舞え!蝶のように 六話
店の中に漂う険悪感。
現れた男に幼馴染のツッコミが炸裂する?!
澱んだ目、ボサボサの銀髪・・・
オーク店主の前に立つ男から醸し出されるのは、闇の波動だった。
まさに・・・って奴?
俺達の情報源からの忠告を思い出した。
男の娘サエぽんから聞いていた、魔王配下の翔龍騎って奴を。
「バイトだと?・・・ふん」
あからさまに蔑む目で見下ろし、ミコを品定めする闇の男。
「左様で。なかなかの珠なので、本採用したいぐらいですが・・・」
揉み手をする金ぴかオークが、話を変えようとカウンターのバーテンに目配せする。
「先ずは、一杯・・・」
闇の男をミコから遠ざけようと、VIP座席へと促した。
金ぴかオークの勧めに、ミコを見詰めていた男が。
「おい、この娘を連れて来い。たっぷり楽しませて貰うとしようじゃないか」
ぼそりとチャージを命じる。
「いや、バイトの娘ですので。チャージは受け付けておりませんので・・・」
金ぴかオークが即座に断りを入れる。
「なに・・・俺の言った事に逆らう気か?
俺はこの辺りのシマを取り仕切っているのだぞ?
ミカガミ料を3倍にしてやっても構わんのだぞ?」
闇の男は尊大な態度のまま、金ぴかオークに言い除けた。
ー なるほど・・・この辺りを取り仕切っている幹部って訳か?
咄嗟に俺は判断した。
この男がこの辺りの魔物を取り仕切っているのだと。
ー 魔王配下の闇の者・・・か。
とうとう尻尾を掴んだぞ・・・サエぽんの情報どおりだったんだ!
俺達が事件に関与する事にした本当の狙いは魔王の情報を得る為。
こいつの口を割らせる為だったのだからな!
座席に深々と座る狐モドキの俺を観てから、ミコがゆっくりと頷く。
やっと手がかりらしい奴に会えたってね。
「おい、そこのにーちゃんよ?
この娘っ子は俺が初めに呼んだんだぜ?横から口を出すのは野暮ってもんだろ?」
闇の男に真っ向から言ってやったよ。
「なんだ・・・お前は、観た事ねぇ面だな?
流れ者なら知らねえだろうが、俺はこの辺を取り仕切ってる魔王様配下のダルマン。
ここら辺りじゃ知らねえ魔物はいねぇぜ?」
立ち止まった男が高圧的な態度をみせる・・・が。
「知らねえもんは知らねえんだよ?
その達磨か垂れ魔か、知んねぇ奴に言われる筋じゃねえな?!」
嘲るように言い返してやったら・・・
「なんだてめえっ!舐めた口を利くのなら、その口を二度と利けなくしてやろうか!」
闇の男はあっさりと口車に乗ったようだ。
客とやくざの口喧嘩に、周りの魔物達もざわつき始める。
闇の男の実力を知っているのか、魔物達は狐モドキのリュートに同情しても口を挟もうとはしなかった。
「ふんっ、観てみろよ周りの連中を。
俺様に怯えて仲裁どころか止めにも出やがらねぇぜ?
お前みたいな動物か魔物か判らねえ半端者に、関わり合いたくねえんだとよ?」
周りを一瞥してからリュートの元へと寄り、
「この落し前・・・どうつける気だ?あぁ?」
ならず者口調でリュートに迫った。
ー 店の中でやり合うのは得策じゃないな・・・女の子達も居るし。
ミコは被害が出る恐れを考慮して、リュートに外を指差す。
同じ考えだったようだな、正解だ!
「それなら・・・外で。白黒決着つけるかい?」
ボックスシートから起き上がり、闇の男を店外へ誘う。
「ボケた事言ってんじゃねぇ!この場で落し前を着けろっ!」
短気なのか、自信過剰なのか。
闇の男はリュートへ掴みかかろうとした。
ー ちっ!アホたんめ!ここじゃぁ他の者達にも被害が及ぶだろー!
舌打ちしたミコがリュートに宿らせた女神を呼ぼうとした。
魔法のリングを放り投げて寄越せと・・・
「待て!店の中で暴れられては困りますな。
それでは折角ご来店くだされたお客様方にも迷惑になります!」
意外な事に、金ぴかオークが割って入って来る。
今の今迄、揉み手をして諂っていたあのオークが。
「いくら魔王様配下の者だとしても、商売の邪魔をされては困りますな。
そのような事を為されるのであれば、こちらにも考えがございますよ?」
尊大な態度をみせて居る闇の男に対し、表情を変えたオークがそこに居た。
「なにを?!貴様など、俺に楯突くなんざ、100万年早えんだ!
俺様が任されたこのシマに店を開かせてやった恩を忘れたのか?!」
金ぴかオークに詰め寄る闇の者。
二人がいがみ合う隙に、ミコの元まで来て。
「なんだかなぁ?どっかの世界でもこんな感じなのかもなぁ?」
暴力団に諂う店主だった者が反旗を翻したような構図に、狐モドキがため息を吐く。
「そうかな?でも、金ぴかオークの商売熱心さは分るような気がする」
店員として働いたからなのか、ミコは金ぴかオークの肩を持つ。
「何言ってんだよミコ。
店員の女の子達を救い出して一網打尽にすれば良いじゃないか?」
確かにリュートの言う通りだろう。
此処に集うのは、闇の眷属達。
全てが討伐対象でもあるのだから。
「そ、それはそうだけど・・・
なんだか、憎め切れないんだよなぁ、あの金ぴかオークのことが。
・・・なまじ人より人っぽいんだよなぁ」
近寄ったリュートに手を指し伸ばしたミコが溢す。
「だからさぁ。取り敢えず!
あの魔王配下の男を叩きのめしてから、考える事にするよ!」
リュートに宿る女神ミレニアに、帰還を求める。
「そんじゃ・・・そうするか!」
狐モドキから金の魔法リングが渡されると。
ー ミコ!くれぐれも油断しないように!
魔法リングに宿ったミレニアが注文を付ける。
ー それと!リュートが浪費した分の請求書はミコに廻すからね?
「・・・はぁ?!」
店に入る時に浪費した金額分をミコのツケにすると言い切られて、
ジト目でリュートを睨む・・・ミコに。
「あ、それはその・・・すまん。この通り!」
床に這い蹲って、狐モドキが謝罪した。
「リュート・・・働け・・・」
ボツリと鬼のような顔でリュートに言い切ってから。
金色の魔法リングを右手に填めたミコが命じる。
「リュート!チャージっ!翔龍状態に変身っ!」
下僕たる者リュート。
主たる翔龍騎ミコ。
女神を宿し闇を討つ者、ドラゴンライダー。
その名は、翔龍騎ミコ!
金色の光が辺りを照らす。
光が消えた跡に立つ者は魔法機械、翔龍状態のリュート。
白銀に染まった鋼鉄ボディー。
龍と同化した魔法の生命体。
姿形は龍と馬が掛け合さったキメラにも近い。
しかし、主人を鞍に跨らせ敵を睨む目は蒼く染まっている。
まるで闇を射殺すかのように、燃え滾らせて。
ざわっ ざわっ
魔物達が一斉に動揺する。
魔物達の中で、鋼の翔龍を知る者は腰を抜かせる。
闇を討つ鋼の魔法機械に。
「おっさん!店の外に出ろよ。それとも仲間達の前で惨めな姿を晒したいのか?」
鞍上のメイドが指差し言い放つ。
「ミコ・・・変身したらどうなんだよ?
ぜんぜん説得力ないぜ、その恰好のままじゃ?」
翔龍状態のリュートが尤もな意見を口にする。
確かにミコの姿は闘う翔龍騎ミコとは思えない。
単なるメイド喫茶のバイトとしか見えないのだから。
「う・・・うん。でもさ、これって借用品なんだよなぁ。
勝手に脱ぎ破ったりしたらどんだけ請求されるか、分かったもんじゃないよ?」
ミコが脱ぐことに躊躇っていたら、下僕が振り返り、
「とか言って・・・気に入ったんじゃねぇの?メイドが天職だとか?」
痛恨の一言を吐いた。
びっくん!
・・・いや、図星だったようだ。
「な、な、なにを言うんだよぉリュートぉ?!
そ、そ、そんな訳ないじゃ・・・」
「・・・あるんだな?」
ぴぃしぃーっ!
図星を突かれたミコが固まる。
「あ、あ、あ、あのっ!そう思っただけで・・・メイドが性に合ってるとか考えてないから!」
・・・・・自爆だよ、ミコ君。
「ふっ!そんじゃー帰ったら、ミコは男の子でメイド喫茶に就職すると・・・
面白い・・・実に。実に面白いぞ・・・・な、訳ないか!」
・・・喜んでるだろリュート君も。
二人が馬鹿な話を交わしている時。
「翔龍・・・翔龍だと?!
あのちっこい魔物が・・・?」
金ぴかオークが眼の色を変える。
「ちぃっ?!同族だったのか?」
闇の男が舌打ちをする。
「ならば・・・本気で掛からねぇとな?!」
一声吠えると懐から鋼のワッペンを取り出して。
「魔王配下の翔龍騎、ダルマン!
いざっ、見参っ!」
変身する・・・闇の姿へと。
黒い霧が纏わり付き、男の姿をみるみる変えていく。
「あらまぁ・・・いきなりだね?」
闇の姿へと変わっていく様を観たミコが呟く。
「ホントーにな。順序を弁えない奴だ!」
鋼の翔龍状態になっているリュートも同意した。
闇と白金の翔龍騎が、対峙する。
店内は二つの勢力に因って修羅場と化そうと言うのか?
そこへ・・・
「待ってくれ!闘うのなら店の外でやってくれ!
俺の店を壊さないでくれぇーっ!」
金ぴかオークの嘆きの叫びが虚しく響いた・・・
哀れ・・・店主よ?!
なんだかもう・・・
まさかのオーク?
まさかの敵?
そして・・・とんでも翔龍騎ミコが現れた!
・・・・にゃんじゃとて?
次回 舞え!蝶のように 七話
おおーい、呆気なすぎるんじゃね?