異世界での仕事
「おはようございます」
ドアを開けると、鈴の音がした。
「おはよう。時間通りだね。偉い偉い!」
ミーシャさんは掃き掃除をしていた。
今日もふわふわそうな耳。
触りたい衝動を我慢する。
「それじゃあ早速仕事内容を教えようか」
「はい」
「まず、掃除。
これは店としての基本だね。
朝来てからやってもらうよ。
次に服の修復。
客が売ってくれる服はだいたいいらなくなっ
た服だから所々傷んでいるんだ。
それの染み抜きや、穴を縫ったりとかだね。
最後に接客なんだけど、
カエデは苦手なんだよね」
「はい」
「まあ、苦手でも良いけどここで雇うにはやってもらわなきゃいけないんだよね」
接客か・・・。
自分から話しかけたり、笑顔で接客とか無理なんだよな・・・。
ライラみたいに相手からぐいぐい来てくれたらやりやすいんだけど。
「でも、昨日言ったようにここの客はあまり気に
しないから。
たまに変なのとかうるさいのが来るくらい
で」
「何ですかその変なのとかうるさいのって」
「う~ん・・・。
まあ、来たら分かるよ」
余計に怖くなってきた・・・。
「さ、とりあえず掃除をしよう。
はい。箒と、ハタキ」
「あ、はい」
「箒でそこら辺掃いて、ハタキで服の上とか棚の
埃落として。」
「はい」
30分ほど掃除をする。
その後に店内のレイアウトや、服の確認。
「それじゃ、開店するよ」
「はい」
ミーシャさんが扉の前の看板をひっくり返す。
「客の来ない間は、服の修復」
「はい」
「カエデはこれと、これと、・・・あとこれ」
「はい」
そして、2人で服を直す。
チクチク、チクチク・・・。
「そういえばカエデって、そのローブはずせない
の?」
いきなり話しかけられてビクッとする。
「は、はい。」
黒髪を見せるのは信用する人だけにしなさいと皆に言われている。
場所や人によっては差別や、災いの対象だからと。
「どうしても?」
「はい」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「えぇと・・・何ですか?」
ミーシャさんがじっと見つめてくる。
「ふっふっふっ・・・」
ミーシャさんは私の問いを無視し、なんだか怪しい笑みをして、
「素顔・・・見せろーー!」
と言い、襲ってきた。
「え、ってわぁぁー!」
ローブを取ろうとミーシャさんの手がフードをつかむ。
私は必死に押さえる。
「ちょ、やめてください!」
「さあ、諦めて見せなさい。
さっさっと楽になっちゃいなさい!」
おそらく他の人から見たら女2人が乱闘をしているように見えるだろう。
「楽にって・・・っ!」
「さあ、その隠しているのを見せるのよ!」
どちらも引かず、体制を維持する。
ふと、鈴の音がした。
私はそちらに意識が一瞬行ってしまった。
「その一瞬の隙が命取りよ!」
ミーシャさんがその隙をつき、フードを取る。
私の黒い髪が露になった。
それを見てミーシャさんが驚く。
私は急いでフードをかぶり直し、ドアの方を見る。
そこには、シューキがいた。
私はほっとして、ミーシャさんを見ると、
ミーシャさんがぽかんとした顔をしていた。
「ミーシャさん、その、この事は誰にも言わない
でください。」
「・・・」
「ミーシャさん?」
「・・・く、黒髪?」
「・・・はい」
どうしよう。
クビになるかな。
まさかの初日から。
「・・・売れる!」
「・・・え?」
「ダメだよ。」
シューキが後ろから言う。
「あ、シューキ。
その・・・」
「大丈夫。だいたい分かってるから」
「え~。
ダメ?」
「ダメ」
「「「・・・」」」
なんだか微妙な空気になる。
「ったく、こうなりそうだから来たのにまさか
もうなってるとは思わなかったよ」
「あはは、ごめんごめん。」
「?」
私だけが状況についていけない。
ミーシャさんが言ってた売れるってどういう意味だろう。
店として?
それとも・・・
「カエデ、大丈夫?」
「あ、うん」
「ごめんね、カエデ。
無理矢理フード取ろうとして」
シューキが私を心配し、ミーシャさんが謝る。
「あ、私は別に・・・」
「カエデ、さっきのはこの人が悪いから
もっとはっきり言って良いよ」
「ごもっとも・・・」
「い、いや、本当に大丈夫です。
それよりミーシャさん、さっきの
『売れる』って・・・」
「ん?ああ、私情報屋もやってるから」
情報屋。
それって情報を売るっていうことだよね。
「あ、あの、この事は本当に誰にも
言わずに・・・」
「大丈夫大丈夫。
売らないよ」
「良かった・・・」
個人情報がもれるのってなんか嫌だし。
「本当に売らない?」
「もう、疑り深いなー。シューキは。
売らないってば」
「なら良いけど・・・」
「貴重な人材を失うのも損だしね。
あ、シューキ、この子の髪色変えられな
い?」
「ああ、できるよ。
ま、そうだねローブの店員って怪しいし。」
あ、やっぱり怪しいか。
「じゃあ、カエデ、こっち来て」
シューキは店の奥の方に行く。
魔法使う所を見られないためかな。
「シューキ、髪色変えるってどうやるの?」
「変えるっていうか、そう見せるっていう感じ」
「見せる?」
「うん。 幻術で」
「へ~」
シューキは幻術が使えるのか。
幻術。
つまり幻。
「俺から50m以内だからカエデがここで働く時は
俺も近くにいるよ。」
「はーい」
「じゃ、ここ座って」
「うん」
側にあった椅子に座ると、シューキの手が髪に触れる。
これでも女子なので少しドキっとする。
「かけるよ」
「うん」
シューキの手から何かが流れてくる。
多分魔力。
魔法を使い始めたばかりの私には、はっきりとは分からない。
それにシューキの手の方が気になる。
髪に触られるなんて家族以外なかったから。
「・・・終わったよ」
「あ、うん。ありがと」
髪を見ると緑になっていた。
幻術ってすごい。
「あ、ちょっとじっとしてて」
「?
うん」
なんでだろう。
と、思ってると、シューキが髪をいじり始めた。
「な、何してんの?」
「三つ編み。
サイドの髪邪魔そうだなって思って」
しばらくじっとする。
その間私は緊張していた。
髪をいじられるの何年ぶりだろう。
お母さんは毎日結んでくれたけど、
私を引き取ってくれた人、お祖母ちゃんは
私のことに関心がなかったから、10年ぶりくらいだろうか。
なんだかくすぐったい。
「はい、終わったよ」
「あ、ありがとう。
シューキ器用なんだね。」
シューキは両サイドの髪を三つ編みにして、
後ろでまとめてくれた。
「まあ、ハーフアップすらろくにできないライ
ラよりはね」
「そ、そう」
ライラは結構不器用みたいだ。




