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人気者 と 臆病者?

作者:

初めての投稿です。

「おーっす!田中、帰ろうぜ!」

「おう、今日帰りゲーセン寄らね?」


........正直、ああ言う暮らしに憧れている。気さくに友達と話し、くだらない話をしながら帰る。そんな暮らしが、普通の世の中である今、一人でみんなが帰るのを待ち、最後にとぼとぼと帰る僕は、誰から見ても異端者な筈だ。


「今日の当番、誰だっけか。えーっと........浅田?浅田なんていたか?」

「ほら、あそこで本読んでる奴。浅田学だよ。」


ほら、クラスメートまで僕の名前を覚えていない。もう7月にもなるのに。やれやれ、まあ仕方がないか。

なんせ殆ど喋らないからな。僕に絡んでくる奴といったらせいぜい........


「よーっす、学!帰ろうぜ!」


またこいつ。沢村天斗。クラスの人気者、いや、クラスだけじゃない。学年でも、先生にも、お母さん方にも、絶大の人気を誇る彼は、僕の幼馴染だ。何より僕と違って、成績も、運動も、何でもだいたい出来る。正義感も誰よりも強い。その点僕は、成績もふつう、運動は下の下、そして人と話す勇気すら持ち合わせてない始末だ。

「おい、どーしたんだよ。早く帰ろーぜ。」




「何でお前俺に構うんだよ........」

帰り道、ふと尋ねてみる。

「決まってんだろ、俺達、親友なんだからよ。」

やれやれ........これは何度言っても同じことで返されるパターンだ。これ以上は諦めるのが一番いい。

「じゃ、また明日。」

「ああ........また明日。」






翌日の昼休み........購買にパンを買いに行こうと中庭を通過しようとした。しかしーーーー


「や、やめて下さい!」

「うるせーよ、いいからとっとと来やがれ。」


あれは........3年の先輩達じゃないか。襲われてるのは........うちのクラスの女子!まずい、早く沢村君に....!




その時、僕は見てしまった。校舎の隅でこっそり、怯えながら、襲われている現場を見ている........沢村君を。何で........沢村君........信じていたのに........




小学校三年生の時、僕は、学校を止めようとした。理由は、たわいもないことだ。ただ、クラスのいじめっ子が、僕を一発殴った。僕は、この世界に失望した。誰とも極力関わらず、一切邪魔をせず、視界から外れるように生きていた。彼の邪魔になるような事は一切していなかった、なのに、彼はあやふやな理由だけで僕を殴った。その時、僕はこの世界で生きる事に疲れてしまった。こんな世界に生きていたって、いい事なんてない。あったとしても、それまでに生きてきた中での苦痛と釣り合うほどのものではない。僕は学校を止め、自殺するつもりだった。

でも、いつでも僕の隣には、沢村君がいた。沢村君が僕に構ってくるから、僕は注目の的になっていたのだろう。でも、口ではああ言ったが、僕は沢村君の事をうざったく思った事は一度もない。むしろ、彼が僕の代わりにいじめっ子を制裁してくれたから、感謝している位だ。



でも、僕の中での彼は、今、この瞬間に崩れ去った。町の人気者で、正義感が強く、僕の親友だった彼はもうどこにもいない。いるのはただ、臆病者で、我関せずとしている裏切り者の沢村天斗だけだ。

........でも、そこまで考えて、僕は気付いた。僕は、あの場面を見た時、何と思った?『早く、沢村君に........!』沢村君に?何故?これじゃあ、彼と同じじゃないか。人に任せ、自分は見ていないふりをする、沢村君や、周りの野次馬と同じだ。

気づいた時には、体が動いていた。


「やめろ!その子を離せ!」

「........あ?何だお前。」

やってしまった........!でも、後には引けない、かと言って喧嘩になって勝てる相手でもない........!

「何か言いやがれコラァ!」

腹に一発、入れられた........!でも、これ位なら......!

「おい、全員でコイツやっちまえ。」


5分くらい、一方的な暴行が続いた。その後、誰か一人が、

「チッ、もう行くぞ。」

と、呟いたのをきっかけに、退散していった。

「あの........本当にありがとう。今、保健室の先生連れてくるから、ちょっと待ってて!」

彼女はそう言って走って行った。良かった、彼女に何の怪我も無くて。



その日の帰り、彼女に教室に呼ばれた。教室に行く途中に、沢村君が立っていた。

「沢村君........なんで、あの時助けなかったの?」

「........」

「失望したよ........君........」

「........悪いな。」

彼はそう言って、去ってしまった。彼の背中は、悲しみばかりを浮かべていた。



あれから、彼と僕は一度も口を聞いていない。彼は、クラスの隅で窓の外の景色を眺めていた。僕の事は、彼女が広めたようで、僕は一躍人気者となった。




人気者が、必ずしも勇敢とは限らない。つまらない奴は、必ずしもつまらないとは限らない。 臆病者が、必ずしも臆病者とは限らない。そして、いい奴が、必ずしもいい奴とは限らない。

さぁ、貴方はどんな人?


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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告になるにゃん。 その【人→日の】帰り、彼女に だと思うのにゃ。
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