舞え!蝶のように 弐話
イキナリだった・・・
二人の前に現れ出た魔物に襲われたのは。
不意打ちを喰らった村娘のミコが、魔物の手で掴まれてしまった。
身に迫る危険を感じられなかったのは二人にとっての痛恨事。
翔龍になる暇もなく、護るべき子から離れてしまったのも油断からなのか。
オークの手に捕らえられたミコが喚く。
「リュートぉっ?!
放せよっ、汚い手で触るなぁ!」
魔物に伸し掛かられたミコの叫び声と、数匹もいるオークの群れだった。
豚と人のキメラの様なオーク。
体格は人よりも大きい。
醜く歪んだ双眸。
そして今のミコにとって、忌み嫌われるのは・・・
「お前らっ!僕は男の子なんだぞ!勝手に女の子だと決めつけるな!」
魔法で応戦しようとするミコの身体に襲い掛かるオークの狙いは、子を宿らせる事。
オークという蛮族は、魔物の中でも忌み嫌われていた。
人里に現れては女性を拉致し、自分達の子孫を造ろうとするから。
「いい加減にしないと!タダじゃおかないんだからな!」
叫んだミコに寄って嵩って豚モドキが抑え込もうとする。
「だぁかぁらぁ!汚い手で触るなぁ!」
暴れるミコをものともせず、一匹のオークが軽々と掴んでボロ袋に押し込んだ。
「〇✖△っ!」
袋に押し込まれたミコが、何やら叫んでいるようだが。
袋の口を閉じられて、くぐもった音にさえも聞こえてくるだけになった。
袋の中で暴れているようだが、オークの群れは気にも懸けずに立ち去って行く。
獲物を自分達の根倉に連れ帰る為。
群れが去った跡に、狐モドキが戻ると。
「・・・ホント損な役回りだよなぁ。
どうせなら捕まえて白状させりゃー事足りるのに・・・」
リュートが羽根を羽ばたかせて宙に浮きながら愚痴った。
ミコが連れ去られたオークの群れに眼を凝らしながら。
「今回の依頼がクエストじゃないのが気に喰わないんだがな」
上空から後を追いながら愚痴てしまう。
「ホント、ミコは気が善いというか、困ってる人には弱いからなぁ。
村娘を救出するなんて言い出すんだもんなぁ・・・」
村長からの依頼に、初めは乗り気ではなかったんだが。
「オイスターに現れた爺さんが頼んでこなけりゃ、
ミコだって好きこのんでオークになんか捕まりゃしないのに。
あんの利かん坊には魔王を探すっていう宿命があるのになぁ」
オークの群れを空の上から追跡しだしたリュートがため息を吐く。
それは4日前の事。
「おかみさんっ、お願いじゃ!頼みを聞いとくれ!」
オレゾンにある旅人の宿に年老いた男が転がり込んで来たのは、
もう、ミコとリュートが少し贅沢目な晩御飯を、クリロンから受け取った処の事だった。
「なんだよあんたは?ウチは人助けをしてる役所じゃないわよ?」
女主タストンが商売の邪魔だと言わんばかりに手を振り、断ろうとするのを。
「ワシらの手には負えんのじゃ。奴等がおら達の村を襲いおったのじゃ!」
ミコのフォークを持った手が停まる。
「奴等に娘達が捕らえられてしもうたのじゃ。
このまま数日も手を拱いておれば、みんなオークの子を宿らされてしまうんじゃ!」
ピクンとミコの顔が引き攣る。
「じゃから!誰でも善いから力のある者に頼みたいのじゃ。
村の奴等では歯が立たんのじゃ、民兵に頼みに行っても門前払いになったのじゃ!」
(カタンッ)
座っていたミコが立ち上がる。
「金ならこれだけ持って来た。請け負ってくれる者を探してくれんかのぅ?!」
村人の爺さんは、懐から小さな袋をタストンに差し出すと。
「はんっ、何を寝ぼけた事を?
オークって言やぁ、群れ集っている筈じゃないのさ。
一人や二人でなんとかなるもんじゃないんだよ。
こんなしみったれな金貨ぐらいじゃ雇えるにしても一人が精一杯だよ?!」
呆れ果てたような顔で女主人が爺さんに突き返した。
「そ、そんな・・・おら達の村じゃ、これだけ出すのが精一杯なんじゃよ?!
なんとかならんかのぅ・・・このままじゃ娘達は皆、奴等の産卵器にされちまうぞぃ?」
情けなさそうに爺さんが溢す横から。
「お爺さん、詳しい事を教えてくれない?」
話しかけたのはミコ。
黄金の魔法腕輪を填めた女の娘。
「お嬢ちゃんは?もしやハンターなのかい?」
渡りに船・・・と、言った処か。
ミコの姿を上から下まで見詰めてから。
「お嬢ちゃんは旅のお人かい?それとも魔法使いさんなのかい?」
幼い顔をした少女に訊いて来ると。
「どっちも!
それより村の娘さん達が大変なのですよね?
救い出さないと孕まされちゃうんでしょ?オークの子供を?」
魔族の中で忌み嫌われるオークには、他部族のメスと交配する習性がある事は知っていた。
勿論詳しくは知らない事なのだが。
「そうなのじゃよ。
今日の昼間に突然群れが襲って来たのじゃ。わし等男共が畑に出払った隙を突いてのぅ。
知らせに来た子供に因れば、数人の娘達が連れ去られてしもうたようなのじゃ。
わしは居ても経ってもいられず、助けを求めて街にまで来たのじゃよ」
ミコは爺さんの申し立てる事を聴いていたのだが。
「それは大変ですね。
急いで助けに行かないと、娘さん達の身が危ない。
僕で善ければ助け出しましょうか?」
あっさりと・・・救出に向かうと請け負ってしまった。
「おいおいっ!ミコ、辞めとけって」
俺の方が心配になる。
「今から往ったって気分を悪くするだけじゃないか。もう手遅れだぜ?」
時すでに遅しって言うのだが。
「そんなの行かなきゃ分かるもんか。
もしもそうだったとしたら、オーク共をこのままにしておくもんか。
お爺さんの村にまたやって来ない様にするだけだよ!」
ミコはオークを殲滅するつもりのようだ。
村娘を助けても、助けられなくても。
「ふ~んっ、そういう事ね。
つまりミコは魔物を退治して魔法石を手にする・・・儲け話と読んだのねぇ?」
おおっ?!タストンさん・・・それは気が付きませんでした。
ピクリんこ
ミコの身体が震える。
「なっ、何を馬鹿な事を。
男の娘じゃあるまいし。あの子ならそう考えるかも知れないけど。
僕は純粋に村の娘さん達を救いたいだけだよ!」
そーなのか?!
タストンと村長が疑いの眼差しでミコを観てるんですが。
「まぁ、タダ働きには飽き飽きしていたって事だけは確かだから・・・」
人の善いミコがクエストを熟すと、大概の話がタダ働きになってしまう・・・
「うむむ・・・それを言われると。
ミコにはきっと貧乏神が宿っているのね?」
店の主人でもあり、ギルドメンバーでもあるタストンも認めてしまう。
へっくっち!
ミコの身体に宿った女神がくしゃみをした・・・
「それじゃあ、お爺さんに現場まで同行して貰いましょうか。
僕に村娘の救出を依頼するのならば・・・ね?」
ミコの顔をしげしげと観た爺さんが、正体を訊ねる。
「分かったがのぅ、お嬢ちゃんは一体どんな魔法が使えるのじゃ?
そんな可愛らしい顔で、何が出来るというんじゃ?」
力がどれ程強いのかと聞きたいらしいので、ミコが苦笑いを浮かべて応えた。
「あーっと、それは藪から棒にってやつよ。
この子はねぇ・・・女神を宿した魔法の御子。
ここら辺りじゃ右に出る者なんか誰一人として居ない・・・
翔龍騎ミコっていうのよねぇ・・・聞いた事ないかしら?」
タストンがミコの代わりに言った瞬間、爺さんの顎が塞がらなくなり、
「まっ、まさかっ?!
アンタみたいな女の子が?あの・・・
あの魔王殺しのドラゴンライダーって御子なのかぁ?!」
驚愕の叫びをあげたのだった。
まぁ、そんな経緯で。
俺達はクエスト以外の依頼を受けたんだけど。
ホントーは単なる金欠状態の解消が目的だったんだんだけどね。
オークが群れているんなら倒しさえすれば宝石がゲット出来る!
ミコの狙いはそっちメインだったようだ。
此処だけの話、ミコって奴は獲らぬ狸の皮算用って奴が得意なんだ・・・w
言っとくけどな、このエクセリアじゃ~ぁ正義ってモンが通用しないんだぜ。
賢く立ち回らないと、喰っちゃいけない・・・厳しい現実世界なんだぜ?
あっちの社会でも働かないと喰えないっていう現実があるんだからさ。
異世界なんだから稼がなくてもよさそうなのにさ・・・
俺とミコは、そんな訳で今日もハンターとクエストを兼ねて働くのさ!
・・・って。
話してるウチに・・・ミコを観失っちまった・・・・ぜ?!
・・・ヤバイ
ああ、なんとことでしょう?!
オークが・・・・
オークが商売してる?!
これはもしかして・・・儲け話が転がってきたのか?!
次回 舞え!蝶のように 参話
そっかぁ!魔物でも金を払うんだぁ~?