蒼翼の修道女 弐話
今度はシスター?!
なぜミコがシスターになんて・・・
あ、そうか。
ミコは巫女・・・じゃ、ないわい!
祠に潜入するというよりは、正面切って入って行く。
紅いシスターの法衣を纏い、足元に狐モドキを従えて・・・
神の教えに背く者達の中へと。
祠に集う暗黒教団信者達を滅ぼさんと・・・
「あら?その紅い法衣を観れば解るわ。
あなた様はアクマン様にも近いお人なのですね?」
祠へと入る直前、黒いマントを着たおばさんに呼び止められちまった。
「おおぅっ?!本当だ。
皆の者っ、教祖様に近いお人が来られたぞぉっ!」
おばさんの声に振り返った信者達が一斉に振り返って来たんだ。
「アクマン様の巫女様が来られたのか?!」
振り向いた信者から、口々に声を掛けられる。
しかも、全く見当違いの呼びかけを・・・だぜ?
「えっ?!いや、あの・・・ですね?」
教団を殲滅にやって来た翔龍騎ミコが、思わず足を停めてしまった。
祠に集う信者を含めて、教団と呼ばれるモノを滅ぼす気だったのだけど。
「わぁっ、巫女様だ!こちらにおわすのは、巫女様だぞ!」
周り中から巫女の大合唱が唱えられる。
「えっ?!どうしてボクの名を知ってるの?」
名前を名乗った訳ではないのに、誰もかれもが自分を呼んでいる。
・・・勘違いだ。
直ぐに判りそうなものなのだが、当のミコは本気で戸惑った。
「巫女様!どうか我等に御教えを。
迷える我等にアクマン様の教えをお話しください」
祠の中に居る信者達が一斉に求めてきた。
「いや、あのね。ボクは皆さんの事を・・・」
教団ごと吹っ飛ばす気なんです・・・とは、言えなかった。
一瞬口を噤んだ事で、状況は更におかしな雰囲気になる。
「おおっ、我等に教えをくだされるのですね。何と有り難い!」
「ああ、我が主の御教えを・・・なんまんだぶ」
「さぁさぁ!先ずはそこの壇上へ!」
周りを囲んだマント姿の信者達に、ミコと狐モドキが追い立てられる。
「いや、あのね。ちょっとっ、話を聴いてよ?!」
トチ狂ったミコが、慌てて言い逃れようとしたんだけど。
「ええ、勿論ですとも!有り難い巫女様のお言葉ですからね」
「そうそう!早く私達にお話しください!」
祠の前にある壇上に連れ出されてしまった偽物巫女。
何がどうなってこんな事になってるのか・・・
「ちょっと、リュート。どうなってるんだよこれは?
最初の計画だと、信者達を先ずは蹴散らしてから。
教団を司る者・・・現れ出る魔王の手下を踏ん縛る筈じゃなかったの?」
「そうだが・・・話が替わったようだな(棒)」
(棒)って、なんだよ、(棒)って・・・
思わずツッコミたい(突っ込んだ)のだが、ミコの前には真摯な信者達の顔が見詰めている。
俺が耳打ちする。
「ミコ、此処は何でも善いから誤魔化せ。
この先導者も判っちゃいねえみたいだし・・・
どうやら魔王配下の者は留守みたいだぜ?」
先導者を含めて信者達を睨んでシスターになり切れとミコに教えてやった。
「リュートぉ?!そんな無茶なっ。
ボクにシスターなんて務まる筈がないじゃないか!」
ぼそぼそと、狐モドキと話すミコに、信者達の視線が突き刺さる。
「お早くっ、ご享受くださいませ巫女様?!」
先程の先導者までもがミコに平伏して来る。
「あああ、あのっ、そのっ!実は・・・」
ミコが本当はあなた達を吹っ飛ばしに来たんです・・・と、白状しようとした時。
「巫女様、あなた様は奇跡を起こせるのですよね?
教祖様が為されるように、巫女様なら奇跡を起こせるのですよね?」
一番前に並んでいるおばさんが両手を併せて求めて来たんだ。
「よそ様の娘子は、教祖様にお救い頂けたと聞き及んでいます。
ならば、私めにも。その奇跡とやらを分け与えて貰えませんか?」
「奇跡?なんですかそれって?」
おばさんが何を求めているのかも知らずに、ミコが訊いてしまった。
「娘子が頂いた美しさです。
どうか私にも若さと美貌をお与えください」
「・・・・無理」
被っていたマントを脱いだおばさんに、事も無げに言い返した。
足元のリュートも腕を組んで頷いているのは、この際眼を瞑ろう。
「そ、そんな・・・あなた様は巫女様なのでしょう?!」
「そうだけど、無理な物は無理。
若さと美貌は、自分で磨かなきゃ求めれないから」
巫女違いなミコが教えると。
「おおおっ?!流石だ、御教えがくだされたぞ!」
先導者が、いの一番に褒め称える。
「いや、あたりまえでしょ?」
ミコが呆れたように返したのだったが。
誰が誰に当たり前と言ったのかを、はっきり告げなかったから。
「おおおっ?!巫女様が当たり前だと仰られたぞ!」
「おおっ?!やはり、巫女様の格言はありがたいという事だ!」
ガヤガヤ、ワイのワイの。
信者達が増々ミコに平伏する。
「あ、あのぉ・・・皆さん?なにかとんでもない勘違いをしてません?」
皆さんを吹っ飛ばし、教団を殲滅するのが自分への依頼です・・・と。
続けようとしたのだが。
間の悪い事に、次なる声が割って入る。
「巫女様、それでは皆の者に奇跡をお見せください!」
「そうですっ!巫女様のお力をお示しください!」
きらきら輝く瞳達が、勘が狂ったミコに向けられ続ける。
奇跡とは、どう言った類のモノなのだろう?
「奇跡って・・・魔法みたいなモノ?
どんな事をしたら奇跡だというの?」
熱い視線に冷や汗を掻くミコが訊いてしまう。
「我らの前に示して頂けるのであれば。
アクマン様と同じように・・・空に光を突き上げてくださいませ」
暗黒教団の教祖ともあろう輩が、光を天に突き出すとは。
「魔王配下の者にしては大人しいというか、他に方法が無かったんだろうか?」
ツッコミ一杯のミコがどうしようか考えて。
「どうしようリュート、魔法で光の矢でも打ち上げようか?
それともこの際、ここにいる皆を吹き飛ばそうか?」
危ない奴だな・・・ミコって。
「辞めとけよ。どうやら信者達は闇に支配されている訳でもなさそうだ。
吹き飛ばすのはいつでも出来るから・・・そうだな。
取り敢えず驚かせれば良いんじゃねぇの?」
幼馴染でもやはりリュートの方がお兄さんである・・・
「なんなら、2・3人。吹っ飛ばしてやれば尚、効果があるかもな?」
・・・前言撤回・・・
「そう?じゃ、そういうことで」
・・・おいおいっ?!マジカ?
開き直ったのか、ミコが右手を突き出してくる。
「おおおっ?!遂にっ巫女様のお力が示される!」
信者が感極まったように両手を併せて見上げて来る。
「もう・・・遣り難いなぁ・・・」
キラキラの眼が痛い。
何を期待されているのか・・・信者の眼が痛い。
「嫌な汗が出ちゃうよ・・・ホント」
魔法を繰り出す翔龍騎とはいえ、こうも注目を浴びては。
「ミコ?お前・・・煤け・・・いいや。透けてるぜ?」
祠の入り口から入って来る陽の光を浴びて、紅い法衣が体のラインを浮かばせる。
「ほぇ?!透けて・・・ぎゃぁっ?!」
魔法を唱えていたミコが下を向いたら。
「紅い色って太陽光に負けるんだ・・・って、マジ噺してる場合じゃない!
もし白衣だったら、もろに見えてたんじゃぁ?!」
この壇上って場所がどう言った場所であるのかが分かった。
「そうか、この壇上に居れば、ある角度の日の光で後光が差すと言う訳だな。
神に加護された者のように見えるんだ・・・そうやって信者を増やしてるんだな?!」
リュートが言うのは、よくある布教方式。
教祖やそれに準ずる者達が、自分が信者達より尊いと思わせる布教方法。
空を浮いている様に見せたり、念動力とかいって、手品を奇跡と思わせたり。
やり方はいろいろあるが、そのどれもが奇跡なんかじゃないという事。
「ミコ、奇跡って光を天に飛ばすって言ってたよな。
だとすれば、反射を利用したんじゃねえかな。
太陽光を凹レンズで集めて凸鏡で反射すれば、光が伸びあがって見えるのも無理じゃないぜ?」
「なるほど・・・でもさ。ボクはこうするけどね?!」
魔法を解放した。
ミコの右手に填めた魔法リングが反応し・・・
「ファイア!」
烈火の矢が祠から撃ち出された。
「おおおおおおおおおおっ?!」
歓声がどよめく。
「ありがたや、ありがたや!なまんだぶぅ」
平伏した信者が口々に褒め称える。
「巫女様は生き神様じゃ!」
「巫女様程の方は、教祖様となんら変わらん」
「ありがたや、この村にも女神が降臨されたに等しい!」
褒め称えられ、名前を呼ばれ(?)。
ミコはまんざらでもなくなってくる。
「そう?こんなの簡単だけどなぁ」
言わなくてもいいのに、ミコが仰け反って笑う。
「おお、我が巫女様がこの村に居られる。
我等は祝福を与えられたのだ!皆の者よ、巫女様に永劫の誓いを。
巫女様に、全てを差し出し、仕えるのだ!」
平伏した信者達が、ミコに心服した。
魔法を放った事で、確信に近い程の信心を抱いて。
「いやぁ~っ、教祖になったみたい・・・」
汗ばんだシスター法衣を翻して、ミコが笑う。
「あのな・・・なんだか話がとんでもない方に向かってないか?」
一匹。
魔法生物リュート君だけが真面目に悩んでいるようだった・・・
「「一人じゃないわよ!本物の女神は此処に居るんだからね!」」
・・・おや。
そう言えば。
忘れてましたね、宿っている女神様の存在なんて・・・
「「・・・忘れられてた・・・Orz」」
残念過ぎる女神が、ミコの中で塞ぎ込んだ。
すっとぼけなミコとリュート。
なにやらまたまた話が遺憾方向に・・・
こんなのシスターじゃないわな・・・
次回 蒼翼の修道女 参話
あああっ?!なんの勝負なんだよ?!ミコ・・・勘違いしてないか?




