世界を渡る者
夜、とある酒場
屈強な冒険者たちが集う酒場は今日も賑わっていた
その中で、その場に似つかわしくないであろう、身長160cmあるかどうかぐらいの、黒いローブでフードを深くかぶった俺が、カウンター席に座っている。
「ルイ、店の中ぐらいフードと手袋外せって何度も言ってるだろ。それにそんな物騒なもの宿屋においてこいよ」
酒場のマスターが呆れたように注意する。
「俺にしか使えないんだから物騒じゃない。それとこんなの見せられたら皆美味い酒も不味くなるだろ」
俺、ルイ・シンテックはマスターにだけ見えるように顔を隠しながらフードを脱ぐ
「こりゃひでぇ・・・」
再びフードを被り何事もなかったようにウイスキーをあおる
「しかし、そんな酷い火傷と刀傷なんで今まで黙ってたんだ?フードと手袋に関しては、何度も注意してたのに。それにフードを被っているとその傷痕がまるでなかったかのように見えるし・・・」
「言う必要がなかった、それだけだ。このローブには視覚に作用する魔法が掛けてあるから、被っていれば傷は無いようにみえるってわけだ」
俺はそう言うと立ち上がり、椅子の横に置いていた【物騒な物】もとい大きな赤黒いケースを背中に担ぐ
「なんだもう帰るのか。また明日も来るんだろう?」
「いや、マスター。今日でお別れだ」
背中越しに手をひらひらさせる
「なんだ旅にでも出るのか?この街に腰を落ち着けたのかと思ったのに。でも【テレポート】でいつでも戻ってこれるだろ?」
「ここはいいところだ。空気もいい、16で酒が飲めるし、アンタにも世話になった。ここに永住も考えたが、そうもいかない」
振り返る
「いったい何を・・・?」
「俺はこの世界を出る。だからもうこの酒場には顔を出せない」
そう言った矢先近くに座っていた筋肉質な剣士が机をバンバンたたきながら笑い出す
「シンテックどうした?漫画にでも触発されたか?世界を出るなんて気が触れたとしか思えない戯言だぞ」
その言葉に周りの冒険者たちもつられて笑いだす
「まぁ笑うのも無理はないが、俺はそもそもこの世界の人間じゃない」
笑い声がピタッと止み、はぁ!?という声が一斉に沸く
「世界を渡る者とだけ言っておく。好きに言うがいいさ。これでお別れなんだからな」
そう言うと俺は店を出た
「なんだあいつ」
「そういえばあいつの武器、もう見慣れちまったけど、この街どころか、過去に一度も見たことも聞いたこともなかったな・・・」
そういう客たちの話し声は俺に届くことはなかった
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人気のない路地裏
さて、やるか
ポケットから白いチョークを取り出し、地面にささっと魔法陣を描く
よし完成。あとは真ん中に立って魔力を流す・・・
魔法陣に魔力を流すと、魔法陣は赤く光だし、眩い光に包まれる
しばらくすると光は収まり、魔法陣と共に俺はいなくなっていた