ファイティング・スィーパーズ! 参話
今話もゲストが登場します。
宜しくですぅ~!
振り返ったOLリンが、声を呑んだ。
そこに立つ者を驚愕の眼差しで見詰めたままで・・・
有り得ないと思ったのか、目の錯覚だと思い込んだのか。
「残業し過ぎて疲れちゃったんだわ、幻を観るくらいまで」
自己完結・・・現実逃避。
「あはは・・・ビルの中に・・・魔物が居るなんて・・・有り得ないわ」
ブツブツと呟き、デスクに向き直る。
「早く終わらせて帰ろぅーっと」
残りの書類に手を伸ばすリンは、目にしたモノを拒絶してしまった。
だが・・・
カタン・・・
それは横の机から聞こえてきた音。
誰かがニャタの席に座った音がした。
同期で友達のニャタの姿なんて居なかった筈・・・今拒絶したのは確か?!
確か?
瞼が勝手に閉じてしまう。
奥歯がカタカタと音を立て、心臓の音が鼓膜を突いた。
さっき瞳に映った最悪の状況・・・強制的に幻だと思い込ませて現実から逃避した。
会社の中で現れる筈もない・・・魔物の姿が、フラッシュバックしてしまう。
・・・カタ・・・カタン・・・
引き出しを開けている音が、隣のデスクから聞こえてしまう。
もし・・・本当に魔物だとしたら・・・次に襲って来るのは。
ー 嘘よ嘘!こんなの悪い夢に違いないのよ。
私はきっと疲れ切って眠っているんだわ、早く起きて仕事を終えなきゃ・・・
まだ、現実逃避していられるのが唯一の救いなのだろうか?
隣の音が止んだ後に来るのは・・・想像したくもない現実。
固く結んだ瞼を、ゆっくりと開いて行く。
恐怖より真実を確かめたい欲望が勝ったのだろうか?
音が止んだ・・・隣の席に向けて・・・瞼を開いた時!
「っ△〇?△□〇??!」
言葉にもならなかった。
目の前に<アンテッドコボルド>の顔があったから。
紅く澱んだ瞳で自分を観ている・・・<死霊の小悪鬼>・・・
半ば腐り、顔が爛れている悪鬼の顔がリンをしげしげと眺めまわしている!
・・・が、これといって何もして来ない?
唯じっと見て来るだけ?
じゃない。
良く見れば、何かを差し出しているのが判った。
「え?!それ・・・私に?」
アンテッド・コボルドが差し出しているのは、ニャタが好んで食べていたチョコレート?!
思わず訊いてしまったリンに、コボルドがうんうん頷き差し出して来る。
「ちょっ、ちょっと?!なぜ魔物がニャタの引き出しから勝手に?」
自分で訊いて、自分が如何におかしい事を訊いたのかが分かった。
魔物が友達の机に座り、隠されていたチョコレートを見つけて人間に差し出している。
如何に自分が疲れ果てた顔をしていたって、魔物が見ず知らずの人間に気を使う筈もない。
況して、魔物がチョコレートという物の存在を知っている筈もない。
それよりも、どうして襲って来ないかが分からないのに、リンはコボルドに注意してしまったのだ。
「こ・・・こ・・・これ。食べる・・・気分・・・良く・・・な・・・る」
片言で人の言葉を話すコボルド。
「リ・・・リン、疲れ・・・て・・・る・・・よ?」
名を呼ばれて混乱に拍車がかかってしまった。
「な、なぜ?!どうして魔物が私の名を?」
恐怖よりも先に、名前が知られている事に驚愕する。
「あ・・・あ・・・知って・・・る。だっ・・・て・・・私だ・・・から」
アンテッドコボルドがズタズタの服に着いている身分証を指差した。
「え・・・まさか?!ニャタなの?!」
信じられない、友達がアンテッドコボルドになったなんて。
身分証には間違いなく友の名が・・・
「え・・・えっと、ニャタ・マコート経理部・夜間専任・・・って?!」
身分証とコボルドは交互に観るリンに、頷いたコボルドが。
「夜・・・し・・・か、仕事・・・で・・・き・・・ない・・・の」
「はぁ?!魔物になっちゃったから夜間専任で仕事してる・・・の?」
益々訳が判らなくなる。
友達は魔物になっても仕事を続けさせて貰ってるのかと。
「上司・・・から・・・夜間・・・の・・・方が・・・給料良い・・・て」
は?!なにそれ? もしかしてそれが理由で仕事続けてるとか?
「ま、待ちなさいよ!ニャタは人間辞めても仕事したかったの?
それとも何か理由があって魔物にされちゃったの?」
友達は人間だったのは間違いない。
だけど目の前に居るニャタを名乗る魔物は、人間と同じ仕事をしているのだと言う。
昼間ではなく、夜間専業になって。
「そ・・・う。私・・・大きな・・・失敗・・・した・・・から。
専務に・・・辞めさせられ・・・そうに・・・なった・・・の」
コボルドが項垂れて話し始めた。
如何に魔物になってしまったのかを。
「首・・・には、なり・・・たくなかった・・・から。
どんな・・・仕事だって・・・やり・・・ますって、お願い・・・したの」
「そうだったのねニャタ。何も知らなかったわ」
うんうん頷くコボルトが、引き出しを開けて辞令を摘まみ出した。
「これ・・・専務からの・・・命令・・・書・・・なの」
手渡された辞令を開くと・・・
「なによこれ?!どういうことなのよ?」
そこには、ニャタを夜間専任経理部に転勤し・・・とあった。
しかも、その辞令書には・・・
「宝石モンスターに任ず・・・って?!
まさかニャタは拒まなかったって言うんじゃないでしょうね?」
人智を超えた・・・というか、真面目に受け取ったのかと訊いたのだが。
「私・・・モンスターに・・・なるなんて・・・信じてなかったから」
そりゃそうだけど。
その結末が・・・コボルドとは。
「それなら、明日にでも総務部に掛け合って元に戻して貰おうよ?」
コボルドになってしまったOLニャタを救う為、リンは総務部に行こうと言ったのだが。
「駄目・・・仕事・・・辞めたくない・・・から。
首に・・・なっちゃう・・・のは・・・嫌・・・よ」
そうまでして会社に居続けたいの?
流石に怒りたくなってくるリンが、
「魔物になって良いことなんてないでしょう?!
昼間は何をしているのニャタは?
何が面白くて魔物のままで良いっていうのよ?!」
コボルドに掴みかかって揺さぶった。
「でも・・・お給料・・・良い・・・し」
そこですか?
・・・って、その前に。
「魔物が給料貰って使いみち在るの?
そんな恰好で外を歩いたら、お店にも入らせてくれないわよ?!」
その前にリンさん。
アンテッドコボルドなんだから、駆逐されちゃいますよ?
「折角稼いでも、使えないんじゃ意味ないでしょ?」
「定年・・・迎えられたら・・・人間に・・・戻して・・・くれるって言うから」
なんですか?それじゃあ定年まで人じゃなくて良いんですか?
「そんな・・・ニャタは結婚とか考えないの?
魔物なんだから、結婚なんて無理なんじゃないの?」
「・・・ううん・・・好きな人出来た・・・んだよ」
・・・え?!
マジ? マジですか??
ぱっくり口を開けて、声を失うリンさん。
「なに?!マジ?!いつの間に?ニャタ?」
「同じ・・・夜勤先任のオーガ君・・・」
お・・・オーガー・・・ですと?!
「お、オーマイガー?!ニャタ誰なのよそれはっ?!」
魔物同士で恋に堕ちたか?
「彼も・・・夜勤・・・だよ?開発部の・・・主任・・・だった人」
真面目に答えて来る事からして、先ずは・・・
「おめでとうっ!・・・って、結婚はどうする気なのよ?」
先ずはお祝い、それから今後についての話。
「いやぁ・・・まだ・・・そこまでは・・・彼が・・・良いの・・・なら」
「ひゅーひゅー!熱いね・・・って!待て待て待てぇっ!
ニャタ!肝心なことを忘れてるわよっ、人じゃ無いんでしょうがぁっ!」
・・・ですよねー!
「のろけてる場合じゃないでしょ!こんな会社とっとと辞めて転職しなさい!」
「今は出来ない・・・よぉ、人に戻して貰わないと」
そりゃそうだ。
「困ったわね、人を魔物にするような奴だから。
きっと退職金なんて貰える筈もないし・・・」
そこかーいっ?!辞職すれば退職金は見込めないぞ?
一人と一匹が果てもない相談を繰り広げていた背後から・・・
そっと立ち聞きしている者が居たのです。
「ふっ・・・聞いたわよ!詳しい話を聞かせて貰いましょうかね?!」
振り向いたリンとアンテッドコボルド・ニャタの前に居るのは?
「夜間は魔物掃除人として仕事している翔龍騎ミコに!」
茶髪を掻き揚げるミコが、経理部のドアの前で笑っていた・・・
おや?!今回は直球勝負でしたか?!
ニャタ・マーコト = ねこた まこと 様でした!
ねこた まこと様のページはコチラ。
https://mypage.syosetu.com/983493/
ねこた様のお奨め小説は下記です。
https://ncode.syosetu.com/n5310fj/
「トライアングル×とらいあんぐる×⊿〔トライアングル」
シリーズ化されてます!是非にもお立ち寄りくださいませ。
今回、ねこた まこと様には大変な役どころをお願いいたしました。
誠にありがとうございますー!
そして、この後ですけど。
ニャタさんは人間に戻れるのでしょうか?
戻らなかったら・・・さば・ がやばい事になる?
さて?どうなります事やら?
次回 ファイティング・スィーパーズ! 四話
悪の黒幕とは?ミコは誰を標的に選ぶのか?!




