白い巨塔はタピオカの味 参話
マノア婦長は何者なのか?!
何をされたっていうんだ?!
沈黙が病室を支配した。
「ミコ・・・本当なんだろうな?」
重い沈黙を破ったのは、狐モドキ。
「マノア婦長に、そんな目に遭わされたんだな?」
刮目してリュートが質す。
「・・・リュート?なんか思いっきり勘違いしてない?」
リュートが紅い顔で聴いて来るので、ミコが訝しむ。
「ボクが言ったのは、マノア婦長に<懲教>されたって、言ったんだよ?」
ミコが思い出しながら紅い顔で応える。
「ああ、判ってるさ。あの婦長に<調教>されたんだろ?
あの糞アマ!俺のミコに・・・なんて羨まし・・・げふん」
狐モドキがミコのレベルアップした身体を想像しながら、とんでもない勘違いをしている。
「しかしミコ。マノアにどんな調教を受けたんだよ?こそっと言ってミ?」
興味本位というか、何を想像したのか・・・このエロ狐モドキは?
「ああ、それね。思い出したくもないんだけど・・・」
ミコが赤く頬を染めて俯く。
その様子を診ているリュートは、元男の子だった尊がマノアから受けている図を思い描く。
「マノア婦長ってさぁ・・・謎多き人なんだよなぁ。
一見優しそうで、言葉使いも丁寧だし仕事もバリバリこなすし。
文句の付け所のない人に見えるんだけど、怒らせると怖いんだよねぇ・・・」
ミコが遠い目で話し始める。
「確かに・・・あの手術刀裁きは見事だった。
俺の目にも留まらない早さだったからな。・・・で?」
リュートがさっき見せられた技に舌を巻いた話を言ってから、先を促した。
「あのメス裁きで大概の患者は黙らされるよな。
それよりもっと凄いのはあの目だよ。あの目に見据えられちゃったら・・・
ボクも身体が動けなくされるんだ、怯え竦んだ訳じゃないのにさ」
「ふむ・・・瞳ねぇ」
ミコが天井を見上げて話すのを、じれったく思うのは狐モドキだけ・・・じゃない?
「で?どんな訳があったかは良いとして。<調教>って?」
まだ。狐モドキは拘っていた・・・・・
「あ?うん、<懲教>するって怒られて・・・」
「うん、うん。怒られて?」
狐モドキの瞳がキラリと・・・・
「看護実習をしたのかって・・・バレちゃって。
潜入したのをバレそうになって、つい・・・なんでもしますからって言っちゃったんだよ」
「にゅふ・・・なんでもします・・・ってか?」
妖しく光る狐モドキの瞳!
「そーしたらぁ、いきなりだよイキナリ!
洗濯物を任されちゃったんだ!これなら誰だって出来るだろう・・・って。
<女性の下着>を・・・山のようにだよ!下着なんだよ?!」
「ふむ・・・変わった趣味だなマノアって・・・って?!」
やっと・・・自分の勘違いに気付き始めたか?
「すると?ミコはどんな<調教>を?それがミコが恥ずかしがる理由か?」
「あったりまえだのくらっかーず!他に何があるのさ?」
狐モドキは想った。
<なんだよ・・・残念過ぎる・・・>
「パンツも!その・・・ブラ・・・も。山のようにだよ!」
ミコが手を拡げてこんなにぃーっと、大げさに言う。
「あのな、ミコさん。
それのどこが<調教>なのかを教えてたモレ?」
「だからっ、マノア婦長が言ったんだよ。
<懲罰で教える>ってさ。懲教してやるって・・・」
短縮すれば良いってもんじゃないぞ?
開いた口が塞がらない狐モドキ。
「言葉とは難しいものだ・・・Orz」
がっくりうな垂れたリュートを観て、ミコの頭に?(クエスチョン)マークが燈った。
・・・何を年齢制限なしの小説で期待してたんだ?←そう思ってください(by著者)
・・・・・
「んで?バレたって潜入調査がバレたのかよミコ?」
イキナリだが狐モドキが本題に戻らせる。
「ううん、それじゃないんだ。
ボクが偽看護師だって事が・・・さ。
マノア婦長に一発でバレちゃったんだよなぁ」
「むむむっ?!それは拙いんじゃないのか?」
潜入調査に問題が発生した事をミコが教える。
「ミコが看護師でないのが判って、なぜこのまま看護師を務められているんだ?」
「人手不足なんだって」
・・・・このエクセリアもかい?
あっさりと答えるミコに、リュートは開いた口が塞がらなくなる。
「もともと見習いってことで、ここに来たんだから。
看護師本来の業務は出来なくても、下働きならいくらでもやる事があるんだってさ」
「・・・・・」
返す言葉が無くなった。
「つまり・・・なんだ。
ミコは看護師として働いてはいないと?」
「まぁ・・・パート勤務みたいなもの?」
・・・・・
指を顎に当てて答える幼馴染で、元男の子に。
「そんなことで潜入調査が務まるのかよ?!」
狐モドキが自分達本来の任務を言ったら。
「あ・・・そうだったっけ?!」
抜けた声で翔龍騎で、リュートの主人が答える。
「ここに二人して潜入したのは、闇の者が潜んでいるって情報が入ったからだろ?!
相手の尻尾を掴むのが目的じゃなかったのかよ?!」
狐モドキは自分のモフモフ尻尾を揺らして言い募ったのだが。
「そうだけど。この病院自体にはそんな雰囲気は感じられないんだよなぁ?!
まぁ、もうしばらく様子を視ないと、尻尾を掴む処の話じゃないんだよなぁ」
「ミコ・・・このまま看護師見習いを続ける気かよ?」
ため息を吐いて幼馴染で翔龍騎な、看護師姿のミコに問う。
「うん、下着の洗濯だけなら参っちゃうけど。
なんだかさぁ、やりがいって言うのかな。忙しいけど楽しく感じちゃう時もあるだよなぁ」
・・・ほぅ?まじか??
「楽しい?何がどう楽しいんだよ?」
・・・ほら、つっこまれた!
「何がって。
そうだなぁ、患者さんに運び物を終えた後とかに話しかけられたり。
不器用なボクに感謝の声を掛けてくれたり・・・笑ってくれたり・・・」
ミコがほっこりした顔で話すのを、狐モドキは目を丸くして驚いた。
「それに、ボクがドジっても、怒るのはマノア婦長だけで。
みんな気の良い人ばかりなんだぜ?ドジっても笑って手伝ってくれるし・・・」
ー それは見習いだからだろ?本当の看護師なら文句を言われている筈だろ?
喉迄出て来た嫌味を飲み込んだリュートだったが。
「まぁ、ミコが良いんなら良いけどな。
俺達はいつまでも、だらだら病院ごっこをやってる暇はないんだぜ?」
チクリと釘を刺す事を忘れなかった。
「判ってるよ。リュートもいつまでも誤魔化せないだろうしさ」
・・・そうそう。狐モドキな人外生物を、入院させておく病院もそうざらにはない・・・
「待てよ?!ここは病院だろ?獣医のいる病院じゃない筈だろ?!」
「そうだよ・・・それが何か?」
今頃になって気が付いたのか?!そっちの方がびっくりだ!
あっさり答えるミコに。
「俺の正体が判ってるんじゃねぇのか?人の言葉を喋れる狐なんて居ると思ってるのかよ?!」
今迄普通に対応されていたから忘れていた。
「応急隊員は金で釣ったんだ。この病院の受付にはタストンさんが根回ししてくれた。
だけど、看護師や患者連中には教えていないんだぞ?!
なのになぜ誰も驚かないんだ?!」
・・・そうだった(著者)w
「あん?そんなの解り切った事じゃないか?!
エクセリアの病院に来るのは・・・」
「来るのは?」
狐モドキはミコがなにを言うのかと生唾を呑む。
「来るのは人ばっかりじゃないって事さ!魔物だって身体を診て貰いに来てるよ?」
「・・・・マジですか?」
顎が堕ちてしまった狐モドキ。
不思議な世界の病院は、不思議な事が頻発する・・・まさにエクセリアの縮図。
「あはは・・・本当に入院しなきゃいけないかもな」
溜息とも呆れ果てたとも言えない声が出ちまったよ。
「だからぁ、リュートも魔物扱いなんだよ。
小型でも強い魔物はいくらでもいるそうだから・・・あ。
これは入院しているウェアウルフおばぁさんが、教えてくれたんだ」
既にミコは魔物のお祖母さんとお近づきになっているようだ。
「ミコ・・・お願いがある。医者を呼んで来てくれ」
ベットに倒れ込む狐モドキな幼馴染に、ミコが慌てて手を差し伸べて。
「判った!救急車を呼ぶよ!」
・・・だからぁ、ここは病院じゃないのか?!
そんな<損な>二人の会話をドアの向こうで聞いている者が居た。
「おやおや。同業者だったとは・・・面白い。
いや、実に面白くなって来たわね・・・うふふ・・・」
整えられた爪を唇に当て、細く笑む・・・
「あなた達には、私の邪魔はさせなくてよ?」
たわわな胸にタピオカジュースを置いて、看護師が哂った。
タピオカ・・・ジュース・・・だと?!
((誰でしょうか・・・まぁ、お判りでしょうね。 答えは次回だ!))
でも・・・ミコ君よ?
君は看護師なんだよな・・・今は?
遂に悪役が現れるのか・・・って?
アンタはもしかして?!
次回 白い巨塔はタピオカの味 四話
あらまぁ・・・な、院長におやまぁな婦長のいるこの病院。大丈夫なのか?




