私は信号機
初めまして空創鉄道です。
ある意味人生初の短編小説を書きました。
今でもわかりません。
私は何故信号機の擬人化を書こうと思ったのでしょうか?(人に聞いても分からない)
擬人化というより、人間のように心を持ったらって感じですね…なんて表せば良いのやら笑笑
拙い文章ですが、最後まで読んでいただけると幸いです。
意見等は優しくお願いします(ビビリ)
それではどうぞ
『私は信号機、三つの眼で人間を見守らなければならない。地面に埋め込まれた足、直角に固定された腰、人間に見えるように取り付けられた眼、信号機の全ては人間のためにある。雨が降ろうが、風が吹こうが、その宿命から逃れることは許されない』
目が開いた時、私は信号機になっていた。戸惑う私を十字路に立っていた先輩信号機たちが助けてくれたのは懐かしき思い出である。上の最初のセリフも、先輩たちがおっしゃっていたことで、最初は何も分からず素直に受け入れていた。しかし、とある日に『交通事故』とやらに遭遇したことがあって、その時の人間に「信号機死ね」と八つ当たりされたのをキッカケに、私の中で何かが弾けた。
―そうして人間を見続けること約三年、お陰様で人間が大嫌いである。―
人間とは愚かな存在だ。
私という、絶対的安全を保障する存在がいながら、傷つけあい殺しあう。
「今日も、か」
そう呟けば、私の眼はまだ赤色にも関わらず当たり前のように『横断歩道』を歩く人間ども。と、そこに車が勢いよく突っ込み、人間どもを跳ね飛ばしていく。凄まじい爆発音と黒い煙、戸惑う人々の叫び声がコントラストを作り上げ、あっという間に『地獄絵図』へ。そこに居る人間どもの運命は大きく変わるだろう、だが私にとってそんなことはどうでも良い。
「馬鹿どもが…」
最近『信号無視』というものをする人間が増えてきた。その名の通り私の存在を無視するものだが、案の定ほぼ毎日交通事故が起こっている。『人間』は『ニュース』とやらを見て『信号無視』の危険を知っているものだと思っていた。しかし、それはとんだ見当違いだ。人間という生き物は自分に関係がない出来事に関して、身をもって体験しない限り学ばないらしい。
私が赤色の眼をすれば止まり、青色の眼をすれば進む。ただそれだけの簡単な行動が何故出来ないのか。人間は色の違いすら分からないのか。また『黄色は急いで渡ってよい』と唱えている人間どもがいるらしいが、全く持って間違いだ。あくまで横断中の人間どもに言えることであり、横断すらしていない奴らが渡っていい訳がない。ましてや、私たち全員が赤い眼をしている時に横断するなど『言語道断』という言葉が似合うだろう。一度車に轢かれてしまえば良い。人間どもは油断しすぎている。《事故なんて起こるわけがない!》《誰も通っていないから大丈夫!》そう考えて渡ってしまうから先ほどの『事故』というものが起こる。気のゆるみが『事故』に繋がることを、もっと理解するべきだ。あぁ!今日もまた…
「やぁやぁ今日も、東君は文句ばっかりだねぇ」
と、向かいの西先輩。眠そうに眼を点滅させているが、この十字道路の信号機の中で最年長だ。
「文句ではありません、事実です!」
そう言って睨み付けると、西先輩はやれやれといった顔で青い瞳を車道に照らす。
「はいはい、君はいつもキレッキレだねぇ…寿命縮まるよ?」
ちなみに私は『ひがし』という方向に建てられている為、東と呼ばれている。『ひがし』と『あずま』に何の関連性があるのか分からないが…まぁいいだろう。というか、寿命も何も私は信号機だから関係のない話なのだが…。
「いやー!今日も皆立派に歩いてるねぇ!偉い偉い!」
「歩けなかったらここに来れる訳ないですよ…」
「わかって無いなぁ東君、歩けない人でもここに来れる方法あるんだよぉ?」
「そうなんですか?」
西先輩と私の日常は、西先輩が訳の分からないことを言っては、私が言葉を間に入れる。でも私には知識が足りない為、西先輩から教わる。人間風に言えば、『友人』のような『先生』のような、そんな感じだ。私と先輩では性格が違いすぎるが故に、多々反抗的になってしまうことはあるが、何も知識がない『新米』という言葉が似合う私に、人間のように自分の権力や知識を振り回さず、必要な時に必要なものを与えてくれる優しくて、凄い人なのだ。さすが、ここ周辺の信号機から尊敬されているだけある。そして私も…本人には言わないが。
季節は『春』というものになった。桜が綺麗なのは良いが、私の視覚に隠れるので少し邪魔だ。人間どもの目に入ったらどうするんだ…。
「あ、そういえば、前の事故すっかり消えたねぇ」
「どの事故ですか?」
「ほら、あの若い兄ちゃんが電柱にドーンってなった事故」
「あぁ…あの事故ですか」
前の『事故』とは、随分前に子供が道路に飛び出し、それを若い人間が庇って、前を見ていなかった車がその若い人間ごと信号機にぶつかった事故の事だろうか。あの事故は私の記憶の中で一番ひどい『事故』であった。『歩道』を走り回っている子供を注意深く見ない大人、思わず『車道』に出てしまった子供を、風のように現れた若い人間が子供を歩道側へ突き飛ばした瞬間車と接触、運転をしていた人間が一歩遅れて急ブレーキしたものの、もちろん間に合うはずもなく若い大人ごと西先輩に勢いよくぶつかったのだ。
周りに広がる赤、赤、赤、あれほど悲惨な光景を、私は見たことがない。いつもなら事故が起きても「ドンマイドンマイ!次は良いことあるさぁ」と言っていた西先輩が、あの時だけ顔の表情が消えていた。
西先輩の言葉にいつもなら、「何言ってるんですか、どうせ人間どもは同じこと繰り返すだけですよ」と返していた私も、その時ばかりは声を掛けられなかった。次の日にはまたいつもの西先輩に戻っていたが、あの時の西先輩には何が起きていたのだろうか?あの時の私は、すぐに事故に興味無くし、空を見上げていた気がする。
だから西先輩に言われるまで、元の日常になっていたことに気づかなかった。
それぐらい、信号機にとって時間が過ぎるのが早い。
ただ、眼を照らすだけなのに。
それにしても、人間どもは悲惨な『事故』が起きていることを知っているにも関わらず、何故同じことを繰り返してしまうのだろうか。現に、毎日のように『事故』が起きている。自分から死に急いでいるようなものだろう…人間はなんと愚かな生き物だ!
私の考えを言うと、決まって西先輩はこう言う。
「僕は人間のほうが羨ましいなぁ」
へラッと苦笑いを浮かべている西先輩に、いつも通りこう返す。
「私は人間なんか羨ましくありません」
そして今日もまた、眼を光らせる。
♢
少し月日が過ぎ、季節は『夏』というものになった。
『アイス』や『かき氷』を食べて歩く人間どもによって、無機質な横断歩道が少し華やかになる。見ている光景を変えることが出来ないだけに、見える変化を与えてくれるこの季節が好きだ。『夏休み』という時期に入ったからだろうか、いつもより人間どもが多いが…それより『夏』を楽しむのが先だ。
「夏の東くんはほんと、生き生きしているねぇ」
西先輩はいつもの調子で言うがどこが疲れている。それもそうだ、この季節は私たちの体を、火が噴きそうなぐらい熱くさせる、最悪の季節だからである。
「この季節だけ、人間のことが好きです」と答えると
「…君はほんと変わり者だよねぇ」
とガクッと項垂れるのも、いつもの私たちの日常だ。
今日も私たちは道を照らす。『警察』というものの存在のおかげで『信号無視』をする人間どもは減ったものの、一部の人間は変わらず『信号無視』をし続けている。そろそろ顔も覚えてきたな…。
『煙草』を吸いながら足を開いて『バイク』に乗る少し太った人間、『制服』というものを着て『スマホ』ばかり見る派手な人間、子供を『自転車』に乗せながら猛スピードで走る人間、…こいつに至っては信号すら見ていないから、タチが悪すぎる。
土地に慣れている人ほど、それが当たり前になっているのだろう。確かに私たちが立っている十字路は、車も人も全く通らない時がある。人がたくさんいる時だけ守っていれば良いだろう、と勘ぐってしまうかもしれない。しかし私は知っている。そうやって『信号無視』をしている人間が、『衝突事故』を起こしていることを。時間に追われる方が大事なのだろうか。これだから人間は…
「東…もう言うな、も、燃える…死ぬ…」
パッと前を向くと、西先輩がグルグルと目を回しいていた。私が色々思う事と、この暑さは関係ないし、ましてや信号機だから死なないけど…と思ったが、黙ることにした。確かに今日はいつもより暑い。人間のように『水浴び』とやらをしてみたいものだ…。
「西先輩は本当に暑さに弱いですね」
「逆だよぉ、君が暑さに強すぎるんだよぉ…!」
まるで『お酒』に酔っぱらったかのようにユラユラとしていて、正直あまり声を掛けたくなかったが…。はぁ…と深くため息をつき、これで根を上げていたら夏を乗り切る前に倒れますよって声を掛けようと思って口を開けた時、一人若い人間が西先輩の所にやってきた。
その若い人間は白い『ワンピース』と『麦わら帽子』をしており、手には『ヒマワリ』という花を二束持っていた。茶色、白色、黄色、そしてその人のために用意されていたであろう空から降り注ぐ太陽と、青色、
気づけば眼が奪われた。初めて人間に興味を持った瞬間である。
その若い人間はジッと道路を見つめた後、私を見つめてきた。ドキリと大きな音がした気がした。同時に、体がグラグラと煮たぎってきて、吐きそうになる。あぁ、これが西先輩の言う『死にそう』というやつなのか。これでは私も『酔っ払い』と一緒ではないか…。
眼が眩みそうになった瞬間、若い人間の眼から水を流しだした。キレイな顔がクシャッと潰れて、どんどん水が伝って、ポタポタと落ちていく。この人間は何をしているのだ?何も分からず、ただ見てしまう。
「東くんは女の子が泣いている姿を見るのが好きなの?うわ、悪趣味」
泣く?人間の目から水を流すことを『泣く』というのか?『泣く』というのは悲しんでいる時に起こる出来事だと聞いたことがあるが、この人間は何かに、悲しんでいるということか…?西先輩の言葉を無視し、私は『喉』をゴクリと鳴らしながら『女』という人間を見る。女は持っていたヒマワリを西先輩の元に一束置き、両手を合わせた。こういう光景を、私は見たことがある。確か死んだ人にする行為、例えるなら他の信号機がいなくなった時にするものと教えられた。それを聞いた時、鼻で笑った気がする。「死んだ人間が見ているはずがないのに、そんなことをする時間が勿体ない。」西先輩にそういつも通り言うはずが、女が手を合わせ続ける間、体が得体の知らない物に縛られているような感覚に陥って、口が動かなかった。この感情はなんだ?
西先輩を見ることで落ち着こうと思ったが、西先輩はさっきとは打って変わって、苦しそうな表情を浮かべながら女を見ていた。「どうしたんですか?」と言葉をぶつけても、さっきの仕返しと言わんばかりの無視である。意味が分からない。
女が横断歩道の入口に立った。私の眼が青色になったと同時に、白い脚を伸ばし横断歩道を渡る。その姿が一つの絵画のようになっていてどうしようもない興奮に襲われる。ただでさえ熱い体が、焦げそうになるのを感じる。女がこちらの足元に来たと思うと、先程と同様ヒマワリを道路に置いて手を合わせる。目から出た水はますます溢れて、顔に何通りもできていた。私に花を渡しに来たわけないよな…なんて考えてしまう私は頭が沸いているのかもしれない。
しばらくして女はスッと立ち上がる。その目は虚ろながらに私と西先輩の繋ぐ横断歩道を見ていた。今まで見てきた人間とは何かが違うような気がして、私の中で何故か胸騒ぎがした。
「誰か止めろ…危険だ…。」
案の定その予想は当たり、赤色の眼をしている西先輩をジロッと見てからその細い体を横断歩道に投げ出した。数メートル横には大型トラックという大きな物が迫って…この女!自ら命を絶つつもりだ!助けないと!体を動かそうとしたが、動かない。
「何故だ?!」
私は自分が『信号機』であること、私は人間ではないから女を救うことはできないと気付かされる。私は信号機、地面に埋め込まれた足、直角に固定された腰、人間に見えるように取り付けられた眼、私は全てが人間のためにある…はずが何もできない、何もすることができない、何も救えない…。
トラックは女に気付いていないのか着実に近づいていく。普段から聞いてきたはずの車の音が私の心臓を抉っていく。来るな、来てはいけない、この女は殺してはいけない、おい!トラックの人間!なぜ気づかない、だから人間どもは……ハッとなった。
人間は当たり前の行動が出来ず、学ばなければ分からず、そして過ちを忘れてまた同じことを繰り返す生き物だ。だが人間を救うことができるのは人間だけであって、私たちがどれだけ考えても何もできない、ただ見ることしか出来ない。
何故なら私たちは人間ではなく、『信号機』だから。
「僕は人間の方が羨ましいなぁ」と言った西先輩を思い出す。
私も人間だったら…、そう思っても所詮、信号機の私は『トラック』が『女』を引く瞬間をただ待つばかり。女はトラックを横目で確認したのち、静かに目を閉じた。目を閉じられない私はそれを見る。見たくない…やめろ…やめてくれ…!!!
『大丈夫ですよ、信号機さん』
突然、爽やかな風が私の目を撫でた。風が体をすり抜けた後、それが人間の声という事に気付かされる。何が起きたのかわからず、精一杯周りを見渡すと下に気配を感じた。見ると『女』とは違う人間が立っていた。髪が短く、体格など『女』よりしっかりしており、切れるような顔立ちの人間、『女』はいつの間にかその声の主である若い人間に抱かれていた。
『トラック』はもうとっくに過ぎていた。私は安心して腰が抜けそうになるが、抜けるはずもなく眼の色を青にするだけである。
『初めまして、いつかの事故で車と電柱に挟まれた者です』
ペコッと挨拶する若い人間に流されるまま、ペコッと頭を下げ……られないので「初めまして」とだけ伝えた。いつかの車と電柱に挟まれた事故…恐らくあの、『事故』のことだろう。その時の光景を思い出して、思わず顔をしかめてしまった。この若い人間は人間じゃない。『幽霊』なのだろう。
『そんな険しい顔しないでくだいよ、カッコイイ顔が台無しっすよ!』
人間を見つめすぎていたのか、若い人間が腹を抱えて笑い出された。突然のことで思わず、体が跳ね上がった。なんなんだコイツは…。さらに眉間にしわを寄せてしまい、また笑われた。
どう返そうか迷っていると、人間が先に言葉を放った。
『この子、俺の『恋人』なんです』
そう言って『女』を見つめる表情は、どこか寂しそうだが優しかった。『恋人』という単語に疑問を持つが、以前西先輩が「僕たちって『恋人』みたいだねぇ!」と言っていたことを思い出す。恐らく親密な関係ということなのだろう。ちなみに、気持ち悪さを感じたので「ちょっと何言ってるのか分かりません」と返して西先輩がガックリと項垂れていたのはまた別の話。
『西さーん!元気してたっすか!』
「やぁ風音くん!僕は元気だよぉ!」
なぜここに居るのだ?と声を掛けようとする前にさっきの人間の声が聞こえたので、視線をそっちに向けると西先輩と話をしていた。さすが西先輩、交友関係が広いなぁ、人間とも仲がいいの…え、知り合い?
「そうだよ?知らなかったの?僕と『風音』はホラ、『ズッ友』ってやつ!」
『ズッ友ってまず俺、死んでるし、西さん信号機だし』
「そんなの関係ない関係ない」
「もー西さんは相変わらず軽いっすねぇ!そんなだと、可愛い女の子ゲットできないっすよ?」
「大丈夫大丈夫、その時は風音君の女の子を…」
「んー?なんか言った?」
「その笑顔こわーい」
人間と先輩の話の内容がほとんど分からない私はとりあえず、先輩に「信号機は女の子とデート出来ないッス…」と伝えておいた。先輩は「あの、さり気なく現実言うのやめてくれるかな東くん…」とガックリと項垂れた。無理なものは無理なので諦めてください。
『へぇ、東さんって言うんすね!…あ、俺の名前は風音なので風音と呼んでくださいっす!』
アハハと笑っていた人間から、不意打ちな言葉にドキリと胸が鳴る。『名前』というものは知っているが、人間の名前を呼ぶのはもちろん初めてで、声が震えないように「『風音?』」言えば『はい!』と笑って返事をしてくれた。フワッと『ヒマワリ』が咲いたようなその笑顔に、『女』が何故ヒマワリを持っていたのか分かった気がした。『風音』は『ヒマワリ』がよく似合う人間だ。
「お、東くん人間嫌い治った?治った!いやー先輩嬉しいなぁウヘヘ」
「先輩、気持ち悪いのでへし折られてくれませんか?」
「ひどくない!?」
思わず私も笑みを浮かべてしまった。これが人間の力なのだろうか。
『さて……』
先ほどまでの優しい雰囲気とは打って変わり、真剣な表情になる『風音』。
『死んでる俺が何でここに居るのか、コイツが心配でたまんなかったからです』
顔を下に少し傾げ『恋人』である『女』を優しく見ながら言うが、やはり悲しそうだった。
『彼女が、俺のことを追うだろうと思ったから、それを阻止するために西さんに協力してもらって今ここに居させてもらってます。案の定自殺しようとしたわけですから、西さんには感謝しきれません』
西先輩に頭を下げる『風音』に西先輩は「ほんとヒヤヒヤしたよぉ…、でも無事でよかった」と安心した表情を浮かべていた。毎日一緒に居たのに、西先輩が遠い存在のようだ。
『風音』は少し笑い、抱きかかえていた『女』を静かに私の足元にもたれるように座らせた。『女』の頭を、愛おしそうに撫でる。時々何かを堪えるような表情を浮かべながらも、頭から手を放し、静かに立ち上がった。夏の日差しが、私たちを照らす。こんな日に限って空は雲一つない、快晴だ。『風音』は空を見上げた後、覚悟に満ち溢れた澄んだ目をこちらに向ける。
『俺は…役目を果たしました。もう、あの世に行かないといけません』
それは死んだ人間にとって当たり前のことであるが、私にとってはズンッと重たくなるような言葉だった。まだ一緒に居たい、そう思うのは西先輩も一緒で泣き声のようなものが聞こえる。おかしいな、信号機に涙などないのに。
『まだ、まだ行きたくない……、もう少しでも一緒に……!』
『風音』は誰にも涙を見せまいと、背を向けた。力強く握りしめる拳が、だらりとぶら下がっていて、やるせない気持ちがひしひしと伝わってくる。
私たちは信号機、ただ見守ることしか出来ない。
『そろそろ行かなきゃ…西さん東さん、ありがとう』
「ん……」
『風音』の声と同時に『女』がピクッと動き出した。
それが別れの合図だという事は言わなくても分かるだろう。
『風音』は握りしめた拳をほどき、振り向いた。
爽やかな風が、吹き荒れる。
『花、生きて』
今までとは比べ物にならない、満開の『ヒマワリ畑』のような笑顔を浮かべ
『世界で一番、愛してる』
泡のように消えた。
♢
「人間ってそんな悪い生き物じゃないでしょ?」
そう言った西先輩の表情はどこか晴れやかだった。
私は信号機、三つの眼で今日も人間を高いところから見守らなければならない。地面に埋め込まれた足、直角に固定された腰、人間に見えるように取り付けられた眼、信号機の全ては人間のためにある。人間は今も嫌いだ、相変わらず『信号無視』をするし、傷つけあう。だが『信号無視』をさせない様にするのも人間で、傷ついた心を癒すのも人間で、笑ったり泣いたり支えあうことができる人間が……
「そうですね、羨ましいです。けど、だからこそ『信号無視』はやめて欲しいものです」
END
いかがでしたでしょうか?
私自身、信号は守る人間です(他の事は守るかどうかは置いといて)
人や車が居ないとつい渡りたくなる気持ち、ものすごくわかります。
ですが、誰かが守らないといけないといけないのかなと思います。
これからもっと事故は増えるでしょう。
だからこそ、信号は守るべきです。
気が向いたらまた信号機の擬人化書きたいなと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました!!