舞え!蝶のように 伍話
雇われたミコ?!
客人は魔物?!
・・・一体此処は?
翔龍としての能力を求める。
首に着けている金色のリングに。
ミコから預かった魔法リング。
潜入作戦開始からずっと持っている女神を宿した腕輪に・・・だ。
狐モドキの仮初の姿ではなく、鋼の身体に戻る為に必要だったから。
「おい、ミレニア!ミコを救出に行くぞ!」
魔法のリングに宿っている女神を呼ぶ出す。
「何よリュート。お昼寝してたのに!」
切迫感のない女神ミレニアの声が、狐モドキに返って来る。
・・・その前に・・・寝てたんかーいっ?!
「昼寝してる場合かよ?!今回は潜入作戦だからってミコが預けて行ったんだろーが!」
通常ならミコに宿っている筈の女神ミレニアだったが。
「魔法リングに宿ってるからってゾンザイに扱わないでよね。
私ってば、ミコの魔法が通っているモノなら、どこにだって宿れるのよねぇー(棒)」
それは、便利な・・・・違うだろ?
「今回はミコが囮になるからって、魔法リングを預けていったんだから!
ミコにもしかの時はミレニアが俺を変身させなきゃならねぇ手筈だったじゃないか!」
「・・・そうだったわねぇー(棒)」
生欠伸をするような気怠い声で、女神が狐モドキのリュートに答えて来る。
あまりの呑気さに、堪らず吠える。
「何を呑気に構えてるんだよ?!ミコの居場所が判らなくなったんだぞ?
一刻も早く助けに向かわないと・・・やばいんだぜ?」
捕えられたミコを数匹のオークがどこかへ連れ込んだ。
その事実が俺を苛立たせていた。
「ミコは姉の身体になってるんだぞ!女の子になってるんだぞ!
もしもオークに挑まれたら、流石のミコだってどうなるか・・・」
一般に知られているオークの習性を慮って焦りの色を濃くする。
「ああ、その件ね。あんたが心配する程の事じゃないわよ?」
苛立つ狐モドキの耳に聞こえてくるのは、飽く迄呑気な女神の声。
「なぜ、そう言い切れる?もしかしたら群れの中に放り込まれてるかもしれないんだぜ?」
頭の中に描かれるのは、オークに囲まれたミコの姿。
「リュート・・・何を想像してるんだか?
私がこうまで呑気なのはね、差し迫った脅威を感じていないからなのよ?」
思考を中断させたミレニアの言葉に、俺は?マークを頭に乗せる。
「ミコと私はシンクロしてるの・・・知ってるでしょ?
ミコに危険が迫ってるのなら、こんなにものんびり構えてなんていないから。
と、いう事よ・・・おわかり?」
生欠伸をしながら、女神ミレニアが教えて来る。
「どういうことなんだよ、それって?
ミコはオークの潜伏先に連れ込まれたんだろ?」
「確かにそうだけどね・・・悪意は感じられないし。
身に迫る危険も、今の処は大丈夫みたい・・ね?」
狐モドキモードのまま、女神ミレニアの返事を信じるよりなかった。
「それよりもリュート。
アンタもオークの根城に入ってみれば?
虎穴に入らずんば虎子を得ずって、云うじゃない。
ミコを救い出したかったら入ってみれば?」
簡単に女神が勧めて来る。
でも、どうやって?
俺はは今、狐モドキ状態だから・・・
「ふっ!簡単な事よ。
あの岩の辺で大声で叫べば、オークの方が来てくれるから!」
確かに。
隠れ家の庭先で、何者かが大声をあげれば。
調べに出てくるだろう、オークでも。
「そんなことすりゃー、捕まえてくれって言ってるようなものだぜ?」
流石に俺でも、そんな事をすればどうなるかが解る。
「それなら翔龍状態の方が善いだろうに?」
戦闘モードでもある翔龍状態へ、移行しておく方が善いのではと聞いたが。
ミレニアが答えて来たのは、全く見当外れな言葉だった。
「リュート、あんたお金・・・持ってたわよね?
ミコから預かっているゴールドコインを?」
はぁ?!魔物を倒すのにコインが必要?なにそれ?
__________
ここは店の奥。
店員が着替えをする場所・・・つまり更衣室。
で・・・黄色い声が上がっている。
「ほほぅ、見た目とは大違いねぇ?」
「魔法使いにしておくのが勿体ないわね?」
まじまじと着替えを観られている。
初めは断っていたが、羽織り方が解らなかったので頼んでしまった。
「そんなに・・・観ないでよ」
女の子に着替えをガン見されていた。
まぁ、自分も今は女の子になってはいるのだが。
「いや、観ないと。服装チェックが出来ないでしょーが!」
断るのも観るなとも言えず…
「はぁ・・・それはそうだけど。これで良いの?」
漸く着替え終えたミコが、チェックを頼むと。
「ふむ・・・もうちょっと。こうする方が善さ気だわ」
二人の着替え担当の子が、ミコの身体を隅々までチェックする。
「ちょっ?!ちょっと!どこ触ってる・・・・」
触れられたミコが大声で抗議しようと、身体をくねらせる。
「アンタ・・・人聞きが悪い声をあげなさんな!
アタシは脇を締めただけじゃないの!」
サイドエプロンを引っ張った子が、云い募る。
「にゃって・・・こそばゆいからっ!にゃははははっ!」
脇が・・・弱いのか?
笑い転げるミコにお構いなく、
「緊張感なし子ねぇ、これから魔物さんの接客するっていうのに・・・」
エプロンを締め直しながら、服装のチェックを終える。
「はっ?!そうだった!僕としたことが・・・」
ミコが我に返って、真顔になる。
「そうそう!ちゃんと接客しないと。
お客様の機嫌を損ねちゃったら大変よ?お給金貰えなくなっちゃうんだよ?
そーしたら、時間通りに解放して貰えなくなっちゃうよ?」
チェックを終えた二人の子に教えられる。
「あなたは臨時雇いでしょ?経験あるの?」
「無いに決まってるだろ?魔物の接客なんて!」
そりゃー、普通・・・無いわな。
「ここにはね、オークさん達以外の魔物も多くやって来るの。
その魔物さん達全部が善良な魔物さんとは限らないから。
特に、お酒が入ると豹変する魔物さんもいるからね、注意しといた方が善いわよ?」
「なるほど・・・」
いやそれ・・・人間にも居るから。
「でわっ!!頑張ってウリなさいね?!」
ウリ・・・って。ヤバすよ?
「甘い言葉をかけて、チップをはずんで貰いなさいよぉ?!」
それって・・・ま、いいか。
背を押し出されたミコが、カウンター越しに店内に入ると・・・
「「がやがやがや・・・」」
店の中は満員御礼状態だった。
「・・・どっから来やがったんだよ。こんな他部族が」
ミコの眼に映るのは、ストックを侍らせて盛り上がっている魔物達の姿。
中には椅子に収まり切れない大型魔物オーガまで、鼻下を伸ばして侍っている。
「あああ、魔物の印象が・・・壊れちまう・・・」
野良で遭遇すれば、間違いなく戦闘になるだろう。
間違いなく命を賭けて闘う事になるだろう。
それが・・・こんな店に集っているとは。
「もしかして、店の前で待っていたら。
無尽蔵に魔法石をゲット出来るんじゃないのか?」
魔物ハンターでもあるミコには、ここがレベルアップの巣窟にも思えてくる。
「待ってるだけで魔物の方からやって来てくれる・・・経験値アップの宝庫だよな?」
確かに、待ち伏せしてれば良いだけなのだから。
ミコが店内をぼけっと眺めていたら。
「おーいっ!そこの茶髪のねぇーちゃん!」
御呼びがかかった。
「<ピクッ>・・・呼んだ?」
振り返ると、ボックス席に陣取ったワーウルフが、空のグラスを差し出して。
「あー、呼んだとも!ミックス盛り合わせ、追加で頼むわ!」
ミコに注文を頼んで来た。
「ミ?ミックス盛り合わせ?なんの?」
怪訝そうなミコに、ワーウルフの方が怪訝な声で聴き返して来る。
「ミックスだよ?お前さん・・・知らないの?アイスの盛り合わせに決まってるじゃん?」
「・・・・・・・はぁ?」
ワーウルフが・・・アイスクリームの盛り合わせを頼むのかよ?
開いた口が塞がらないとは、このことか。
まだ、何かを言いたそうなワーウルフから離れてカウンターのバーテンオークに注文された商品を告げると。
まるで用意されていたかのような速さで。
「ふごーっ、ミックちゅだぁー!」
盆にのせられた巨大なミックスアイスを差し出して来る。
「持って行けって?わかったよ・・・」
ワーウルフの元へ行き、テーブルにアイスを置いてスプーンを添える。
「オオーゥ!待ってたぜぇ!」
遠吠えを挙げたワーウルフが無邪気に喜んだ。
ー なんだよ・・・何だよこれ?
魔物がまるで人間みたいに燥いでる・・・喜んでる?
いつもなら殺伐とした闘う相手に、少しだけ微笑ましいと思えた。
「おーい!こっちにも頼むぜ、カワイ子ちゃん!」
ミコに向かって次々と魔物達が声を掛けて来る。
「あっ?!はいっ、只今!」
普通のバイトをしている感覚という物か。
慌ただしい注文に、考える暇も無くなったのか。
ミコは客席を縫うように駆け回る。
ー あれ?僕・・・楽しくなってる?
働くって事が、こんな楽しいなんて思わなかった!
忙しいのに。
身体を奔らせ続けているのに・・・
魔物に働かされているのに。
悍ましい魔物達に使われているのに・・・
「上手だねぇお姉ちゃん!何時から務めてるの?」
「ひゅーっ、動きがいいねぇ、玄人じゃねえの?」
褒められるのが嬉しい。
声を掛けてくれるのが苦にもならない。
ー 現実世界でも・・・こうならなぁ。
接客業でも勤めれるのになぁ・・・
フリフリのエプロンを靡かせ、胸を強調したシャツを開けさせ。
蝶のように舞い、蜂の様に刺す。
魔物が相手だという事も半ば忘れ、ミコは店内で軽やかに舞った。
「あははっ!皆さんっ、ご注文は?」
流れる汗も厭わず、ミコは明るく笑っていた。
「お、おいっ!ミコ?!」
テーブルから呼びかけられた声に振り向く。
「おまえ・・・なにやってんだよ?」
眼が合う。
ボックス席に陣取った、小さな客に。
「・・・なぜ?・・・リュートが?」
狐モドキとミコの二人が固まった。
リュートの眼には、生き生きとしたミコの姿が映っている。
ミコの眼には、眼が点状態の狐モドキが座って見上げているのが映ってる。
「は~いっ。新入りさん!こちらは山ほどチップをはずんでくだされた社長様なのでぇす!」
横合いから魔法石を両手で抱えた女の子が教えて来る。
「粗相がないように!」
そう教えてカウンターに向かった女の子はウハウハ状態。
「リュート・・・まさか?」
ミコが大枚をはたいた狐モドキリュートに訊く。
「あ。あははっ!相場という物を知らなかったんだ!
キャバクラなのかよ、ここは?!」
何も知らない狐モドキが言い繕うのだが。
「あほぉーっ!この薄ら頓智気!なにやってんだよぉ!」
ミコは折角様子を見に入店してくれた、リュートをぶん殴った!
「ここは客に対してぶん殴っても良い店なのか?」
不意に。
気配も悟らせずに、話しかけて来た。
「いやぁ、ナバトの旦那。こいつは今日入りたてのバイトでして・・・」
しゃっちこばったオーナーである金ぴかオークが、揉み手で従っている。
声に気が付いたミコが、振り仰ぎ見た者とは・・・
「ふんっ、新入りだろうが気に喰わんな」
見上げたミコを見下ろした、尊大な態度を執る者が呟いた。
「この位の小娘が、一番躾けねばならんのだぞ!」
黒い影を纏った者・・・魔王の手下。
闇の翔龍騎が・・・そこに居た。
・・・あれ?!
こんな展開になる?フツー?
バツが悪いミコ。
眼にした衣装に固まるリュート(狐もどき)
さて・・・現れたのは?
きっと闘うんだろうなぁ・・・え?まさかアンタは?
次回 舞え!蝶のように 六話
まさかの展開ですが。そんなこともあるんですねぇ・・・