白い巨塔はタピオカの味 壱話
人里離れた山の頂に建つ病院に、朝も早くから患者が運び込まれて来た。
緊急搬送されて来た患者は、声も荒く苦しみを訴える。
「うぎぃーっ、痛ぇ~っ!」
どこがどう痛いのか?
搬送する緊急隊員に担架で運び込まれる声は、確かに痛みを訴えていたが。
「尻尾の付け根が千切れそうだ!何とかしてくれ!」
・・・尻尾?シッポだと?!
担ぎ込まれてくる担架に載せられて、蒼白い獣が人の言葉を喚く。
担架の上に載せられていたのは、勿論人ならざる者。
「大枚をはたいたんだからな!文句を言うなよな」
狐モドキが緊急隊員の白い目に訴える。
「なにも文句なんて言ってはいませんよ」
担ぐ隊員がポツリと返してきたのを。
「いいや、心の中ではそう思ってただろ。俺にはお見通しだぜ!」
人の言葉で嫌味を言う狐モドキに、隊員は・・・
<当たり前だろーが・・・誰が狐モドキなんかを運びたいもんか>
顔に出さないように毒づいた。
・・・隊員君、君は間違ってはいないぞ、多分。
ぎゃあぎゃあ喚く獣みたいな小動物を、受け持ちの医者に携えていく隊員に。
「ご苦労様です、この方が連絡されて来た<ビップな方>ですね?」
病院側の受付が訊ねて来た。
「はぁ?!ビップかは存じませんが。とにかくこちらへ運べとだけ託られたのです」
担架を降ろした隊員が、搬送先を指定されたとだけ答える。
「伝書ワイバーンで、内容は伝わっておりますので。
取り敢えずこちらにサインを残して貰えますか?」
受付の事務員が署名を求め、隊員が緊急搬送した事務届に書き込んだ。
「では、私達はこれにて。後は宜しく願います」
担架を担いだ二人の隊員がそそくさと立ち去って行く。
「それではこちらに患者届を・・・」
受付が狐モドキに名を求める。
「何でも善いから早いとこ診てくれないか?」
差し出された書類に目を通さず、狐モドキがサインを終えたら。
「ふふふっ、リュート様と仰られるのね。
ようこそ我が<シンマ病院>へ、歓迎致しますわ!」
受付の眼が細く笑み、狐モドキがサインした書類をふんだくる様に捥ぎ取った。
書類に書き込まれたリュートの名を指でなぞり確認する。
「リュート様は個室をご所望だとか。
当病院には個室は2種類ございますが、如何致しましょう?」
「2種類?どんな?」
口元を歪ませた受付が、狐モドキをちらりと見て。
「リュート様は殿方ですわよね。でしたらVIPルームなどは如何でしょう。
特別な待遇と、特別なサービスがございましてよ?」
「ほほぅ?特別とな?うん、いいね!」
受付がリュートの返事を待つまでもなく、書類に何かを書きこんだ。
「了承いたしました。では、早速ご案内いたします」
リュートの返事も聞かず、受付が呼び鈴を鳴らすと。
「いらっしゃぁ~いっ、それじゃ特別ルームにご案ー内ぃっ!」
看護師にリュートを病室まで運ぶように命じるのだった。
「イの1特別室が空いていたわね。そちらにご案内して」
一枚の書面を出して、受付が看護師に命じると。
「了解です!」
寝台車を押してきた看護師が、ひょいとリュートを載せて一目散に駆け出した。
「おいおいっ?!尻尾を診るんじゃなかったのかよ?」
荷車状態の寝台車の上で、リュートが看護師に訊ねると。
「はいはい、特別室扱いですんで。客室・・・いいえ。
病室まで担当医が参りますから、ご安心を」
「はぁ?!病室で初診するのかよ?」
それではその病室というのはどんな装備が整っているんだ?
リュートは看護師に訊き返そうと思ったのだが、辞めておくことにした。
なぜなら。
ー 思った通り。依頼通りに胡散臭い病院だぜ。
それにしてもどんな待遇なんだよ、特別室って所は・・・さ?
リュートは尻尾を振りながら考える。
痛いと言っていたのに、いつも通りにふさふささせて。
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「確かに・・・これは。
本当に病院なのか?ここが?!」
天井から吊られたシャンデリア。
古代オーク樫で造られたベッド。
木目調の事務机、豪華な椅子・・・クローゼット。
そして病室だというのに、シャワールームや予備の寝室が場違いな雰囲気を増長させている。
「確かにここが病院なのかを疑うな」
リュートが連れ込まれた特別室で、寝心地の良いベットの上で丸こまっていると。
コンコン
誰かがノックした。
てっきり担当医が来たのかと思って・・・
狐モドキは病人の真似を執る。
「痛たたたたぁ、早く診てくれよ」
ベットに寝そべり布団の中に潜り込んだ。
カチャカチャ・・・カラカラカラ
何かを運び込む音がする。
コトン カチャ
誰かが近づき、何かを取り出している。
「早く検査するならしてくれよ」
布団の中から、やって来たであろう医者に催促する。
「痛いんだからさぁ、手っ取り早く診てくれよ?」
返事は戻らず、やって来たものが歩み寄る感じだけがした・・・
「うん?!」
物凄く嫌な予感が・・・背筋を奔り抜けた・・・
ーーー ぞわっ ---
身の毛がよだつ・・・狐モドキの身体に。
「でわっ!」
掛け声と共に。
布団が引っぺがされた。
「わぁっ?!」
医者だとばかり思っていたのだが。
「そんじゃー、検温ってやつを執りましょうかねぇ?」
目の前に立つ栗毛の看護師。
リュートの前に仁王立ちする栗毛の女性看護師の手に、体温計が握られている。
「狐モドキの検温って・・・やっぱりお尻の穴で測るんだよねぇ?」
ニヤリと嗤う邪な顔。
緑鳶色の瞳には悪戯心を浮かばせ、見下ろす頬には悪意の塊が。
「ぎゃぁっ?!待てミコっ早まるなっ!
・・・って、どうしてミコが俺の担当なんだよ?!」
看護師服を纏ったミコが現れた!
手には手術用の手袋を填めた状態で。
カーゴに載せられてあるのは確かに手術用の医具ばかりだった・・・
・・・これは何とした事?!
リュート、絶体絶命なのか?
「ふっ?!ジタバタするなよリュート。覚悟完了?」
手にした体温計で、何をする気なのか?
そもそも、だ。なぜミコが看護師なんかをやっている?!
「ぎゃぁっ?!ミコっ、何をするんだぁ?!」
逃げ出そうとしたリュートの尻尾を掴んで、ミコが嗤う。
「決まってんじゃん、<検温>・・・・」
尻尾を持ち上げたミコが体温計を尻尾の付け根に番えた!!
リュート、貞操の危機?!
・・・違うだろ?
ああ、ナース?!
看護師たる者、その身を患者に捧げよ・・・・
無理ぽ・・・
今度はナースですが、なにか?
白い巨塔・・・知ってる?
次回 白い巨塔はタピオカの味 弐話
ナースなミコを怯えさせる者?!そいつは・・・パィーン!




