ミコは顎に手を添えて考え込んでいる。
「なんだよミコ。なにか癇に障ったのか?」
いや、癇に障る訳ではなくて。
瞳を狐モドキに向けたミコが言うには。
「この悪魔教団ってのをぶっ潰すには、魔王の配下を倒すだけじゃなくて。
信者達も駆逐する必要があるんじゃないの?」
悪魔を倒すだけでは教団を滅ぼす事にはならない・・・そうミコが言ったんだ。
「信者を?!なぜ?」
「だって、新興宗教って。教祖が居ない方が信者が集まるからさぁ」
・・・そうなの?
「あ、あのなぁ。どこぞの日本じゃないんだから!
カルト集団を相手にしてる訳じゃなんだぞ?」
「言い切れる?」
・・・・うっ?!
そ、それはつまり・・・そうなの?!
「悪魔崇拝の教団を簡単には滅ぼせないことは重々知っていても。
この件は遂行するだけの意味があるんだ。
特に本物の魔王を追いかけるボク達にとってはね!
それと、依頼してきた人にとってはね!」
ミコ君・・・君って子は?!なんと心優しい・・・
「金額が半端ないから、よっぽどのお金持ちなんだよ。
追加の報酬にも期待できるしさ・・・・」
前言撤回・・・
「そんじゃあ、決まりだよな?ミコも決めたようだし」
タストンに依頼を受けるとモフモフ尻尾を揺らして教える。
「だけど、気になるのはやっぱり信者だよ。
歯向かって来るだろうし、人間をぶち倒すのは心が痛むからなぁ」
気にしているのか?
他人を傷付けるのが?
「痛むうえで、後から慰謝料を根伐り執られるんだから。
人間を叩くのは、後が面倒臭いんだよなぁ」
・・・前言撤回。
なんだか、ミコが悪い人に思えてきた。
とか、何とか言いながらも。
ミコとリュートはギルドマスターに受託した契約書を提出した。
悪魔教団が根城を構えているソンポーの宿まで、歩きで3日。
馬車を雇えば半日の航程で着く筈だった。
「よっしゃーっ、そんじゃぁ前祝にぱぁっと飲み食いするぞ!」
俺達の前祝いに・・・ってことだぜ?
旅立ちは明日からだと。
「じゃあ、お料理を・・・」
タストンがバーテンに命じると、即座に出て来たものが・・・
「な・・・に?まさか・・・これは?」
山盛りの・・・
「サツマイモ・・・?!」
ミコもあんぐりと口を開けて見詰める。
「そう!焼き芋ぉっ!!」
独り。
焼き芋の山に、眼をハートにしたサエだけが喜んでいた・・・Orz
芋は・・・ほどほどが良いよな?
NEXT JOB コンティニュー・・・
先ずはメイドと喫茶でのお仕事でした。
相変わらず魔王の翳さえも見つからないのでしたが・・・
損な幼馴染の旅は続くのでした!
次回のお仕事はなんでしょう?
次回 蒼翼の修道女 壱話
修道女となっ?!遂にミコも入信するのか?!んな訳ないだろ?