act6 黒い少女
意識がはっきりした時、りさ達はグリム童話に出てきそうな 針葉樹がおいしげる森の中に立っていた。
りさと鈴奈の衣装もカントリーな感じにチェンジされていた。(美夕だけは 元のチャイナシャツとズボンだった。)
サク… サク…
どこからか足音が聞こえてくる。 それぞれが辺りを思い思いに見渡していると、木の影から 黒いずきんをかぶった 鈴奈より少し背の低い子供がこちらに向かって歩いてきた。(余談だが、鈴奈は同級生の中で一番といっていいほど小柄だ。りさは鈴奈ほどではないが、小柄だった。)
全員が子供を警戒する。
「こんにちは。あなた達もキノコ採りにきたの?」
子供は顔をあげた。女の子だった。それも、鈴奈そっくりの…。
「えっ?」
自分そっくりの女の子を見て、驚く鈴奈。 しかし、このままでは 怪しまれてしまうだろう。
「う、うん。 キノコ採りにきたんだよ。 うん。 最近ね、引っ越してきたばっかで、初めてこの森にきたんだけど、ちょっと 道に迷っちゃったみたいでぇ〜」
おとぎ話でありそうなシチュエーションを考えてでっち上げるりさ。 みんなもすぐに話を合わせる。
「そうなの。さっきから同じところをぐるぐる ぐるぐる…」
「だったら、あたしが案内してあげるよ。森を出るまでかなりかかるから、まずは 腹ごしらえでもしにうちにおいでよ。」
黒いずきんの下から明るく話す少女。
「本当? ありがとう!」
りさ達は黒い少女について行った。しばらく歩くと、小屋というのだろうか。小さいけど 小綺麗で、これまた おとぎ話の中に出てきそうな 可愛らしいログハウスが見えてきた。
「鈴奈ちゃんの夢って 童話っぽくて 可愛い雰囲気だね。」
「そうあるな。…にしても、ワタシ本気で迷子になてしまたようね。ここがどういう空間か分からなくなってしまたある。」
「え〜っ⁈ 大丈夫なの?」
りさと美夕が小声で話しているうちに、黒い少女はみんなを招き入れ、手早く灯りをつけた。
「そこの椅子に 適当に座って。今 お茶淹れるから。」
言われるがままに切り株のテーブルの周りの キノコをモチーフにした 椅子に腰掛けた。
森の中では暗くて気付かなかったが、彼女の肌は灰色だった。服も全てモノトーンで統一されている。
「鈴奈ちゃんが 赤ずきんのコスプレをして、モノクロ写真をとったってのが しっくりくる女の子ね。」
りさはつぶやき、美夕が激しく頷いていた。
黒い少女は すぐにお茶とショコラケーキを持ってきてくれた。
「私が初めて作ったケーキなの。味見もまだなんだけど、今はそれしかなくて…
遠慮せず食べてね。」
「「「いっただっきま〜すっ‼︎」」」
3人揃ってケーキを口に運ぶのを のほほんとした笑顔で見守る 黒い少女。
ケーキを飲み込んで数秒たつと、視界が真っ黒になり、意識を手放さざるをえなくなった。
…毒………⁈
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一方 その頃、深夜の住宅街を永愛は1人で歩いていた。 昼間聞いたチェーンメールをコピーし、適当な所に送りつけたのだ。 調べた住所を頼りに とある一軒家のインターホンを押すと、寝ぼけた感じのおばさんが出てきた。
“ 送る相手を間違えたかな?
でも、大丈夫!長い黒髪を下ろし、白いワンピースに着替えて 見た目は 階段に出てくる 幽霊そのもののはずなんだから。”
「こんばんは。夜分にすみません。夕方にチェーンメールを送った者です。 あなたの身体の一部をもらいに来ました。
あなたの身体のいらない部分はどこですか?」
話している間にも おばさんはうとうとしている。 念のためもう一度いっておこう。
「あなたの身体のいらない部分はどこですか?」
「内臓脂肪を程よく取りたいわよね」
「…。」
永愛は一言 すみませんでした。 といって静かに扉を閉めた。
やっぱり 送る相手を間違えたのだ。
“大丈夫 大丈夫。まだ1回目だもんね。まだ挫折するには早いもの。”
2件目へ向かおうとすると、
「勝手な事をしてくれたな。」
後ろから声をかけられた。 嫌な予感しかしない。
ゆっくり振り向くと、そこには中学生くらいに見える少年が立っていた。
「この手のチェーンメールの実行の手慣れだ。 信じてもらえないかもしれないが、このチェーンメールは我が社のオリジナルだ。変に真似をされては困る。」
そんなものに会社があったことにも驚いたが、話を聞いていくと、
亜空間にオカルト専門の会社があり、最近は子供向けのチェーンメールに手を出しているようで、亜空間の住民である彼が 入社した時、脅しの実行役に選ばれたようだ。
もしかしたら、その会社でなら 誰かを怖がらせる事が出来るかもしれない。永愛は最後の望みをかけ、彼に自分は幽霊で、願いがある事を話した。
「つまり、うちの会社に一時的に入りたい…と?」
「話がわかるじゃないですか。 迷惑にならないようにしますので どうぞお願いします」
「…分かった。上にかけ合ってみる。俺の名は九珠。あんまりバカにして呼ぶんじゃないぞ。」