白い巨塔はタピオカの味 弐話
現れたのは看護師長マノア。
そう!パインパインの謎多き看護師です!
ミコに持たれた体温計がリュートに迫る!
あと僅かでめり込むかと思われた・・・体内へと。
だが、その時の事だ。
「待ちなさい新人ちゃん!」
背後からの声にミコの身体が跳ね上がる。
「ひっ?!」
現れた看護師姿に停められたミコがビクリと振り返る。
その眼はリュートを観ていた時とは正反対に怯えの色をアリアリと見せていた。
「た・・・たしゅかったぁ・・・」
掴まれていた尻尾を振り解いて布団に逃げ込んだよ俺は。
そんで、現れた奴とミコの会話にケモ耳を凝らしたんだ。
「新人ちゃんっ、あなたは看護師として勤める気があるのかしらねぇ」
ニタリと笑う看護婦は、金髪を掻き揚げてミコを嘗めるように見つめる。
「ひいっ?!マノア婦長、いやこれには訳が・・・」
・・・どんな訳があるんだよ・・・
布団の中で毒づいて成り行きを見守る。
「あら、どんな訳があろうが関係なくてよ。
看護師なら患者様に不快な思いを抱くような真似は絶対にしては駄目だと教えたじゃない?」
笑いながらもミコに近付くマノア婦長。
「言い訳をするのなら、またお仕置きしてあげようかしらね?」
「ひっ?!解りました判りましたから!謝罪しますから許してくださいぃーっ!」
マノアから逃れようと引き下がるミコ。
・・・むぅ?あのミコがここまで怯えるとは?・・・
布団を持ち上げ、狐モドキが覗く先で、看護師服を着たミコが怯え切っている。
・・・なぜ?ミコはマノアと呼ばれる婦長に怯えているのか?・・・
不思議な光景を観ているような気がして、思わず見入っていると。
「患者様、大変申し訳ございませんでした。
なにぶん新人研修中の娘でして、ご容赦頂けませんか?」
やや甲高い声が婦長の口から流れ出る。
「あ、いやなに。そうだな・・・」
謝罪されたリュートはここで考えた。
ー 俺がこの病院に忍び込んだ本題を、ここらで分らせておかなきゃな・・・
何故身体を偽ってでも運び込ませたのか。
その理由とは?
「駄目だね、俺様はVIP待遇で運び込まれたんだぞ?
その俺様に対してこんな処遇をするなんて、院長を呼んで来いよ!」
クレーマーみたいな声を上げて反応を窺う。
「ですから、謝罪申し上げましたのよ?」
マノアの頬が引き攣る。
「誠意を見せておりますのに、御許し頂けないのですか?」
今迄微笑みを浮かべていた目元が見る間に吊り上がって行く。
「駄目だと言ったら駄目。先ずは院長からの謝罪を受けてからだぜ?」
なるべく高慢ちきな態度を見せてマノアの出方を窺うリュートに。
「そう・・・これ程までに言っても?
だったら黙って頂く事になりますが・・・宜しくて?」
細い目でリュートを見下ろしたマノアの指に、いつの間の持ったのか4本の手術刀が。
「え?!」
早業過ぎて翔龍にさえも、いつ握られたのかが分からなかった。
「おおぅ?!出た。マノア婦長のなぞメス!」
ミコがマノアの技を観た事があるのか、感嘆の声を出した。
「お黙りなさい新人ちゃん、あなたもお仕置きが必要なようね?」
「ひぃっ?!損なぁ?」
怯えたミコが後退り、逃げ出そうとしたのを。
ヒュン
どうやって投げたのか。
逃げ出そうとしたミコの横にメスが突き立った。
「無駄よ。新人ちゃん、おいたが過ぎるわよ?」
「あああ、御許しをぉ~っ」
怯えかえるミコ。
傍で観ていれば単なるお馬鹿な看護師にしか観えないが。
ー なにがミコに起きたのか?いや、マノアに何をされたのか?
俺もマノアに怯えるミコの変調に、自分が来るまでの間に何があったのかを知りたくなる。
ー まぁ、二人だけになったら訊いてみるか?
先行して潜入していたミコの身に、一体何があったのかを訝しむ。
「わぁーった!分かったよ。取り下げるからメスを引っ込めてくれよ?!」
取り敢えず、このマノアという婦長には逆らわない方が身のためだと考えて。
「そこの新米看護師にヨクヨク言って聞かしといてくれ」
ミコを出汁に、仲裁案を受け入れてみせるのだった。
「御了解恐れ入りますわ。それでは私が検温致しますので・・・」
リュートはマノアがどうやってメスを引っ込めるのかを凝視していたが。
マノアが謝意を告げて頭を下げたと時には・・・・
ー どうやったんだ?もうメスが手から消えたぞ?
消えたメスの代わりに体温計をカーゴから抜き取りリュートに近寄ると。
「はい、じっとしていてくださいね」
リュートの身体をワシ掴みにしたマノアが。
ズボッ
強制的に口を開くと体温計を一気に根元まで突き入れた。
「ぎょほぇっ?!」
体温計は魔法獣であるリュートの胃にまで届いていた・・・・
・・・そんな?!死ぬだろ?・・・
なんて怖ろしい・・・病院なんだ。
大人しくベットに横になっている狐モドキ。
というか・・・
「なぁ、リュート?大丈夫なのかよ?」
付き添う幼馴染が訊いて来る。
「まるで病人みたいだぜ?」
心底、心配そうに言って来る看護師姿のミコ。
「どこか身体を悪くしたんじゃないのか?」
悪意はないと思う。
・・・だが、しかし!俺はこう言ってやったんだ。
「お前等なぁ!体温を測るだけなのに人を殺す気なのか?!」
「死んでないじゃん?」
はぁはぁ息を吐きつつ、リュートが睨む。
ミコと二人っきりの病室で、これからの作戦を練る予定だったが。
「早くケリを付けなきゃ、俺は死んじまう。
いや、死にはしないが気が狂わされてしまう!」
ゼハゼハ言い募る俺に対して、ミコは平然として言ったものだ。
「死ななきゃ全然平気!」
「・・・お前、性格が変わったなあ・・・悪魔みたいだ」
なぜ、ミコはお気楽に幼馴染を追い込んでいるのか。
「そりゃーそうも言いたくなるよ。
リュートがもう少し早く来てくれてたらボクもあんな目に晒されずに済んだのに」
恨めしそうにリュートを観るミコの眼が、何かを訴えている。
「むぅ?その事だが。
何があったんだよこの病院で?マノアに何かされたのか?」
婦長の名を告げられたミコが、俯いてしまう。
「そう・・・あれはリュートが入院するホンの数時間前だった・・・」
遠い目を浮かべるミコが話し始める。
「ボクが潜入した後、あのマノアに見つかっちゃったんだ・・・」
そもそも、ミコがどうしてこの病院に潜入したかを狐モドキが思い出す。
ー 此処に居る奴の中に、魔王の配下が潜んでいるという情報がギルドに齎された。
俺達は早速情報を求め、潜入する事にしたんだ。
正攻法で行っても敵の尻尾を掴めるか分からないから、いつもと同じように。
二手に分かれて潜入する事にしたんだが・・・
リュートが回顧している横で、ミコがブツブツと呟いている。
「で?ミコよ。どうしてマノアに怯えるんだ?奴は一体何者なんだよ?」
訊き直されたミコの身体がビクンと反り返る。
「それは・・・言って良いのか悪いのか。
大人な話になるからさ・・・耳を貸して」
ボソボソとミコが教えて来たのは。
・・・・ポ
「なっ?!それは本当なのか?」
耳打ちされて・・・頬を染めて訊き直した。
「あ・・・うん、そう・・・」
・・・唖然と口を開いたままのリュート。
一体マノアに何をされたというのか?
なぜリュートは沈黙し頬を染めるのか?
その訳とは?!
(次回だ!)
怪しい雰囲気と怪しい女。
この病院には何かがある・・・
お仕事って言っても齧っただけだろ?
どんな仕事でも楽はない!
・・・って、なんだか凄い婦長だな?
次回 白い巨塔はタピオカの味 参話
何て事でしょう!白い巨塔は正に疑惑だらけ?!院長も医師も、妖しい奴ばっかりです!




